証拠金取引商法

CO2排出権.ロコ・ロンドン貴金属(商品CFDまがい)
金地金分割払い取引

 当法律事務所は,詐欺的外国為替証拠金取引商法に始まり,ロコ・ロンドン貴金属取引(商品CFDまがい取引),CO2排出権(排出量)証拠金取引,金地金分割払い(前払い)取引などといった,先物取引に類した差金決済取引を勝手に作り出すという証拠金取引商法被害群について,その商法の生起の時点から,被害の救済に積極的に取り組んできています。当法律事務所の代表は,先物取引被害全国研究会の幹事(前東京代表,前事務局長)を務め,所属弁護士は,この種事案に関する複数の書籍(取扱事件欄参照)の執筆にも参加しています。
 当法律事務所の弁護士は,これまでに極めて多数の事案を担当し,大多数の事案について被害額の8割を超える被害回復をしてきました(もっとも,近年,この種投資詐欺商法業者の財産隠匿の程度は加速度的に変質しており,業者の従業員の氏名すら虚偽であるなど,被害回復が相当に困難になりつつある状況にあることは否めません。)。かつては訴訟前の和解で終了する事案が圧倒的多数でしたが,最近では,訴訟によらなければ(適切と思われる程度の)賠償に応じない業者も多くなってきています。当事務所の弁護士が担当したこの種証拠金取引型投資詐欺商法被害の裁判例の一部は「主な担当裁判例 証拠金取引商法」に掲記してありますので,ご自身の被害との類似性や弁護士がこの種事案においてどのような主張立証を行うのか,業者がどのような反論をし,裁判所がどのような判断をしているのかを詳細に知りたい方はご参照下さい(もっとも,一般の被害者の方が専門的な裁判例などを読み込むのは大変であり,それに大きな意味があるとは思いませんから,特に無理をして読もうとする必要はありません。法律相談においても,これら法律構成を知っておくべきは弁護士なのであって,被害者がこれを知る必要はありません。)。     

1 ロコ・ロンドン貴金属取引とは

 この種の証拠金取引型詐欺商法は,平成17年7月に施行された改正金融先物取引法によって,「詐欺的外国為替証拠金取引商法」について不招請勧誘の禁止,登録制度の導入などの規制がなされたことから,「詐欺的外国為替証拠金取引」業者の多くが消滅したことを契機として生起してきました。「詐欺的外国為替証拠金取引」業者の構成員であった者らが,「ロコ・ロンドン貴金属取引」,「店頭ロンドン渡し金取引」,「貴金属スポット取引」,「CFD取引」なる私的差金決済取引を創出し,被害の拡大の傾向を見せ始めたのです。
 「ロコ・ロンドン貴金属取引」とは,海外における貴金属の現物価格を差金決済指標としてする,「私設」「海外」「現物まがい」「証拠金」取引です。「ロコ・ロンドン貴金属取引」の基本的な内容は,取引単位や証拠金金額・証拠金率に業者ごとの差異がありましたが,おおよそ次のとおりです。すなわち,顧客は,業者に対して,ロンドン渡しの金現物100トロイオンス(1トロイオンス=31.1035グラム)を1取引単位とする最低取引単位あたり50万円程度の「保証金」を支払ってロンドン渡しの金を売買したと同様の(差金決済を行う)地位を取得し,任意の時点で当該地位(ポジション)と反対の取引をすることによって生ずる観念上の差損益について差金の授受を行い,顧客は,取引を行うことにより,1取引単位当たり1日数百円程度の「スワップ」と称する「金利」を得ることができる,というものです。なお,差金決済指標となる「ロンドン渡しの金」の価格は(相対取引であるから当然といえば当然ですが),業者が任意に設定し,かつ,同取引のために決せられる必要がある「為替レート」も業者が任意に設定するものとされていました。さらに,上記「スワップ」も,業者が任意に設定するものとされていました。また,取引には手数料を要するものとされていました。このように,「ロコ・ロンドン貴金属取引」は,業者が提示する「ロンドン渡しの金現物価格」及び「ドル円為替変動」を差金決裁指標とする差金決済契約であるとみることができます。

