5.サクラサイト業者の収納代行業者

(東京地判平成29年5月10日)

 「本体」である詐欺商法は,サクラサイト詐欺商法である。被害の態様は,いわゆるサクラであるニックネーム「IT企業会長A」なる名称の会員から,「私が譲渡したポイントを一回の手続きで換金を行って個人情報も受け取ってくれませんか?」などのメッセージを受け,本件サイト運営者からも同内容のメッセージを受けたことから,同ポイント等を受け取りたいという旨の返信をし,その後,ポイントを換金するための手続のために被告ら口座に振込みをした」,「いわゆるサクラであるニックネーム「理事長B」なる名称の会員からも,8500万円を無償で贈与したいなどとするメッセージを受け取り,同会員に会いたいと返信すると,同会員から「待ち合わせ場所が文字化けしており,文字化けを解除するために本件ポイントを購入して一定の合言葉を本件サイトに送信する必要がある」旨のメッセージを受け,またいわゆるサクラであるニックネーム「A」なる名称の会員からも文字化け解除の手続を要求するメッセージを受け,その後被告ら口座に送金するなどした」というものである。本判決は,「本件サイトは,いわゆるサクラサイトであり,本件サイト運営者は,自ら又はいわゆるサクラであるAらを使って,原告に対して資金供与が受けられる旨の虚偽のメッセージを送信し,それを閲覧した原告をしてその旨誤信させ,ポイント購入料金名下に多額の金員を支払わせたいわゆるサクラサイト商法により,原告に対する詐欺を行っていた」と簡潔かつ適切に断じている。
 その上で,収納代行業者である被告らについて,
 「被告A及び被告A代表は,詐欺を行ったとする本件サイト運営者の本人確認資料を契約締結時に確認したと主張し,被告A代表本人も,本人確認書類については,契約締結後の現金授受の際に,ミルリッチ社の外国語の会社謄本を受け取って確認したとか,本件契約締結に至るメールのやり取りがあった日に知り合いの弁護士に契約締結が問題ないかどうか確認したなどとこれに沿った供述をする。しかし,被告A代表本人の供述によっても,そもそも契約締結に先立っては何らの本人確認も行われておらず,被告A代表が弁護士に相談したという供述も具体性に欠け,その後の現金授受時に受け取ったという書類の原本についても,どのようなものだったのか明確でなく,その控えなども取っていないということであって,その後の経緯等にもかんがみると,その供述は信用できない。
 また,被告A及び被告A代表は,本件サイト運営者の詐欺行為を全く知らなかったと主張し,被告A代表本人もこれに沿った供述をする。しかし,本件詐欺当時,既に,振り込め詐欺の「出し子」に関する報道も多く行われていた中で,本件サイト運営者の実体やルークなる者の素性もよく確認しないまま,犯罪収益移転防止法により罰則をもって禁止されている,第三者へ有償によって口座提供するという契約に至る動機・経緯自体が怪しいものである上,そこに振り込まれた現金を引き出してはこれを交付するという業務自体に何の問題も感じなかったというのは不自然である。また,被告A代表は,本件サイト運営者に対する金員の交付を現金での受け渡しで行い,その受渡しも,本件サイト運営者の担当者とは,新宿駅の喫煙所で待ち会わせ,その担当者の名前は「ヤマダ」であったというものの,正確な氏名も分からず,本人確認等もしなかったと供述するが,そもそも,紙袋に多額の現金を入れて,新宿駅の喫煙所で待ち合わせ,口座から引き出した金額の額の確認をどのようにしたか明らかではなく,また,引き出した金額から手数料を引いた分をどのように手渡したかも明らかではなく,さらに,待ち合わせに利用したと思われる携帯電話の電話番号が第三者のものであったことから,果たして待ち合わせをした上で,上記受け渡しが行われたのかどうかも明らかではなく,このような方法自体が,振り込め詐欺を容易に想起させるものであって,被告A代表において,自分がしている行為が,いわゆる振り込め詐欺における現金授受であると認識できないはずはないといわざるを得ない。さらに旧A口座が凍結された後,すかさず新A口座を提供するなどしていたことにもかんがみると,被告A及び被告代表は,自らの行為が,振り込め詐欺における「出し子」であることについては,十分認識しており,まさに,被告A及び被告A代表が本件サイト運営者と共謀して詐欺行為を行っていたものと認められるものであって,被告A及び被告A代表の主張は採用できない。
