判決報告:スピーシー事件(第二次訴訟:東京訴訟)

スピーシー事件の東京訴訟(第二次訴訟)において,昨日,東京地裁で判決がありましたので,ご報告します。

【事案の概要】
業者:スピーシー,シード外
当事者:原告28名,被告63名
 
 イギリスのブックメーカーのスポーツブックを利用した裁定取引(「スポーツブックアービトラージ投資」)を行うことにより,「毎月数%の高い利益を恒常的に得られる」と喧伝して出資を募ったが,ある時点で取引が破綻したことが告げられ,出資金が返金されないという事案。
 本件は,代理店と称される勧誘者が幾重にも連なり,その代理店群が預かり金から数%という形で金銭を得ていくという報酬制度(以下,「本件報酬制度」)がありました。また,契約形態は,出資金については金銭消費貸借契約,配当についてはコンサルティング業務委託契約を締結するという体裁が取られていました。
 ①スポーツブック投資商法自体の違法性,②被告らの責任が本件の争点となりました 
 特に,①の関係では,スポーツブックアービトラージ投資は理論上成り立つ,②の関係では,特に代理店群からは,「自分たちも本件投資を真っ当な投資と信用したのであり,原告らと同様に被害者である」という反論がなされました。
 40人くらいの当事者に尋問を行ったり,報酬に関する強固な証拠を訴訟途中で入手できりと色々なことがあった事件でした。 

【判決の内容】
①について
 判決は,「本件商法は,金銭消費貸借契約の形式を採って元本を保証し,(本件報酬制度を前提とすると,)運用益その他の要因にかかわらず最高で月15%(年利180%)の確定配当を行うというもの」であり,「元本保証の下にこのような高利の配当を確定的かつ恒常的に支払うなどという商法は,およそ一般的な投資商品では考えられない」,「予定した運用益が上げられなかった場合には,新たに出資いた者の出資金をもって配当に回す必要が生じるなど,早晩破たんをきたす事態が生じる危険を有するものであった」,さらに,実体は出資であるのにもかかわらず,金銭消費貸借契約やコンサルティング業務委託契約締結の体裁を取り各種規制法令に適合しないものであり一般大衆の財産を毀損する危険性が高い商品であったとしました。
 これは当方の主張を全面的に採用したものといえます。

②について
判決は,概ね被告らを3つのグループに分け,
1 首謀者グループ
2 最上位の代理店 
3 2の下位に位置する代理店群

 1については,これらの者らは,スポーツブック投資商法に深く関与していたと認定した上で,同商法に深く関与していた者であるならば,上記?については,わずかな注意さえ払えば容易に予見しえたとして不法行為に基づく損害賠償責任があるとしました(一部関与があるとまでは認定できないとして責任が認められなかった被告らがいます。)。

 2,3については,いずれも第三者を紹介して報酬を得ていた者らであると認定した上で,そのような報酬は,上記?で指摘した危険を端的に示すものであり,さらに,上記?のような投資商品は,一般的に馴染みがなく,それを対価を得て第三者に勧誘する場合,自己の財産の保全のために支払うべき注意以上に慎重な注意を払うべきであり,勧誘に先立ち,本件商法の安全性について,客観的な裏付けに基づいた調査をする義務があるとしました。
 その上で,2,3の被告らは,そのような調査義務を怠り,不法行為責任を負うとしました。
 この点も,概ね当方の主張をほとんど全面的に採用したものといえます(ただし,報酬に関する強固な証拠を訴訟途中で入手できたこともあって,これが裁判所の判断に強い影響を及ぼしており,同証拠に氏名が表れない一部被告について責任を否定する結果となっています)。

 一方で,上記2,3グループの被告らとの関係で一定の過失相殺がされてしまったこと,過失相殺→損益相殺の順序で損害額を算定されたこと等,いくつかの残念な点もありました。
 
 しかし,マルチ様のファンド商法の被害は多くあると思いますが,最上位から直接の勧誘者に至るまで責任を認められた点,当時社会的に大きな話題となったスピーシー事件の集団訴訟において裁判所が一定の判断を示した点において,意義のある判決であると思います。 

 以上,ご報告致します。