仮装離婚によって移転された不動産からの被害回復

 ちょっと長い期間を要したプチ集団事件群の判決,被害回復の達成
 ある業者(一時は証券会社にまでなっちゃっていました。恐るべき金融庁の審査能力)の事件で,平成20年ころから,7名の被害者(当事者としては相続人となっている方など9名)の総額1億3000万円程度の被害回復に取り組んでいました。損害賠償請求訴訟も多少の困難がありましたが(控訴審で逆転するという無用のハラハラがありました。判例タイムズに載ってます。),より大変だったのは現実の被害回復です。加害者は離婚して妻に財産分与として不動産を移転していたので,これを何とかする必要がありました。で,「離婚及び財産分与は通謀虚偽表示により無効であるとして債権者代位により居宅不動産につき抹消登記手続を求める」というのをやりまして,1・2審勝訴(夫の暴言等に苛まれていたといいながら,離婚届の直後・本件不動産移転登記手続をしたその日に家族揃ってアメリカ旅行に行ったりしてるやないか,などというのを丁寧に拾ってくれています),上告不受理と前後して和解して先月末にほぼ全額の被害を回復する一挙解決に至りました。
 依頼者(被害者は皆高齢です)からは,こんなにお金が戻ってくるとは思ってなかった,長生きしていてよかった,などという手紙が来たりしました。喜びをこうして表してくれると,やり遂げた感が高まりますー。
 さて,この移転登記抹消長期手続請求訴訟ですが,判例及び通説的理解に従えば,離婚は離婚届を提出する意思があれば足り,真実離婚する意思がなくてもよいとされていますから,仮装離婚であっても離婚としては有効であるということになります。離婚として有効である以上財産分与も有効であり(ここには疑問を差し挟む余地もありますが),財産分与として不相当に過大な部分についてのみ詐害行為取消の対象となるに過ぎないとされているのです。
 このような理解に従えば,仮装離婚の場合であっても分与財産の相当部分は夫婦に保持されることになりますが,これが妥当な結論であるとは考えられません(なお,我妻栄博士は実質的離婚意思のない離婚は無効であると説かれています。)。
 本判決は,離婚が仮装のものであることを詳細な理由を付して認定して離婚及び財産分与を無効とし,(予備的請求とした詐害行為取消権に基づく請求ではなく)主位的請求である債権者代位による所有権移転登記抹消登記手続請求を認容しており,高裁及び最高裁がこれを維持したことからも,財産隠匿のための仮装離婚が明らかな場合には通説的理解とは異なる解釈が許される(あるいはこのような場合には通説的理解からも同様の結論を導きうる)ことを示唆するものであって,(解釈学上の議論の対象となり得るほか)実務上参考になるものと思います。
 いずれにせよ,被害回復を達することができ,本当によかった。