2 この種取引の仕組み自体の違法性

 上記のような取引は,それ自体が存在を許されないものであるといわなければなりません。このことは,直感的にも,海外市場において外国通貨建てで何らかの取引を行ったものと仮定し,これにレバレッジを掛けた取引を任意に創出できることになれば,外国為替証拠金取引に対する規制は全く空文化することになってしまうことや,国内の先物取引の類似取引が禁止され,相場による差金の授受が禁止され,海外先物のノミ行為が禁止されている趣旨が全くおかされてしまうことを考えれば容易に理解しうるものと思われます。
 「ロコ・ロンドン貴金属取引」は,賭博として刑事罰を以て禁止される行為を,あたかも何らかの真っ当な金融商品取引であるかのような外観を生じさせて,高率の手数料を徴求し(貴金属の価格で利ざやを得ようとする取引をしたいというのであれば法律で整備された国内の先物取引を行えば足りるのであって,手数料も本件取引の方が割高です),一方的に証拠金を徴求し(保全の措置が法律上整備されているわけではありませんから利益金はおろか証拠金でさえ返還される保証はなく,現実に平成17年には外国為替証拠金取引業者の多くが証拠金を返還することなく破綻したことは記憶に新しいところです),差損益計算に大きな影響を及ぼす差金決済指標である外国為替及び金現物価格を一方的に業者において決定することとして(なお,業者が顧客に著しく不利益なにレートを設定することによって顧客の証拠金を不当に消滅させていた事例も確認されています),業者において業として,図利目的で,常習的に行われるものであり,そのようなものであると聞かされれば通常人でればこのような取引を行うとはおよそ考えられない「いかさま賭博」,「詐欺賭博」とでもいうほかはないものですから(したがって,取引の実際を明らかにしない詐欺的勧誘が不可避的に生じます),これをあたかも何らかの真っ当な金融商品であるかのように誤信させて一般消費者を勧誘してこれを行わせて証拠金等名下に金銭の交付を受ける行為は,公序良俗に著しく反し,私法上も不法行為を構成させるに十分な違法性を有するものです。
 裁判所も,東京高判平成20年10月30日消費者法ニュース78号278頁をはじめとして,同様の考え方を採用して業者やその構成員に賠償を命じています。
 この種の事件について相談を受けた弁護士は,このような法律構成(とその持つ意味)を十分に理解しておかなければなりません。通常の先物取引被害と同じように捉えて法律相談に応じたのでは,適切な解決は遠のくばかりになるでしょう。

3 CO2排出権取引(CO2排出権証拠金取引,CO2排出量取引)

 CO2排出権取引(CO2排出権証拠金取引,CO2排出量取引)と呼ばれる詐欺商法が被害を急増させようとしています。CO2排出権(二酸化炭素排出権)の売買をレバレッジをかけた証拠金取引としてするものであり,欧州等海外の取引所取引への仲介をすると称するものと,海外の取引所での取扱商品であることを強調してOCT(相対取引)として行うものの2つのパターンが見られます。
 平成23年1月1日に施行された商品先物取引法により上記のロコ・ロンドン貴金属取引を無許可で行うことはできなくなり,従来海外先物取引やロコロンドン貴金属取引(貴金属CFD取引)を行っていた業者が短期間で禁圧されることを予期しながら取扱っているのが実情であり,金融商品取引法にも商品先物取引法にも規律されない,法の隙間の商法となっています。
 この種商法は,エネルギー問題を云々して勧誘されることが多く,いわゆる震災関連投資詐欺に含まれないではありませんが,対象商品は何であっても良く,ただ,いわゆる旧態の先物業者の商法(証拠金取引商法。利益を強調して勧誘し,利害相反状況について言及せず,取引を開始させるや利益金を証拠金に積み増し,あるいは新たに証拠金を拠出させて取引を拡大させ,頃合いを見て損計算にして両建取引のための証拠金名下にそれまでの拠出額と同じ金額を拠出させ,そうして拠出できる限りの金額を拠出させて,頻繁過当な売買を繰り返して手数料を増大させ,あるいは取引レートや場合によっては取引の存否そのものすら仮装して証拠金を騙取する,という古典的商法です。)であるとみることができます。
 私的差金決済取引ですから,上記の東京高判平成20年10月30日ほかの法律構成がそのまま妥当し,要するに,「CO2排出権の価格」及び「ユーロ為替変動」を差金決済の指標とする差金決済契約であって,偶然の事情によって利益の得喪を争う賭博行為として違法であり,その証拠金名下に金銭を交付させる行為は私法上も違法であるということになるでしょう。「逃げ足」が早い業者が多い状況にありますが,迅速に手続を行うこと及び,持続的に自然人(役員・従業員)の責任を追及していくこと,に拠って被害回復を図るほかないでしょう。