 被告B及び被告B代表は,被告Bがあくまで収納代行業としての職務を忠実に履行していただけで,不正出金などもしていないと主張する。
 しかし,収納代行業者が,振り込まれた金員を頻回にわたりわざわざ現金で引き出した上で,依頼者に現金で手渡すなどという業務をすることが一般的なものとはいえず,本件詐欺当時に,既に振り込め詐欺の「出し子」に関する報道も多く行われていた中で,被告Bと本件サイト運営者との契約に至る経緯も明らかではなく,本件サイト運営者の実体が不明であるにもかかわらず,そういう者に対して,犯罪収益移転防止法において罰則をもって禁じられている,第三者へ有償によって口座を提供して,そこに振り込まれた現金を引き出しては,交付するという業務自体が不自然であり,被告Bによる口座提供が違法に行われたものというほかない。被告B代表及び被告Bは,被告Bの本件サイト運営者との契約書や本件サイト運営者とのメールのやり取りの記録については存在したと主張し,これに沿った被告B代表の陳述書を提出するが,何ら具体的なものではなく,被告Bによる口座提供が違法に行われたという前期説示を左右するものではない。被告B代表は,本件サイト運営者に関する収納代行について,「ソーシャルネットワークサービスに関わる事業の収納代行」であるとしか聞いてなかったし,犯罪行為に加担するわけにいかないことに理解していたため,インターネットを巡回するなどして情報収集に努め,そこまでしてもなお本件サイト運営者が犯罪に関与している可能性を示す材料はなかったのであるから,不法行為責任を問うことはできないと主張し,ソーシャルネットワークサービスに関わる事業の収納代行であるとの説明を受けたという被告B代表の陳述書を提出する。しかし,同陳述書の内容は何ら具体的なものではなく,仮に,そのような説明があったとしても,それはすなわち口座提供先に代わって代金を受領する業務として違法なるものといえ,その契約のもとで,被告B代表は,頻繁に現金を出金し,それを本件サイト運営者に手渡していたというのであるから,被告B代表としては,こうした自らの行為が,いわゆる振り込め詐欺の「出し子」にあたることについては十分認識していたものといえるのであって,被告B及び被告B代表は,まさに本件サイト運営者と一体となって詐欺行為を行っていたものと認めるべきであって,被告B及び被告B代表の上記主張は採用できない」と判示している。
 収納代行業者(としての関与のみを装う業者を含む)について,詳細な事実認定をしてその責任を肯定したものであり,収納代行業者の責任を肯定する裁判例がなかなか見られない中で,現実の被害回復に資するものとして,また「収納代行」や「決済代行」業務のあり方に警鐘を鳴らすものとして,実務上参照価値の高いものと考える。

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1.日興グランダム
(東京地方裁判所平成19年11月30日判決)
未公開株商法の違法性について説得的に判示するもの 2.イージーモダンワークス
(東京地方裁判所平成22年6月28日判決)
未公開株商法における株式発行組織の責任等について 3.カンボジア開発合同会社(旧TAKE合同会社),HUMAN KNOWLEDGE(旧HK INVESTMENT),パイオニアワールド
(東京地方裁判所平成24年1月25日判決)
詐欺商法に使用された携帯電話のレンタル業者の責任を認めたもの 4.エスジーエス
(東京地方裁判所平成23年12月21日判決)
