4.ウエスト・リッチジャパン

事案の概要:CO2排出権商法被害事案で,会社や主要な者,勧誘担当者などは判明していた限り,訴えを提起し,すでに損害賠償請求を認容する判決を得ていた。現実の被害回復は大いに難航することが予想されたところ,業者が(自己)破産したため,従業員ら(の住所・氏名)がぞろぞろと明らかになった。そこで,こんな悪い会社を一緒になってやっていた輩は十把一絡げ,一網打尽にしてくれよう,ということで提訴した。相手方の応訴は,極めて不誠実なものであったというほかなく,亡くなっている従業員に責任を押しつけているのではないかとうかがわれる節もあった。

前提事実:業者のCO2商法は,カバー取引を行うことを前提にしていたが,それはなされていなかった。「売買報告書及び残高報告書」にも各注文に係る約定日時について明確な記載がなかった(注:これは現在のCO2商法業者の圧倒的多数がそうである)。営業部には10人弱の営業担当従業員がおり,その上の階に「顧問」ら役員がいた(注:亡くなった従業員のこと。被告らが責任をなすりつけるためにでっち上げた存在であるように思われたが,判決はその存在を前提にしている。被告らの主張によっても責任を肯定するのだという姿勢を明らかにするものかも知れない。)。営業担当従業員は,「顧問」から具体的な勧誘の方針や指示を受け,その指導の下で営業活動を行っていた。営業担当従業員は,顧客と契約が成立すると,「顧問」に関係書類や預託保証金を渡すことになっていた。顧客が追加注文をする場合には,担当営業担当従業員が電話により注文を受けるという取扱いがされていた。

本件取引の違法性
:業者は,実際には,原告との間で,CO2排出権を客体としてこれを売買するという実体のある取引を行っていなかった。にもかかわらずその実体があるかのように装い,業者に金員を交付しても原告に利益が生じる余地がないにもかかわらず,預託保証金名目で金員を交付させたものであるといわざるを得ず,詐欺行為に該当する。
 仮にCO2排出権売買の実体があったとしても,原告も業者もCO2排出権価格及びユーロ円間の為替レートを予見することができず,また,自由に支配することができないものであるから,偶然の事情によって利益の得喪を争う行為であって,刑事罰をもって禁止される賭博に該当し,公序良俗に反する違法な取引であるといわざるを得ない。業者は金融商品取引に関する許可・登録を受けているものではなく,各営業担当従業員に証券外務員など勧誘行為の適法性を担保するための資格を取得させないまま勧誘を行わせ,顧客からの預かり資産は分別管理せず,カバー取引も行っていないことが認められるのであり,本件取引について正当業務行為と認めるべき事由は,特段見当たらず,その違法性が阻却されるものではない。

営業担当従業員の責任:営業担当従業員である被告らは,顧客から受け取った金員の運用等について全く知らなかったと主張し,これに沿う陳述書や供述があり,営業担当従業員は,顧客と契約が成立すると,「顧問」に関係書類や預託保証金を渡すことになっており,それ以降預託保証金の管理・運用に関わることはなかったとうかがわれる。しかし,他方,業者では,顧客が追加注文する際には担当営業担当従業員が電話により注文を受け,本件でも原告は取引開始後にも預託保証金を担当従業員に交付しているのであり,契約が成立した後も引き続き顧客に対する営業活動を行っていたものと認められる。加えて,業者が10人程度の小さな規模のものであること,営業担当従業員はいずれも「顧問」から具体的な指導・指示を受けてその下で営業活動を行っていたこと,営業担当従業員としては,顧客から預かった預託保証金がどのように管理・運用されているかについて顧客から問合せがされることもあり得る以上,これを全く知らないままに営業活動を続けるというのはいかにも不自然である。営業担当従業員は,本件取引の基本的な仕組みのほか,顧客から預かった預託証拠金が実際にどのように管理・運用されていたかを認識していたものと認めるのが相当である。
 営業担当従業員らは,本件取引がCO2排出権取引としての実体がなく,詐欺行為に該当すること,又は賭博に該当することを認識していたものと認めるのが相当である。そして,営業担当従業員総勢10人弱が,いずれも同じ部屋において就業し,「顧問」からの指示・指導の下,本件取引の勧誘を行っていたことなどの事実関係を併せ考えると,業者の役員及び営業担当従業員は,一体となって組織的に顧客に対する違法な本件取引の勧誘を行っていたものと認めるのが相当であり,直接には原告に対する本件取引の勧誘を行ったものではないものの,担当従業員が原告に対して本件取引を勧誘するに当たり,少なくとも,自らその組織的な違法行為の一翼を担い,担当従業員と同様に顧客に対して本件取引を勧誘することにより,担当従業員が違法行為に及ぶことを容易にし,これを助長又は幇助したものであると認められる。よって,共同不法行為責任を負う(掃除や文具の購入・書類のコピーなどをしていたに過ぎない事務職員には,取引の仕組みや預託金の管理・運用についての認識があったと認めるに足りないとして責任を否定)。