 CO2排出権取引については,東京高判平成25年4月11日先物取引裁判例集68巻361頁が,「本件取引は,CO2排出権を顧客とY社が相対で売買する取引であり,現物の引き渡しはなく,観念上の差損金について差金決済を行うものであるが,本来的に顧客とY社の利害が対立するという構造があり,顧客の犠牲の下にY社が利得を図る危険がある取引といえる。しかも,決済指標となる為替レートや約定価格は,Y社が任意に設定するというのであるから,この危険は一層大きいことが明らかである。そうである以上,本件取引は,当然に詐欺的商法とまではいえないとしても,取引の危険や仕組みを顧客に十分に説明し,理解をさせた上で取引を勧誘し,かつ,顧客の属性としても,そのような取引を行うにふさわしい理解力,経験,財政的裏付けなどのあることが前提とされるべきであり,これに反する取引の勧誘や実行は,違法性を帯びることになると解される。」と判示したうえで,本件の具体的事情のもとでは,「本件取引は,全体として違法性が極めて高いものというべきであり,その態様から判断すると,Y社が正しく会社ぐるみで組織的に被害者から金員を拠出させてこれを領得していたということができる。」として,業者の商法自体に厳しい非難を向けています(解説記事)
 なお,平成26年12月にCO2排出権取引の仕組み自体からこの種取引が公序良俗に反するとの判断を示した裁判例もだされました(東京地判平成26年12月4日)。同判決は,違法性について,「本件取引は,被告会社が提示するECX(欧州気候取引所)及びカバー取引先における取引レートを差金決済指標とする私的な差金決済契約であり,売買差金の額は,顧客が買ったあるいは売ったとされる「CO2排出権の価格」を「ユーロ円為替レート」によって換算した額と顧客がその後に売ったあるいは買ったとされる「CO2排出権の価格」を「ユーロ円為替レート」によって換算した額との差額によって算出されるところ,そうであれば,被告会社から提示される「CO2排出権の価格」や「ユーロ円為替レート」の基準とされる為替レートは,被告会社にも原告にも予見することができず,また,その意思によって自由に支配することができないものであるから,本件取引は,偶然の事情によって利益の得喪を争うものというべきであり,賭博行為に該当して違法であり,公序良俗にも反するものというべきである。そして,本件取引の賭博行為としての違法性を阻却する事由の主張立証はない。」,「のみならず,本件取引においては,差金決済の指標となるレートが,「CO2排出権の価格」や「ユーロ円為替レート」が被告会社において一方的,恣意的に決定され,それに基づいて原告の損益が確定されていた高度の蓋然性があるというべきところ,そうであれば,本件取引は,そのような本件取引における構造的な利益相反状況や顧客に不利益になる事情を秘して行われた詐欺的な取引であるというべきである。」と判示しています。この種商法の被害救済手続の迅速,被害の終焉に寄与するものとして広く援用されることになるものと思います。
 さらに,東京高判平成28年4月13日は,現在,我が国においてCO2排出権取引商法を行っている業者は,そのほとんどがAX Markets Limitedを通じてICE(インターコンチネンタル取引所)における「ECX-EUA」(欧州気候取引所 EU域内排出権)を行う,と称するものであるところ,そのような取り次ぎがはできないと認定し,取り次ぎができないのに取り次ぎをするとして勧誘等をしたこと自体が詐欺に当たると判断しており,同商法の被害救済に広く援用されうるものであると思われます。

