5.ゴールドリンク

(東京高等裁判所平成30年1月25日判決,東京地方裁判所平成29年7月5日判決)

 本件は,この種商法を現在においても比較的手広く行っている業者の取引に関するものである。本判決は,

「本件各契約は,売買契約と称してはいるものの,いずれの契約も長期間の毎月の分割金の支払が全部完了して初めて現物の引き渡しを受け得ることが原則となっているものであり,それまでは,現物の所有権は被告会社に留保されており,しかも被告会社は原告の支払額に相当する現物を取得しておく義務を負わない内容のものである。
 そして,いずれの契約についても,取引当時69歳であった原告との間で,分割払の期間は200回前後という16年間ないし18年間という極めて長期間に設定されている。しかも,いずれも中途解約することができ,中途解約の規定によれば,その場合には,被告会社が顧客からの解約通知書を受領した当日の株式会社東京商品取引所の金ないし白金の「標準取引」の1番限清算値(帳入値段)の価格を解約価格とし,それに,解約数量をかけて算出した解約代金ともともとの売買契約における金ないし白金地金の代金の差額金を計算することとされているのであるから,これは,将来の任意の時点での中途解約通知書を被告会社が受領した当日の株式会社東京商品取引所の金ないし白金の代金の価格によって,契約時点の取引価格との差額を基準にして計算上の損益を確定して決済をするという結果を実現する方法にほかならない。
 そうすると,本件各契約は,いずれも金地金等の現物を取得するものではなく,その実態は,16年間ないし18年間も分割金の支払を続けることができなくなった原告が解約を申し出た将来の時点での金地金等の取引価格の変動という偶然の事情で上記の私的な差金決済を目的とする私金差金決済契約というべきものであり,これは,被告会社が,商品市場における取引によらないで商品市場における相場を利用して差金を授受することを目的とする行為であって,被告会社は,商品先物取引法の許可や金融商品取引法の登録も受けていないにもかかわらず,これを行ったものである。かかる被告会社が原告に対して本件各契約を締結させた行為は,公序良俗に著しく反し,私法上も不法行為を構成させるに十分な違法性を有するというべきである。」とし,

「本件各契約は,従来のドルコスト平均法のデメリットを回避するために考案された現物の売買契約であり,実際,被告会社は金地金等の現物を仕入れており,在庫として保有し,現物の売買を行う小売業者である」との業者らの主張を,

「そもそもドルコスト平均法は,貴金属の積立を安定的に行う方法であって,現物の所有権が移転するものであるのに対し,本件各契約では前記のとおり,全額の分割払が完了するまで現物の所有権が移転しないものであって,分割金の支払期間が本件のように16年間ないし18年間と長期にわたるものであれば,被告主張のドルコスト平均法のデメリットよりも本件各契約の相場変動のリスクのデメリットの方が大きいものと認められ,しかも,被告の得た手数料は被告のデメリットを解消するものではあっても原告のデメリットを解消するにはほど遠いものであるから,これを同一に論じることは相当ではない。」と判示して排斥している。

 本件訴訟においては,業者側の訴訟活動も少なからず風変わりなものに見えたが,判決はそれに惑わされることなく,いわば王道的な判断を説得的に示しており,同種事案の事件処理において参照価値が高いものと思われる。

