未公開株詐欺事案で、携帯電話レンタル事業者に対し過失の幇助責任を認めた裁判例

 先日、担当していたいわゆる劇場型未公開株詐欺の事案で、発行会社とともに被告としていた携帯電話レンタル業者の責任を認める判決が東京地裁で出されましたので、この場を借りて、そのご報告をさせていただきます。

 いわゆる劇場型未公開株詐欺の事案では、発行会社と勧誘部隊(販売会社)とがそれぞれ役割分担しており、販売部隊はいかにもそれらしい証券会社などを名乗り(これは架空の名称の場合もありますが、実際に存在する証券会社を偽ってくる場合もあるようです。)、「お宅に△△という会社のパンフレットが届いていませんか。」、「〇〇という会社の株を持っていませんか。お持ちならうちのクライアントが10倍で買い取ります。」などと、被害者らに電話をかけてきます。

 ほとんどの場合勧誘は電話のやり取りのみで行われ、勧誘部隊が被害者の目の前に姿を現すことはありません(ちなみに、被害者らを信用させるために、「〇月△日に〇〇信託銀行の会議室を予約しました」、「クライアントを連れてご自宅へ伺います。」等と申し向けてくる例もありますが、実際には当日、「監査が入って急にいかれなくなった」等との言い訳をして、突然「行かれなくなった」と言ってくる例は多くありますが。)。このように、電話はこの種の犯罪において不可欠のツールとなっているという現状があります。
 そして、勧誘部隊が被害者にこのような電話をかけてくる際には、携帯電話をレンタルしたり、固定電話・携帯電話間等の転送電話サービスを使ったりする場合が多くあります。

 さて、いわゆる「振り込め詐欺」においても、電話が使用される頻度が極めて高かったことから、平成17年には「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律」(いわゆる携帯電話不正利用防止法)が施行されていましたが、平成20年には、さらに、レンタル携帯電話事業者による本人確認の厳格化等を内容とする改正がなされていました。(振り込め詐欺と未公開株詐欺は、欺罔の内容こそ異なるものですが、その犯行態様は極めて類似したものだと考えられます。)

 今回の訴訟では、携帯電話のレンタル業者を被告の一人としていましたが、判決で裁判所は、同社が携帯電話不正利用防止法上の「貸与業者」(同法10条1項)に当たること、本人確認につき高度の注意義務が課されていることを前提に、同社従業員の過失による幇助を認定し、使用者責任(民法715条1項)、共同不法行為責任(同法719条1項)を認めました。
 当事務所の把握する限り、この種の詐欺商法において携帯電話レンタル業者に不法行為責任を認めたのは初めてのことです。以下、レンタル業者に対する判決の概要をお知らせします。

東京地判平成24年1月25日(係属部民事6部)
原   告:80代女性
被 告 ら:未公開株式の発行会社を引き継いだ合同会社(A社)
A社の業務執行社員(B社)
B社役員ら
携帯電話レンタル業者(C社)
C社代表取締役
訴外関係者:未公開株式の発行会社(T社)
証券会社を名乗る勧誘者(N)
携帯電話レンタル業者の担当者(H)
携帯電話をレンタルした契約名義人(M)
判決内容:A社、B社、B社役員ら、C社については請求認容。
C社代表取締役は請求棄却。

 なお、この裁判に至る前段階のことを少し述べておきますと、当初、我々には、C社がレンタル業者であることが判然としていなかったため、同社に内容証明を出していましたが、何らの返答もなかったという事情がありました。
 そして、C社は訴訟係属してから、自らが携帯電話のレンタル事業を営んでいることなどを主張していたのでしたが、開始から1年以上、当該電話の契約者情報などを全く開示せず、訴訟が終わりに近づいてから、ようやく、契約書や本人確認資料(免許証の写し)等を提出してきた、という事情もありました。

 さて、この本人確認資料として提出された免許証の写しを確認したところ、(1)住所、(2)運転免許証番号という2つの点で、おかしな点がありました。そこで、そのような事実に気付けなかったことには、携帯電話レンタル業者として少なくとも過失があるとの主張を行いました。

(1)住所の虚偽
  この運転免許証には、

「東京都千代田区△△3―15―5―〇〇〇」

との住所が記載されていましたが、グーグル地図で調べてみたところ、当該3丁目には、13番地までしかありませんでした。
 一般的なツールを使って、こんなに簡易に調べられることであるのに、このようなことすら確認しなかったという点で、過失があるとの主張が一つ。

(2)運転免許証番号の不一致
 また、免許証の番号には、特殊な暗号が組み込まれているとのことなのですが、証拠として提出された免許証は以下のような表記となっていました(免許証をお持ちの方は、ご自分の番号と見くらべてみると面白いかもしれません)。

運転免許証番号  第3084156〇〇〇〇〇
二・小・原  平成00年00月00日
他   平成04年02月〇日
二種  平成00年00月00日

 我々は、運転免許証番号の最初の1、2桁目は、運転免許証を取得した都道府県が番号化されたもの、3、4桁目には、運転免許証を取得した年号を西暦で記載したものが記載されている(つまり、普通免許証のみを持っている人は、「他」の年号と一致していなければならない)ということは、免許証に関する多少の知識を有しているものであれば知っていることであり、通常業務で免許証等の本人確認書類の確認を行う者なら、当然知っているべき事実であること、
 そして、本件の免許証番号では、3、4桁目は「84」となっており、1984年(=昭和59年)と「他」の部分の「平成04年」との記載と合わないこと、これらを見抜けなかったことには過失があることを主張しました。

 裁判所は、これらの事実を認定した上で、携帯電話不正利用防止法の改正の経緯を踏まえ、

 「レンタル携帯電話は、振り込め詐欺をはじめとして、自らの氏名や立場を明らかにすることができないものの詐欺行為の重要なツールとして利用されていることは否定しえない」

 としたうえで、

 「レンタル携帯電話を犯罪行為に利用しようとする者は、レンタル事業者に対して提示する運転免許証等の公的証明書を偽造することは容易に想定される」

(ゆえに)

 「携帯電話のレンタル事業者には、借受希望者から本人確認のために運転免許証等の公的証明書が提示された場合には、それが偽造されたものであるか否かを慎重に調査すべき高度の注意義務を課せられていると解するのが相当である」
 としました。

 そして、裁判所は、上記(1)(2)の事実は簡易な調査をすれば偽造の事実が容易に判明したことに加え、今回の借受希望者が一度に3台も借りようとしていたこと、それにもかかわらず印鑑すら持っていなかったことも付け加えた上で、これを借受希望者に貸与すれば詐欺行為等の犯罪に利用されるに至ることを予見することは十分に予見可能であったというべきであり、上記(1)、(2)を見抜けなかったC社従業員には「看過しがたい過失」があったとして、従業員が、被告A社及びB社の不法行為を過失により幇助したことを認め、被告C社の使用者責任及び共同不法行為責任を負うと判示しました。

 このような画期的な判決をいただけることは、この仕事の醍醐味であると思っています。

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