劇場型社債商法について様々な論点について説得的な判示がある 5.サクラサイト業者の収納代行業者
(東京地判平成29年5月10日)
サクラサイト詐欺商法に収納代行業者として関与した業者らに共同不法行為責任が認められた事例 6.口座開設関与者の責任
(東京地方裁判所平成28年3月23日)
詐欺商法(ロト6詐欺)に用いられた銀行口座を開設するにあたって内職のために必要であると言われて本人確認資料等を送付し,届いた郵便物を転送するという「内職」をしていた者ら(その他の関与態様の者もある)に対し,口座開設の幇助をしている認識がなくとも,自らの行為が何らかの違法行為に使われている可能性が高いことを容易に知り得たとして損害賠償を命じた事例 7.尚未,ロングテイル
(東京高等裁判所平成28年4月20日判決)
結婚紹介サイトで知り合った女性から出資,社債・株式取得名目で金銭を交付させられた事案でデート商法としての違法性が認定された事例 8.エス・アンド・エスエンジニアリング
(東京高等裁判所平成24年10月25日判決,東京地方裁判所平成24年3月2日判決)
杜撰な1審判決を破棄したもの 9.未来ねっと
(東京地方裁判所立川支部平成24年3月22日判決)
未公開株商法において第三者の詐欺という法律構成を採用したもの 10.ミニッツカンパニー
(東京高等裁判所平成25年4月24日判決)
資金移転組織間の共同不法行為責任を肯定したもの 11.大雪山合同会社
(東京地方裁判所平成24年8月10日判決)
首謀者である会社設立行為者の責任 12.真匡会
(東京地方裁判所平成27年3月27日判決)
医療ないし医療法人に対する高齢者の高い信頼を利用して広く被害を多発させ,刑事事件にも発展した医療法人社団真匡会の医療機関債販売事案について,真匡会の代表理事長らの責任を認め,過失相殺を否定して損害賠償を命じたもの 13.ELストリーム
(東京地方裁判所平成25年11月26日判決)
未公開株式の発行会社の役員の責任を詳細な事実認定を基礎に肯定したもの 14.マリン技研
(東京地方裁判所平成24年11月15日判決)
請求が認められることが必ずしも容易ではなかった少し古い時期の未公開株発行会社の責任に関するもの 15.アグリ・ヴァンティアン
(1事件:東京地方裁判所平成26年10月16日判決,2事件:東京地方裁判所平成28年3月15日判決)
一応の実業らしきものは行われている業者が自社の未公開株を販売した事案について株式の評価額の算定が不合理であるなどとして名目的であると主張した役員らの損害賠償責任を肯定した事例 16.長浜バイオラボラトリー(DNAセキュリティー研究所)
(東京地方裁判所平成24年12月25日判決)
自社株販売型の未公開株商法について発行会社の関与を認定したもの。配当を損害から控除していない 17.エコスパートナー
(東京地方裁判所平成25年3月25日判決)
未公開株商法における資金移転行為関与者の責任 18.ダイア・アイ・コム
(東京地方裁判所平成25年3月25日判決)
未公開株商法について役員の辞任している旨の主張を排斥したもの 19.H4O
(東京高等裁判所平成24年2月29日判決,東京地方裁判所平成23年2月9日判決)
自社株販売型の未公開株商法について詳細な事実認定をして発行会社関係者の責任を肯定している 20.ランサーテクノロジー
(東京地方裁判所平成22年12月22日判決,東京高等裁判所平成23年6月8日判決)
未公開株商法に必要な道具(未公開株式,携帯電話)の提供に関与した者について,「幇助」責任を認めたもの 21.DNAソリューションほか
(東京地方裁判所平成23年1月27日判決)
自社株販売型の未公開株商法の発行会社関係者の責任についてのリーディングケース 22.田村
(東京地方裁判所平成24年1月16日判決)
未公開株の発行会社関係者の責任 23.アドメイン
(東京地方裁判所平成22年2月9日判決)