 さらに,控訴審判決は,より踏み込んで同商法の違法性を厳しく指摘している。

「商品先物取引法による法規制の趣旨に遡って本件各契約の性質について更に検討すると,商品先物取引法は,差金決済により取引関係から離脱することのできる先物取引が,過当な投機や不健全な取引となる危険性をはらむことから,取引秩序を維持するため,何人も商品について先物取引に類似する取引をするための施設を開設してはならない(同法6条1項・2項,商品市場類似施設の開設の禁止。同条違反については,懲役刑を含む罰則をもって厳しく対処される〔同法357条1号・363条1項〕。)とし,同法における『先物取引』として『当事者が将来の一定の時期において商品及びその対価の授受を約する売買取引であって,当該売買の目的物となっている商晶の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によって決済することができる取引』を掲げる(同法2条3項1号)ところ,本件各契約は,商品先物取引法に定める『先物取引』と同一の性質を有する取引であり,同法6条1項の『先物取引に類似する取引』に当たることが明らかである。つまり,本件各契約は,金や白金についてはその利用価値より交換価値が重要であることを前提としたもので。契約当事者間で授受される差金の額は,被控訴人(買主)が解約を申し出た将来の時点での金地金等の取引価格の変動という偶然の事情で左右されるものであることも考慮すれば,本件各契約が,高齢の契約者が15年以上の長期にわたって分割代金を支払って金地金等の現物の引渡しを受けることのみが意図されたものとは解し難く,その実態は,このような長期の分割払期間中に分割金の支払をすることができなくなったり,望まなくなったりした買主が,将来の時点における金地金等の取引価格の変動という偶然の事情によって差金決済をすることになるという結果を招来し,控訴人会社が商品市場における取引によらないで商品市場における相場を利用して差金を授受するものとして,私的な差金決済を目的とする私的差金決済契約というべきである。そして,控訴人会社は,前記前提事実のとおり,商品先物取引法上の許可や金融商品取引法上の登録も受けずに本件各契約を締結させたものである。しかも,本件各契約は,商品市場における取引ではなく,顧客である被控訴人と控訴人会社との間のいわゆる相対取引によって行われるものであるから,取引秩序の維特についての制度的担保はなく,顧客による投下資金の回収又は金等地金の引渡しは控訴人会社の資産状況に依存することになるが,控訴人会社では顧客財産に対する法的な分離措置は採られておらず,被控訴人を含む控訴人会社の顧客は,控訴人会社の信用力について多大なリスクを負うこととなる(なお,被控訴人が控訴人会社の従業員らからこのようなリスクについての説明は受けていなかったと認められる。)。また,金等の価格が下落し,顧客が中途解約をした場合には,顧客に損失が生じる一方で控訴人会社が利益を得,金等の価格が上昇し,顧客が中途解約をした場合には,顧客が利益を得る一方で控訴人会社に損失が生じることとなり,本件各契約の締結により,買主である顧客と売主である控訴人会社との間に,不可避的に利益相反の関係が生じることになる。控訴人会社が被控訴人に対して以上のような本件各契約を締結させた行為は,これが前払式割賦販売契約に該当するかどうかを論ずるまでもなく,公序良俗に反し,民法上も不法行為を構成させるに十分な違法性を有するというべきである。」

「また,控訴人らは,本件各契約の目的は金等の前払式割賦販売を目的とする契約であり,控訴人会社が本件契約4において,既払の割賦代金の範囲内で100グラム単位で金等地金の現物を受領して契約を終了できる『満期前終了』との規定を設け,同規定が本件契約1から3までにも適用される旨の合意がされているところ,この規定は,現物取引の一部履行により契約が終了することを端的に表しており,そこに差益授受の趣旨は見当たらないと主張する。しかし,そもそも,本件契約1から3までの各締結時には『満期前終了』の規定は設けられておらず,むしろ前記認定のとおりの差金決済(金地金等の現物によるものも含む。)による中途解約条項のみが置かれていたところ,『金(白金)地金売買契約変更合意書』が平成26年12月に作成されたとしても,同合意書が作成された以降に締結された本件契約4に設けられた『満期前終了』の規定(10条)が,同合意書が作成される以前に締結された本件契約1から3までに遡って適用されるとは解し難いから,控訴人らの主張は,その限りで前提を欠くと言わざるを得ない。また,『満期前終了』の効力が本件各契約に及ぼされると解したとしても,顧客から満期前終了の意思表示がされた場合,控訴人会社としての対応は『審査した上で応じることがある。』にとどまる(10条1項)のであり,その審査方法も明らかではなく,顧客と控訴人会社との間の法律関係が一義的に明確に規定されたものとは言い難い。さらに,被控訴人川内又は同服部が被控訴人との間で本件各契約を締結する際に契約終了事由の説明に用いた『ご契約に関しての確認事項』と題する書面に蝠『契約解除の申し入れ(中途解約)』が顧客の選択できる数種の選択肢の1つとして明確にうたわれており,中途解約する場合における『粗損益計算例』や,支払手数料分を含めた損益が顧客に発生する金等の時価のことをいうものと理解できる『損益分岐点』となる価格まで具体的に説明されている。加えて,本件各契約上,買主である被控訴人は,1年に1度支払う3万円の口座管理費等のほかに各契約の取引総額の10%を超える高率の額の『手数料』を支払わなければ金等地金の所有権が移転しないとされているところ,これが通常の前払式割賦販売であるとは,到底解し難い。
 本件各契約を金等の前払式割賦販売を目的とする契約であるとする控訴人らの主張は,本件各契約の割賦払期間を15年を超える長期としたこととあいまって,顧客をして,実際に割賦金を積み立てて金等を購入しているという意識を持たせることにより,公序良俗に反する本件各契約の実質を隠す手段と見ることも可能といわなければならない。控訴人らの主張は,採用できない。」

「控訴人らは,平成27年3月1日から平成29年2月28日までの取引総数1742件のうち,1035件が代金の支払が続けられており,金地金等の現物引渡しで終了したものが660件で(うち『満期終了』が1件,『早受け渡し』又は『満期前終了』が659件),現金の差金による清算は30件にすぎないことからも,控訴人会社の提供する商品が現物取引であることを示していると主張するが,すでに見たとおり,控訴人会社において金等地金の現物引渡しの実績があることや,なお多くの取引では代金の支払が継続されていることと,本件各契約が違法な私的差金決済契約に当たることが相反するわけではない以上,本件各契約の性質や目的に係る前記認定が左右されるものではない。」

