スピーシー関連スポーツブック
アービトラージ商法集団訴訟

 最近,スピーシー事件に関連して,当事務所の名称を語るなどし,「被害金の60%を回収したので,被害者に分配をする」などとして着手金等名下に金銭を騙し取る事件があるとの情報が寄せられていますが,当事務所が,弁護団に参加されている方,参加されていない方を問わず,突然電話をして返金を持ちかけるということは絶対にありません。詐欺被害には往々にして2次被害を企む者が現れるものですが,本件についても十分にお気を付け下さい。

1 事案の概要
 株式会社スピーシー(以下,「スピーシー」という。)及びその関係者が,「スポーツブックアービトラージ投資」(以下,「スポーツブック投資」という。)により,著しく高率の配当(月3%から10%)を得られるなどと喧伝するなどして,代理店,主要勧誘組織統括者から,マルチ商法の手法を用いて下位の勧誘者を拡大し,さらに被害者を拡大させていくという組織的勧誘により投資金名下に資金を集めたが,実際は資金を代理店らに対して分配するなどとして費消し,投資金として出捐させた資金の返金に応じないという事案である。その被害金額は数百億円に及ぶとも言われている。

2 手続の経緯
 平成24年8月31日に原告43名,請求金額2億9145万4130円の第1次訴訟を大阪地裁に提起し,平成25年3月29日に原告28名,請求金額2億5281万0736円の第2次訴訟を東京地裁に提起した。
 平成26年5月30日現在,同事件に関し,スピーシー社及びその関連会社に対する仮差押・強制執行が奏功し,関係者からの和解金の支払いを併せ,合計約2億4500万円(実損害額の約63パーセント相当)の被害回復をなしえた。
 現在,大阪地裁の審理及び下記東京地裁判決に基づく強制執行手続等の準備を進めている。

3 判決
 平成28年1月26日,東京地裁における本件集団訴訟(いわゆる第2次訴訟に関するもの。大阪地裁に係属している第1次訴訟についてはまだ審理が続いている。)について判決が言い渡された。その概要は新聞その他で報道されているところである。
 判決は,「本件商法は,金銭消費貸借契約の形式を採って元本を保証し,運用益その他の要因にかかわらず最高で月15%(年利180%)の確定配当を行うというもの」であり,「元本保証の下にこのような高利の配当を確定的かつ恒常的に支払うなどという商法は,およそ一般的な投資商品では考えられない」,「予定した運用益が上げられなかった場合には,新たに出資した者の出資金をもって配当に回す必要が生じるなど,早晩破たんをきたす事態が生じる危険を有するものであった」,さらに,実態は出資であるのにもかかわらず,金銭消費貸借契約やコンサルティング業務委託契約締結の体裁を取り各種規制法令に適合しないものであり一般大衆の財産を毀損する危険性が高い商品であったと断じており,弁護団の主張を全面的に採用したものといえる。
 関係者については責任を負う者及び責任を負う範囲について判断が被告ごとに異なっているが,首謀者ら(2名)についてはスポーツブック投資商法に深く関与していたと認定した上で,同商法に深く関与していた者であるならば,本件商法の上記違法性について,わずかな注意さえ払えば容易に予見しえたとして不法行為に基づく損害賠償責任があるとし,最上位の代理店,その下位にあった代理店については,いずれも第三者を紹介して報酬を得ていた者らであると認定した上で(報酬に関する強固な証拠を訴訟途中で入手できたこともあって,これが裁判所の判断に強い影響を及ぼしており,同証拠に氏名が顕れない一部被告について責任を否定する結果となっている),そのような報酬は,上記の危険を端的に示すものであり,さらに,本件のような投資商品は,一般的に馴染みがなく,それを対価を得て第三者に勧誘する場合,自己の財産の保全のために支払うべき注意以上に慎重な注意を払うべきであり,勧誘に先立ち,本件商法の安全性について,客観的な裏付けに基づいた調査をする義務があるとし,被告らは,そのような調査義務を怠ったものとして不法行為責任を負うとした。
 この点も,概ね弁護団の主張を容れたものといえる。ただ,報酬受領の立証の成功に引きずられているきらいがあり,一部被告については請求が棄却されており,また,代理店の関与の程度によって,原告らとの間で過失相殺割合に差を設ける結果となっている。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)
⇒先物取引裁判例集75巻526頁