未公開株の発行会社関係者の責任について,販売行為者の行為が具体的には判明しない事案で説得的な判時をして責任を認めたもの 24.イーマーケティング
(東京地方裁判所平成23年11月30日判決)
未公開株発行会社関係者らの責任について比較的詳細な検討をしている 25.ヒューマンユニテック,ランサーテクノロジー
(東京地方裁判所平成23年2月24日判決)
未公開株商法への関与を否定していた発行会社及びその取締役らについて,調査嘱託の結果や関係証拠を比較的詳細に摘示してその関与を認定したもの 26.アルメデコム・インデックス投資事業有限責任組合
(東京地方裁判所平成23年2月23日判決)
買取仮装型社債まがい商法の社債発行会社関係者の責任 27.ランサーテクノロジー
(東京地方裁判所平成23年3月3日判決)
自社株販売型の未公開株商法の発行会社関係者の責任 28.七海ホールディングス
(東京地方裁判所平成23年2月3日判決)
自社株販売型の未公開株商法の発行会社関係者の責任 29.DNAソリューション
(東京地方裁判所平成23年2月16日判決)
自社株販売型の未公開株商法の発行会社関係者の責任 30.アドバントレード
(東京地方裁判所平成20年4月11日判決,東京高等裁判所平成20年7月31日判決)
未公開株商法の名目的代表取締役の責任。弁護士費用についての認定のあり方に疑問を呈してした控訴審の判決 31.コンチネンタル・ウェイ,フロンティア,コンチネンタル・エム・ケー・マネージメント(東京地方裁判所平成19年12月13日判決) 未公開株商法を公序良俗に反する取引であると判示している 32.日興グランダム
(東京地方裁判所平成20年6月20日判決,東京高等裁判所平成21年1月21日判決)
未公開株販売業者らの責任。原告(被害者)は業者の従業員であった 33.イージーモダンワークス
(東京地方裁判所平成21年3月18日判決)
自社株販売型の未公開株商法の発行会社関係者の責任。換価価値がないとして損益相殺を否定している 34.イー・マーケティング
(東京地方裁判所平成21年7月15日判決)
自社株販売型の未公開株商法の発行会社関係者の責任 35.新日本バイオシステムズ
(東京地方裁判所平成22年7月2日判決)
未公開株商法業者の名目的取締役について会社の実情を知らないこと自体に重過失があるとしたもの 36.植物燃料投資事業組合,エスポインベストメント
(東京地方裁判所平成22年10月29日判決)
未公開株の販売会社に株式を投資事業組合員を通じて譲渡した会社について幇助責任を認めたもの 37.マーケットトラスティ
(東京高等裁判所平成22年8月4日判決,東京地方裁判所平成22年3月26日判決)
匿名組合契約商法業者の取締役らの責任。役員責任と弁護士費用相当損害金の請求の可否 38.エイワンジャパン
(東京地方裁判所平成20年7月11日判決)
未公開株商法の名目的代表取締役の責任 39.コンチネンタル・ウェイ
(東京地方裁判所平成19年8月24日判決)
未公開株商法について名目的取締役であるとの主張を排斥したもの 40.サクセスジャパン
(東京地方裁判所平成19年5月28日判決)
投資事業組合の形態を採用して未公開株商法を行っていた業者らの責任 41.アドバントレード
(東京地方裁判所平成19年5月22日判決,東京高等裁判所平成19年11月28日判決)
未公開株の発行会社らの責任 42.さくらキャピタル
(東京地方裁判所平成19年1月31日判決)
未公開株商法業者の取締役の義務を尽くした旨の主張を排斥したもの 43.サクセスジャパン
(東京地方裁判所平成18年12月26日判決)
投資事業組合の形態を採用して未公開株商法を行っていた業者らの責任 44.ウィンザージャパン
(東京地方裁判所平成18年9月21日判決)
未公開株商法に関する初期の判決 45.アルゴインベストメント
(東京地方裁判所平成20年6月20日判決)
投資事業有限責任組合の形態を採用して未公開株商法を行っていた業者らの責任