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(業者ら控訴)
⇒消費者法ニュース113号232頁
⇒先物取引裁判例集77巻322頁

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(業者らの控訴棄却(途中で退職した従業員については責任を一部限定),業者らの上告取下により確定)
⇒先物取引裁判例集78巻362頁
⇒消費者法ニュース115号290頁

1.K・モンスター
(東京高等裁判所平成20年10月30日判決)
この種取引の取引自体の違法性に関して最も援用されることが多い判決
2.ロイヤルトラストインターナショナル
(東京地方裁判所平成25年12月12日判決)
金地金取引分割払取引業者らに損害賠償を命じるもの
3.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年11月4日判決)
凄惨な被害に対する,裁判所の優しさのうかがわれる判決
4.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成28年12月26日判決)
CO2排出権取引商法に藉口した詐欺商法について,個別の勧誘担当者のみではなく,業者の営業担当従業員全員に対して,違法行為を助長又は幇助したものとして損害賠償を命じた事例
5.ゴールドリンク
(東京高等裁判所平成30年1月25日判決,東京地方裁判所平成29年7月5日判決)
貴金属分割払いまがい取引である「ゴールド積立くん」「プラチナ積立くん」(商標登録を得ているようである)などと称する商法を公序良俗に反するとして損害賠償請求を全部認容した事例
6.あおぞら,海翔物産
(東京高等裁判所平成28年4月13日判決,東京地方裁判所平成27年9月18日判決)
CO2排出権取引をAX Markets Limited社を通じて取り次ぐと称していたこと自体が詐欺に当たるとして損害賠償請求を認容した事例
7.プロフトラスト
(東京高等裁判所平成24年4月26日判決,東京地方裁判所平成22年6月10日判決)
この種商法を行う業者の構成員が個別の関与にかかわらず責任を負うとしたもの
8.アドニス
(東京地方裁判所平成26年7月18日判決)
金地金売買契約について,詳細な検討を加えて公序良俗に違反すると判示したもの
9.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成26年12月4日判決)
CO2排出権取引商法を公序良俗に反すると断じたもの。損益相殺の否定,被害者との個別具体的な接触のない構成員の責任,不法原因給付の主張の排斥,和解契約の否定など見るべきところも多い
10.フロンティア・エッジ
(東京地方裁判所平成25年3月19日判決)
この種商法の仕組み自体の違法性について説得的な判示をしている
11.日本デリックス
(東京高等裁判所平成25年4月11日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 12.ネクストライフ
(東京地方裁判所平成26年10月21日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 13.ARAIアセットほか
(東京地方裁判所平成25年11月20日判決)
他社移籍後の取引の拡大についての責任,首謀的構成員の責任,破産・免責を受けた代表者の責任 14.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年8月25日判決,東京高等裁判所平成23年1月20日判決)
被害者が亡くなっている場合の適合性原則違反の主張立証に参考になる 15.プロフィット・コム
(東京地方裁判所平成23年11月22日判決)
商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 16.テクノ(東京地方裁判所平成24年1月18日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性の評価を誤っていたとしても責任は左右されないと判示している 17.K&Kパートナーズ
(東京地方裁判所平成21年10月1日判決)
CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 18.ファーストエージェント
(東京地方裁判所平成21年5月25日判決)
スポット貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。取引益金の請求ができないことが明示されている部分がこの種商法の違法性をより強固に基礎付けうることとなった 19.ファーストエージェント
(東京高等裁判所平成20年3月27日判決,東京地方裁判所平成19年10月25日判決)
ロコロンドン貴金属商法についての初期の判決。業者からは判決にかかわらず損害の全部の賠償を受けた 20.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年3月25日判決)
貴金属スポット保証金取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性阻却事由がないこと,取引が正当なものだと信じていたと主張した勧誘担当者の責任,過失相殺の明示的な否定に見るべきところがある 21.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年4月10日判決)
16と同旨 22.K・モンスター
(東京地方裁判所平成21年3月16日判決,東京地方裁判所平成21年6月29日判決,東京高等裁判所平成21年7月15日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。業者の従業員がキャッシュカードを預かって勝手に金を引き出していたことが認定されている 23.ファーストライン(旧商号ジョイコーポレイション)
(東京地方裁判所平成26年11月13日判決)
口座開設後に辞任した役員らの責任を認めたもの 24.プロフトラスト
(東京地方裁判所平成21年10月5日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。スワップポイントを損害から控除していない 25.プロフィットコム
(東京地方裁判所平成21年12月16日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。先物取引の経験がある被害者について明示的に過失相殺を否定している 26.川研ファクター
(東京地方裁判所平成18年12月27日判決)
ニッパチ商法に関するもの。この種商法の違法性を端的に指摘する裁判例は珍しい