2.オービット・キャピタル・マネジメント

(東京地方裁判所平成17年2月24日判決)

 80歳の独居高齢者の海外通貨先物オプション取引について,適合性原則違反等を認めて損害賠償請求を認容した事例。訴訟提起前に本人が和解契約をしていた点,判決言渡予定期日の2日前に業者が入院中の被害者のもとに押しかけて訴え取下書などを書かせるといった常軌を逸した判決回避の手段に出た点に大きな特徴がある。業者の行為を詐欺行為と紙一重であると厳しく非難し,過失相殺をせず,通例に比して大きな割合の弁護士費用相当損害金の請求を認容した。

 80歳の高齢者が,海外市場における通貨先物のポジションを原資産とするオプション取引によって老後の生活資金のほとんど全てを奪われ,楽しみにしていた友人と一緒の老人ホームに入るというささやかな夢を破壊された。被害者は自ら業者と交渉をしたが太刀打ちができるものではなく,被害金額の1割を受領するという内容で和解をしてしまっていた。勧誘・受託行為に顕著な違法があることは当然であり,被害者自らが締結した和解合意書の効力も否定されるべきであるとして訴訟を追行した。

 ところが,判決言渡し予定期日の2日前に業者の男らが入院中の被害者のもとに押しかけ,弁護士解任届,和解契約書,訴え取下同意書を被害者に書かせてこれを裁判所に提出するという暴挙に出た。本件業者は豊田商事の残党らが運営していたものであり,やっていいことといけないことの区別をきちんと付けることを期待することもできないかもしれないが,このような行為が許されて良いはずが無い。法律上,訴えの取下げなどの訴訟行為は,「刑事上罰すべき他人の行為に基づく場合」に限ってその効力が否定しうるものとされているところ,本判決は,「かかる行為は訴訟上の信義に著しく反するものというべきであり,そのような行為によってもたらされたものというべき本件訴え取下げを有効と見ることは著しく正義に反する。」とし,業者の行為を「詐欺行為と紙一重のものとさえいえる」と厳しく非難して,被害者の主張を全部採用し,弁護士費用相当損害金を含む損害の全額について損害賠償請求を認容した。私にとって,裁判所がこれほど「信頼に足りる」と感じられたことはない。非常にうれしい判決だったので,判決文を受け取った日には枕元において寝た。

 なお,同社は,「東京プリンシパル証券」(驚くべきことに証券業登録を経たのである。行政の審査能力の程度が推して知れる。),「東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング」と名称を変更し,私募ファンドなどを取り扱っていたようであるが,平成22年3月にようやく強制捜査を受け,消滅した。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(業者ら控訴,和解)
⇒先物取引裁判例集40巻113頁

1.カネツ商事
(東京地方裁判所平成21年10月6日判決,東京高等裁判所平成22年3月17日判決)
先物取引被害について過失相殺を否定して全部賠償を命じた控訴審判決 2.オービット・キャピタル・マネジメント(東京地方裁判所平成17年2月24日判決)訴訟係属中に被害者から訴え取下書を徴求して提出した業者の行為を正義に反するとして訴えの取下の効果を否定したもの
3.オリオン交易・カネツ商事(東京地方裁判所平成19年1月22日判決) 先物取引被害について客観的取引履歴から説得的に違法性を見いだすもの 4.KOYO証券(東京地方裁判所平成28年5月23日判決) 株価指数証拠金取引(くりっく株365)について説明義務違反,過当売買の勧誘等の違法性を認め,過失相殺を否定して損害賠償請求を全部認容した事例 5.第一商品(東京高等裁判所平成26年7月17日判決) 控訴審から委任を受けた事件について控訴審で逆転一部勝訴したもの 6.カネツ商事,カネツFX証券(東京地方裁判所平成25年8月29日判決) 精神疾患を有していた被害者について損害賠償請求を全部認容したもの 7.コメックス(東京地方裁判所平成22年5月25日判決) 認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 8.第一商品
(東京地方裁判所平成26年3月24日判決,東京高等裁判所平成26年10月8日判決)
顧客が取引口座申込書に,自己の資産や収入と大きく相違する資産及び収入の金額を自らの一存で記載する理由は考えがたいと判示するもの 9.KOYO証券
(東京地方裁判所平成27年5月28日,東京高等裁判所平成27年10月21日)
スマートCX取引を契機とした不招請勧誘により開始された商品先物取引について過失相殺を否定して損害の全部の賠償を命じたもの 10.第一商品
(東京高等裁判所平成25年3月28日判決,東京地方裁判所平成24年11月2日判決)
被害者の病歴を確認するべきであるとする指摘,平行して行わされていたFX取引と合わせて新規委託者保護義務違反を認めているところが有意である 11.第一商品
(東京地方裁判所平成22年10月29日判決,東京高等裁判所平成23年4月27日判決)
金現物取引に端を発する被害。過失相殺を2割にとどめている 12.岡藤商事
(東京地方裁判所平成24年3月1日判決,東京高等裁判所平成24年6月27日判決)
複数の先物取引の経験を有する壮年者について,借入を始めた後の取引について適合性原則違反を認め,取引の全体について客観的履歴から違法性を認めたもの 13.オプションズ(東京地方裁判所平成23年7月15日判決) 海外先物オプション取引被害事案。先物取引の経験を「被害の経験」であると評価して過失相殺に結びつけていない 14.Systematic Trading Solution(Japan)(東京地方裁判所平成20年5月30日判決) 海外先物取引被害事案 15.エー・シー・イー・インターナショナル(東京地方裁判所平成17年10月25日判決) 海外先物オプション取引被害事案。詳細な事実認定を基礎にして業者の体質自体に厳しい非難を向けている 16.小林洋行(東京地方裁判所平成17年12月20日判決) 被害に引き込まれている被害者の状況を正解し,過失相殺を2割にとどめている 17.オリオン交易(東京地方裁判所平成18年3月29日判決) 先物業者の訴訟追行態度に悪質さがにじみ出た事案。過失相殺を否定している 18.C&Pインデックス(東京地方裁判所平成17年3月4日判決) 海外先物オプション取引被害事案。業者の体質に厳しい非難を向けている 19.大起産業
(東京高等裁判所平成18年11月15日判決,東京地方裁判所平成18年6月5日判決)
自己以外の資金を用いて鞘取取引を開始させられた事案 20.バリオン(東京地方裁判所平成23年8月31日判決) 海外先物取引被害事案。管理担当者や初回入金までしか関与していない者に責任を認めている。先物取引の経験を「被害の経験」と位置付けて適合性原則違反を肯定する事情として評価している 21.カネツ商事
(東京地方裁判所平成19年7月23日判決,東京高等裁判所平成20年1月24日判決)
1審は過失相殺を否定したが,控訴審によって過失相殺がされた事例 22.PCSJ(東京地方裁判所平成22年10月26日判決) 海外先物取引被害事案。向かい玉に関する説明義務違反を認めている 23.日本インベストメントプラザ(東京地方裁判所平成21年6月25日判決) 海外先物取引被害事案についてのみ行為の違法性を認めたもの