7.訴えの提起における当事者の特定・住所地の記載されていない債務名義の強制執行の方法等

(東京高等裁判所平成21年12月25日判決ほか)

 最後の住所地が不明である当事者について特定を欠くとして訴えを却下した判決・訴えを却下した決定を取り消した高裁の判決・決定
 住居所が不明である場合には公示送達によるしかない。最後の住所地が判明する場合にはその表示をすれば当事者の特定に欠けるとされることはないが,最後の住所地も判明しない場合(詐欺商法事案ではそのような場合がほとんどである)には当事者の表示欄には「住居所不明,最後の就業場所○○,氏名」という記載をしたうえ,請求の原因欄等をも併せてみれば当事者が特定されているといい得れば足りる(実質的表示説)。東京高判平成21年12月25日は被告の特定がされていないという不適法を補正することができないとして訴えを却下した原判決を取消して事件を原審に差し戻したものであり,訴状を却下した原命令を取り消した東京高決平成22年8月10日と併せてこの種手続的混乱の早期解消に資するものと思われる。
 なお,このようにして得た債務名義に基づく強制執行には,なお,複雑な問題がある。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg 東京高等裁判所平成21年12月25日判決
⇒先物取引被害裁判例集58巻167頁
⇒判例タイムズ1329号263頁
⇒被害回復36頁

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg 東京高等裁判所平成22年8月10日決定
⇒証券取引被害判例セレクト38巻248頁
⇒被害回復67頁

東京地方裁判所平成23年11月21日判決

 訴状等の公示送達による送達を経て,被告の最後の住所地が不明である判決がなされた場合であって,後に被告の住所地が判明した場合に,如何にして判決と強制執行手続を連結させるべきかという,これまで正面から議論されてこなかった論点に関するもの。
 このような場合には,執行裁判所が債務名義に記載された被告と強制執行手続における債務者の同一性を判断して強制執行手続の許否を決する,本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には更正決定をする,本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には新たに判明した住所地を付記した執行文を付与するが,その手続を執行文付与の申立てによってする,本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には新たに判明した住所地を付記した執行文を付与するが,その手続を執行文付与の訴えによってする,新たに住所地が判明した者に対する新たな訴えの提起による,という5つの方法(のいずれか1つまたは複数の方法が選択的に採りうるものとされること)が考えられるのではないかと思われるが,私見としては,執行文付与の訴えと,新たな給付の訴えが認められるべきものであると考える。
 金銭請求と執行文の付与を選択的に求めたのに対して,本判決は,(判決書の理由は簡潔なもので,確定判決があるのに重ねて給付判決を求めることに訴えの利益があるのかという問題があり得ることについてどのような検討がなされたのかは必ずしも判然としないものの),結論として,このような場合に給付判決を求める利益を肯定したものであることは明らかであり,実務的には非常に興味深いものと感じられる。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)
⇒先物取引裁判例集64巻439頁
⇒消費者法ニュース91号336頁
1.弁護士会照会に対する報告義務
(東京高等裁判所平成22年9月29日判決ほか)
2.ソフトバンクモバイルの調査嘱託に対する回答拒否事件
(東京地方裁判所平成24年5月22日判決,東京高等裁判所平成24年10月24日判決)
3.保険証券番号不特定執行
(東京高等裁判所平成22年9月8日決定)
4.仮装離婚と財産分与の虚偽表示による無効・債権者代位による不動産移転登記抹消登記手続請求
(東京地方裁判所平成25年9月2日判決,東京高等裁判所平成26年3月18日判決)
詐欺的業者の首謀者が妻との離婚を仮装して財産分与をした事案について,離婚及び財産分与は通謀虚偽表示により無効であるとして債権者代位により居宅不動産の所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した事例 5.預金にかかる第三者異議訴訟
(東京高等裁判所令和元年11月20日判決,東京地方裁判所令和元年6月26日判決)
第三者異議訴訟において預金が名義人に帰属すると判断された事例 6.判決確定後の被告の住所判明と更正決定
(東京地方裁判所令和元年11月28日決定)
判決確定後に被告の住所が判明した場合にこれを併記した更正決定例 7.訴えの提起における当事者の特定・住所地の記載されていない債務名義の強制執行の方法等
(東京高等裁判所平成21年12月25日判決ほか)
8.詐欺商法業者の代理人弁護士の預かり金に対する強制執行を認めた事例
(東京地判平成29年7月25日,東京高判平成30年2月21日)
9.金融商品取引業者と取引履歴の開示
(東京地方裁判所平成20年9月12日決定ほか)
10.詐欺的取引と裁判管轄(移送の可否)
(東京高等裁判所平成23年6月1日決定)
11.支店不特定執行
(東京高等裁判所平成23年3月30日決定ほか)
12.支店不特定執行(2)
(東京高等裁判所平成26年6月3日決定)
13.預金債権の時間的包括的執行
(奈良地方裁判所平成21年3月5日決定)
14.詐害行為取消訴訟
(山形地方裁判所平成19年3月9日判決)