CO2排出権取引・排出量取引

 CO2排出権取引(CO2排出権証拠金取引,CO2排出量取引)と呼ばれる詐欺商法が被害を急増させようとしている。CO2排出権(二酸化炭素排出権)の売買をレバレッジをかけた証拠金取引としてするものであり,欧州等海外の取引所取引への仲介をすると称するものと,海外の取引所での取扱商品であることを強調してOCT(相対取引)として行うものの2つのパターンが見られる。
 平成23年1月1日に施行された商品先物取引法により商品CFD取引を無許可で行うことはできなくなり,従来海外先物取引やロコロンドン貴金属取引(貴金属CFD取引)を行っていた業者が短期間で禁圧されることを予期しながら取扱っているのが実情であり(なお,金融商品取引法上、排出権の取得若しくは譲渡に関する契約の締結又はその媒介、取次ぎ若しくは代理を行う業務、排出権のデリバティブ取引又はその媒介、取次ぎ若しくは代理を行う業務が、第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う金融商品取引業者の届出業務として規定されている(金融商品取引法35条2項7号、金融商品取引業等に関する内閣府令68条16号、17号))が,これはこの種取引が金融商品取引法により規律されることになったことを意味するものではなく(この種取引は未だ政令指定されていない。金商法2条25項2号が気象数値は金融指標であるとしているのが金商法の限界である。),金融商品取引法にも商品先物取引法にも規律されない,法の隙間の商法となっている。そして,これら業者に,取引関連ツール一式を提供して詐欺商法の開始を勧奨し,違法性の程度を弱めうると考えているのであろう,「カバー取引」の受注をも合わせて受けることとするなどして,零細な資金しか持たず,あるいは商法を自ら開発してそのツールをそろえる能力を欠く者であっても容易にこの種取引を取扱う営業が可能なように関与する業者が,(ブラックFX取引やロコロンドン貴金属取引にも当然存在したが)CO2排出権取引においてはより表に出てきて大がかりに(取扱い業者を)勧誘しているという深刻な状況にある。
 この種商法は,エネルギー問題を云々して勧誘されることが多く,いわゆる震災関連投資詐欺に含まれないではないが,対象商品は何であっても良く,ただ,いわゆる旧態の先物業者の商法(証拠金取引商法。利益を強調して勧誘し,利害相反状況について言及せず,取引を開始させるや利益金を証拠金に積み増し,あるいは新たに証拠金を拠出させて取引を拡大させ,頃合いを見て損計算にして両建取引のための証拠金名下にそれまでの拠出額と同じ金額を拠出させ,そうして拠出できる限りの金額を拠出させて,頻繁過当な売買を繰り返して手数料を増大させ,あるいは取引レートや場合によっては取引の存否そのものすら仮装して証拠金を騙取する,という古典的商法である。)であるとみることができる。
 私的差金決済取引であるから,FX取引に関する東京高判平成18年9月21日,ロコロンドン貴金属取引に関する東京高判平成20年10月30日ほかの法律構成がそのまま妥当し,要するに,「この種取引は,「CO2排出権の価格」及び「ユーロ為替変動」を差金決済の指標とする差金決済契約である。「CO2排出権の価格」も「ユーロの為替レート」も,業者及び顧客には予見することができないものであり,また,その意思によって自由に支配することもできないものであるから,本件取引は偶然の事情によって利益の得喪を争うものというべきであり,賭博行為に該当する。そして,本件全証拠によっても,本件取引の違法性を阻却する事由を認めることはできない。仮に被害者において本件取引の仕組みやリスクを理解して本件取引を行ったとしても,顧客として勧誘しこれに誘い入れた点において,その勧誘行為を実際に行った従業員及び役員らは共同不法行為責任を負う。」ということになると考えられる。
 海外の取引所への仲介をすると称する業者も,かつての海外先物取引業者と同様,当該取引所までへの仲介をする者はほとんどなく,あるいは,仮にあっても全量を仲介する例はほとんどないと見られ,いわゆる「のみ行為」としての違法性を有するものと考えられる。
 仮にそうでない取引が存在する場合にでも,先物取引被害事案と同種の違法要素が,より顕著に見られることになるだろう。(荒井哲朗)