19.C&Pインデックス

(東京地方裁判所平成17年3月4日判決)

 80歳の独居高齢者の海外商品先物オプション取引被害事案について,適合性原則違反,説明義務違反など一体的不法行為を構成させる違法事由を認め,杜撰な勧誘行為をするのは被告会社の体質ともいうべきものと窺われるとして,1割の過失相殺をして損害賠償請求を認容した事例

 80歳の本当に人の良いおばあさんが,ふとんや浄水器などの次々販売で老後の生活資金の大半を奪われ,最後に海外市場における商品先物のポジションを原資産とするオプション取引によって老後の生活資金の全てを奪われてしまったという事案。判決は被害者の主張をほとんど全て採用して損害賠償請求を認容し,現実の被害回復は損失金額を上回ることにはなった。しかし,80年間誠実に生きてきた高齢者に対して,判決が,「人に大金を渡す時には気をつけなければならない」旨述べて1割の過失相殺をしたということには,違和感を禁じえない。80歳の高齢者に,一体今更何を「説教」しようというのか。高齢者は,ただ,人を信じればよい。
 被害者は,「ウコン」と「イラブ(ウミヘビ)」を愛飲し,私にとってはだまされて買わされたと感じられる「浄水器」を愛用する,元気で明るく気丈なおばあさんだった。事件が終了した時には,真剣な顔をしてわざわざ椅子からおり,土下座をされたので,びっくりして私も一緒に土下座のし合いをした。高齢者は,弱々しく見えるときがある反面,あるときには凛とした美しさを見せる。「子供しかるな来た道じゃ,老人泣かすな行く道じゃ」などといわれることがあるが,子供をしかるのと老人を泣かせるのは次元が違う。

 人を信じることは「悪」であるはずがなく,現に,「私は頼まれれば何にだってはんこ押しますよ」と法廷で言い切った被害者の顔には,いやしさのかけらも無かった。人間生活の営みをいびつにする悪質業者の存在ゆえに,人を信じるという「自然」な行為をあたかも「悪いこと」であるといわなければならなかったり,高齢者に「人を信じるな」といわなければならないとすれば,それは悲しいことである。
 我々法曹が,本件がごとき詐欺被害を目の前にしたとき,なすべきことは「悪者」に対する圧倒的非難であり,ほんの少しでも高齢者の尊厳を奪うかのような「人を信じたことへの非難」をするべきではないと思う。本判決は,「このような杜撰な勧誘行為をするのは,被告会社の体質ともいうべきものと窺われる。」と業者を厳しく非難し,請求のほとんどを認容したが,1割の過失相殺をしたことに,私は今なお強い違和感を禁じえない。なお,本件では,判決確定後も任意の支払を得ることができず,動産執行等の手続を採ってようやく回収を見た。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)
⇒先物取引裁判例集39巻524頁

1.カネツ商事
(東京地方裁判所平成21年10月6日判決,東京高等裁判所平成22年3月17日判決)
先物取引被害について過失相殺を否定して全部賠償を命じた控訴審判決 2.オービット・キャピタル・マネジメント(東京地方裁判所平成17年2月24日判決)訴訟係属中に被害者から訴え取下書を徴求して提出した業者の行為を正義に反するとして訴えの取下の効果を否定したもの
3.オリオン交易・カネツ商事(東京地方裁判所平成19年1月22日判決) 先物取引被害について客観的取引履歴から説得的に違法性を見いだすもの 4.KOYO証券(東京地方裁判所平成28年5月23日判決) 株価指数証拠金取引(くりっく株365)について説明義務違反,過当売買の勧誘等の違法性を認め,過失相殺を否定して損害賠償請求を全部認容した事例 5.第一商品(東京高等裁判所平成26年7月17日判決) 控訴審から委任を受けた事件について控訴審で逆転一部勝訴したもの 6.カネツ商事,カネツFX証券(東京地方裁判所平成25年8月29日判決) 精神疾患を有していた被害者について損害賠償請求を全部認容したもの 7.コメックス(東京地方裁判所平成22年5月25日判決) 認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 8.豊商事
(東京地方裁判所平成29年8月9日判決)
株価指数証拠金取引(くりっく株365。顧客自身がインターネットで注文する形式)と商品先物取引の両方について説明義務違反,断定的判断の提供の違法性を認めた事例 9.第一商品
(東京地方裁判所平成26年3月24日判決,東京高等裁判所平成26年10月8日判決)
顧客が取引口座申込書に,自己の資産や収入と大きく相違する資産及び収入の金額を自らの一存で記載する理由は考えがたいと判示するもの 10.KOYO証券
(東京地方裁判所平成27年5月28日,東京高等裁判所平成27年10月21日)
スマートCX取引を契機とした不招請勧誘により開始された商品先物取引について過失相殺を否定して損害の全部の賠償を命じたもの 11.第一商品
(東京高等裁判所平成25年3月28日判決,東京地方裁判所平成24年11月2日判決)
被害者の病歴を確認するべきであるとする指摘,平行して行わされていたFX取引と合わせて新規委託者保護義務違反を認めているところが有意である 12.第一商品
(東京地方裁判所平成22年10月29日判決,東京高等裁判所平成23年4月27日判決)
金現物取引に端を発する被害。過失相殺を2割にとどめている 13.岡藤商事
(東京地方裁判所平成24年3月1日判決,東京高等裁判所平成24年6月27日判決)
複数の先物取引の経験を有する壮年者について,借入を始めた後の取引について適合性原則違反を認め,取引の全体について客観的履歴から違法性を認めたもの 14.オプションズ(東京地方裁判所平成23年7月15日判決) 海外先物オプション取引被害事案。先物取引の経験を「被害の経験」であると評価して過失相殺に結びつけていない 15.Systematic Trading Solution(Japan)(東京地方裁判所平成20年5月30日判決) 海外先物取引被害事案 16.エー・シー・イー・インターナショナル(東京地方裁判所平成17年10月25日判決) 海外先物オプション取引被害事案。詳細な事実認定を基礎にして業者の体質自体に厳しい非難を向けている 17.小林洋行(東京地方裁判所平成17年12月20日判決) 被害に引き込まれている被害者の状況を正解し,過失相殺を2割にとどめている 18.オリオン交易(東京地方裁判所平成18年3月29日判決) 先物業者の訴訟追行態度に悪質さがにじみ出た事案。過失相殺を否定している 19.C&Pインデックス(東京地方裁判所平成17年3月4日判決) 海外先物オプション取引被害事案。業者の体質に厳しい非難を向けている 20.大起産業
(東京高等裁判所平成18年11月15日判決,東京地方裁判所平成18年6月5日判決)
自己以外の資金を用いて鞘取取引を開始させられた事案 21.バリオン(東京地方裁判所平成23年8月31日判決) 海外先物取引被害事案。管理担当者や初回入金までしか関与していない者に責任を認めている。先物取引の経験を「被害の経験」と位置付けて適合性原則違反を肯定する事情として評価している 22.カネツ商事
(東京地方裁判所平成19年7月23日判決,東京高等裁判所平成20年1月24日判決)
1審は過失相殺を否定したが,控訴審によって過失相殺がされた事例 23.PCSJ(東京地方裁判所平成22年10月26日判決) 海外先物取引被害事案。向かい玉に関する説明義務違反を認めている 24.日本インベストメントプラザ(東京地方裁判所平成21年6月25日判決) 海外先物取引被害事案についてのみ行為の違法性を認めたもの