損害:配当金として支払われた190万円余は最判に照らし損益相殺しない。

不法原因給付:本件取引における不法の原因は,もっぱら被告らに存するものと評価せざるを得ない。民法708条ただし書の趣旨により,損害賠償請求は妨げられない。

雑感:本判決は,この種加害行為の遂行態様を正解するものであり,被害者ないしその救済に当たる弁護士に被害救済のための大きな「現実的攻撃力」を与えるものと思う。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(被告ら2名控訴,その余確定,控訴1件控訴却下,1件和解)
⇒先物取引裁判例集76巻95頁
⇒消費者法ニュース111号289頁

1.K・モンスター
(東京高等裁判所平成20年10月30日判決)
この種取引の取引自体の違法性に関して最も援用されることが多い判決
2.ロイヤルトラストインターナショナル
(東京地方裁判所平成25年12月12日判決)
金地金取引分割払取引業者らに損害賠償を命じるもの
3.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年11月4日判決)
凄惨な被害に対する,裁判所の優しさのうかがわれる判決
4.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成28年12月26日判決)
CO2排出権取引商法に藉口した詐欺商法について,個別の勧誘担当者のみではなく,業者の営業担当従業員全員に対して,違法行為を助長又は幇助したものとして損害賠償を命じた事例
5.ゴールドリンク
(東京地方裁判所平成29年7月5日判決)
貴金属分割払いまがい取引である「ゴールド積立くん」「プラチナ積立くん」(商標登録を得ているようである)などと称する商法を公序良俗に反するとして損害賠償請求を全部認容した事例
6.あおぞら,海翔物産
(東京高等裁判所平成28年4月13日判決,東京地方裁判所平成27年9月18日判決)
CO2排出権取引をAX Markets Limited社を通じて取り次ぐと称していたこと自体が詐欺に当たるとして損害賠償請求を認容した事例
7.プロフトラスト
(東京高等裁判所平成24年4月26日判決,東京地方裁判所平成22年6月10日判決)
この種商法を行う業者の構成員が個別の関与にかかわらず責任を負うとしたもの
8.アドニス
(東京地方裁判所平成26年7月18日判決)
金地金売買契約について,詳細な検討を加えて公序良俗に違反すると判示したもの
9.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成26年12月4日判決)
CO2排出権取引商法を公序良俗に反すると断じたもの。損益相殺の否定,被害者との個別具体的な接触のない構成員の責任,不法原因給付の主張の排斥,和解契約の否定など見るべきところも多い
10.フロンティア・エッジ
(東京地方裁判所平成25年3月19日判決)
この種商法の仕組み自体の違法性について説得的な判示をしている
11.日本デリックス
(東京高等裁判所平成25年4月11日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 12.ネクストライフ
(東京地方裁判所平成26年10月21日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 13.ARAIアセットほか
(東京地方裁判所平成25年11月20日判決)
他社移籍後の取引の拡大についての責任,首謀的構成員の責任,破産・免責を受けた代表者の責任 14.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年8月25日判決,東京高等裁判所平成23年1月20日判決)
被害者が亡くなっている場合の適合性原則違反の主張立証に参考になる 15.プロフィット・コム
(東京地方裁判所平成23年11月22日判決)
商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 16.テクノ(東京地方裁判所平成24年1月18日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性の評価を誤っていたとしても責任は左右されないと判示している 17.K&Kパートナーズ
(東京地方裁判所平成21年10月1日判決)
CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 18.ファーストエージェント
(東京地方裁判所平成21年5月25日判決)
スポット貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。取引益金の請求ができないことが明示されている部分がこの種商法の違法性をより強固に基礎付けうることとなった 19.ファーストエージェント
(東京高等裁判所平成20年3月27日判決,東京地方裁判所平成19年10月25日判決)
ロコロンドン貴金属商法についての初期の判決。業者からは判決にかかわらず損害の全部の賠償を受けた 20.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年3月25日判決)
貴金属スポット保証金取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性阻却事由がないこと,取引が正当なものだと信じていたと主張した勧誘担当者の責任,過失相殺の明示的な否定に見るべきところがある 21.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年4月10日判決)
16と同旨 22.K・モンスター
(東京地方裁判所平成21年3月16日判決,東京地方裁判所平成21年6月29日判決,東京高等裁判所平成21年7月15日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。業者の従業員がキャッシュカードを預かって勝手に金を引き出していたことが認定されている 23.ファーストライン(旧商号ジョイコーポレイション)
(東京地方裁判所平成26年11月13日判決)
口座開設後に辞任した役員らの責任を認めたもの 24.プロフトラスト
(東京地方裁判所平成21年10月5日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。スワップポイントを損害から控除していない 25.プロフィットコム
(東京地方裁判所平成21年12月16日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。先物取引の経験がある被害者について明示的に過失相殺を否定している 26.川研ファクター
(東京地方裁判所平成18年12月27日判決)
ニッパチ商法に関するもの。この種商法の違法性を端的に指摘する裁判例は珍しい