 平成29年3月28日,東京地裁における本件集団訴訟に引き続き,大阪地裁における本件集団訴訟(いわゆる第1次訴訟)について判決が言い渡された。
 判決は,本件商法は,出資額元本を保証した上で,原告らに対しては出資額の概ね3%から5%を月々の配当として支払い,さらに本件紹介料制度により上位者に下位者の出資額に対する一定割合の紹介料を支払うというものであり,さらに,事業を継続するための費用が発生することも考慮すれば,「本件商法において出資に約束された配当及び紹介料を継続的に支払い続けることはもともと不可能であったと認められる。」「それにもかかわらず,出資者に対して合意した配当及び紹介料を支払い続けようとすれば,その後に出資した者の出資金から支出せざるを得ない。」「出資金を配当等に流用していれば,いつかは配当等の支払いに窮し,破綻することは不可避であり,破綻した場合には,配当率が相対的に低い下位の出資者や出資時期が遅い出資者に対して,約束した配当等が支払うことができなくなるだけではなく,出資金相当額を回収することができないという元本既存の損害を与えることになる。このように,本件商法はいずれかの出資者に対して不可避的に損害を与えるものであったといえる」などと指摘し,出資者に対して本件商法へ出資させる行為は不法行為法上違法なものであるとしており,当弁護団の主張を全面的に採用したものといえる。

 関係者の責任については,責任を負う者及び責任を負う範囲について判断が被告ごとに異なっている。
 まず,首謀者(2名)のうち運用担当と称していた者については,集めた資金のうちどの程度をスポーツブック投資で運用し,その運用実績がどのようなものであるかを熟知する立場にあり,本件商法に出資すれば確実に高率の配当が得られるという勧誘が実態と異なるものであることを認識していたとし,原告の全ての出資に係る損害について不法行為責任を負うとした。
 主に商法の伝播を統括していた者についても,僅かな注意を払えば,本件商法において約束した配当等を継続的に支払っていけるか,出資金の使途や配当の原資に不自然な点がないか等について疑問をもちえたはずであるとし,原告の全ての出資に係る損害について損害賠償責任を負うとした。
 次に,商法を伝播していった者らについては,まず,(直接の)勧誘者は,被勧誘者が本件商法に出資した場合,本件紹介料制度を通じて経済的利益を取得するということを考慮すると,勧誘者は,第三者に対して本件商法の出資を勧誘し,出資の意思決定をさせるにあたっては,本件商法の安全性ついて合理的な根拠を調査,検討すべき義務を負っているとし,調査,検討を行わずに勧誘を行った被告らは不法行為責任を負うとした。
(直接の勧誘者の)上位者については,本件商法は本件紹介料制度を通じて,上位者から勧誘を受けた下位者が更に第三者に対する勧誘を行うことにより,その後連鎖的に出資の勧誘が行われることを予定するものであるから,上位者は,下位者の勧誘によって本件商法に出資する意思を有するに至った第三者が危険な取引を行って損害を被らないよう,本件商法の安全性について十分な調査,検討を尽くし,本件商法の安全性の確認が取れない場合には,下位者の勧誘を止めさせるなどの適切な措置を執るべき義務を負っているとし,それを怠った被告らは不法行為責任を負うとした。
 これらの点も,概ね当弁護団の主張を容れたものといえる。
 ただし,首謀者以外の被告らとの関係で,原告らに5割の過失相殺を認めた。
 なお,本件は,原告らが既に,上記2のとおり一部の回収を得ていることから,5割の責任を負う者ら(首謀者以外の被告ら)がどの範囲で責任を負うかが問題となるが,この点,本判決は,未回収部分からの充当を認めている。この点は,東京集団訴訟判決と逆の考え方をしており(ただし,東京集団訴訟判決は,過失相殺が3割とされた被告らも多かった。),同じ事象が問題となった事件で東京判決と大阪判決で異なる考え方をしており,(法律上の論点に関する判断としては)興味深いものともいえる。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg
⇒裁判例集77巻197頁