4 金地金分割払(前払い)取引

 金地金分割払(前払い)取引などと称し,金地金(場合によっては白金地金)を大量に売付け(たことにし),総代金の2割程度を支払わせ,残りを300回程度の分割払いとする,という現代型金現物まがい商法が跋扈の兆しを見せています。
 要するにこの取引は金地金の取引であると評価できるものではなく,これに口実を付けた投資詐欺商法であることが明らかですから,取引は絶対にするべきではありません。万一騙されてしまった場合には代金の引き落としを即時に停止し(銀行に預金口座振替解約届を提出し),業者に対しては支払,あるいは引き落とされた金員の賠償を求めるべきでしょう。
 近時跋扈の兆しを見せているこうした金地金取引,金地金売買契約まがい「取引」は,契約時の価格で金を購入したこととして,第1回分として上記のとおり相当額を支払わせた上,残額を300回程度の分割払いとし,その全額を支払って初めて金等の引き渡しを受けうることとなり,それまでの間,将来の任意の時点で中途解約をすることができ,そのときには,解約日の東京工業品取引所の価格を基準として業者が定める金額と契約時の価格との差額を精算する,というものです。例えば,5月23日に金を4キロ,1グラムあたり4243円,総購入代金1697万2000円で購入したこととし,同日280万円を支払い,残額は平成49年4月まで毎月5万3000円(2回目は7万5000円)の分割で支払い,将来の任意の時点で「中途解約」をして差金の授受をする,というものです。他に購入代金の10パーセントの手数料を支払う必要があるものとされ,年間数万円の口座管理費及び情報料等を支払うものとされています。また,価格が20%下落した場合に自動的に取引を解約するなどという「ロスカット制度」が設けられている例もあります。  このような「取引」は,「金・白金地金売買契約」などと称してはいるものの,上記の仕組みに照らして,一般に,「ロコ・ロンドン貴金属まがい取引」と称されていた取引類型とその実質は何ら異なりません。将来の金等価格によって差金決済をする私的差金決済契約であって(なお,一般に差金決済契約とは,差金の授受により契約関係から離脱できるものをいい,本件取引は明らかにこれに該当します。)「取引」の仕組み自体,取引公序に著しく反するものとして違法であり,業者が,このようなあからさまな詐欺商法を作出してこれを口実に高齢者らから金銭を交付させることは,反倫理的な不法行為であるというほかありません。
 設立されたばかりの資本金も1000万円程度しかないような業者が将来金の価格がいくら値上がりしようとも契約時の金額さえ払えば25年後に貴金属を引き渡してくれる(その客観的意思と能力がある)と期待することが常識的でないことはあまり異論のないところでしょう。清算会社制度が整備された先物取引ではなく,現物まがい取引を,無用のリスクを負担し,過大な費用を支弁して行う合理性がどこにも見いだせないこともすぐに分かる事柄です。
 業者は,そのようなことにさえ想到できない高齢者を狙って詐欺商法を敢行しているのです。収納代行業者が関与していることも多く,場合によってはその責任を追及する必要もあるでしょう。

 なお,金地金分割払(前払い)取引について,東京地判平成25年12月12日消費者法ニュース99号290頁は,「金・白金地金売買取引は,当事者が将来の一定の時期において商品及びその対価の授受を約する売買取引であって,当該売買取引の目的物となっている商品の買戻しをしたときは差金の授受によって決済することができる取引にあたるから,商品先物取引法2条3項1号に定める取引と同一の性質を有する取引であり,商品先物取引法6条1項にいう「先物取引に類似する取引」にあたる。そして,25年後の決済時又は中途解約時における金価格は,契約時には確定できない偶然の事情により定まるものであるから,被告会社が,商品先物取引法6条1項に違反して商品市場類似施設を開設し,取引を勧誘して,契約時に分割支払金として代金の一部を受領し,かつ代金の10%相当の契約手数料を受領することは,何ら正当な理由もなく賭博行為を勧誘しているにすぎず,刑法186条2項に反して賭博場を開張して利益を図っているものと認められる。したがって,このような違法な商品市場類似施設における取引であり,かつ違法な賭博にもあたる本件取引を勧誘して原告に契約を締結させた被告会社の行為は,民法709条の不法行為としての違法性を有する」と判示して業者,役員,従業員らに損害賠償を命じています。また,東京地判平成26年7月18日消費者法ニュース101号325頁は,この種取引について,詳細な検討を加え,解約時の東京商品取引所の相場と契約時のそれとの差金を取得し,これにより契約関係から離脱することができ,投機性の高い取引を内容とする先物取引に該当し,商品先物取引法の相場による賭博行為の禁止等の規定に違反すると認められるところ,取引秩序の維持及び委託者保護のための方策が講じられたものとはいえないから,公序良俗に反し違法である,としています。迅速な被害回復のために有用な判決ですから,多くの弁護士に早期に周知されることを期待したいところです。