「スポーツブックアービトラージ」まがい詐欺商法被害について

 
(現在までに寄せられた関係者の情報を総合して,平成24年6月6日に修正しました。)
 最近,スピーシーという大阪の会社が,「スポーツブックアービトラージ投資」の投資金名目で多額の資金集めをしていたという被害事案群についての相談が急激に寄せられるようになっており,すでに10名を超える方から相談を受けました。
 スポーツブック投資は,イギリスの賭け(競馬,サッカー,選挙結果,天気予報など)業者(胴元。ブックメーカー)AとBとでオッズが異なり,複数の賭けポジションを同時に持つことによって,「必ず儲かる」ということになる場合があるということに着眼したものです。すなわち,日本の公営賭博では,オッズは賭けの終了後に確定しますが,イギリスでは賭けが成立した時点のオッズがそのままオッズとして維持されること,多数あるブックメーカーのオッズの中には相互に整合せず,買い方によって賭けの対象の結果がどのようになったとしても,利益を得ることができる,というところに着目したものです。
 しかしながら,瞬時に買いを入れないとオッズは変わってしまう場合があるし,賭け金が多い場合など,「キャンセルベット」されてしまうこともあるようです。そのようになると,単なる賭博をしているということになり,資金は一気にもくろみから外れて減少することになってしまいます。キャンセルベットは掛け金が多くなるとその確率が多くなりますし,そもそも,スポーツブックでは買える額が小さく,一つの賭けにおいて5万円から10万円がせいぜいであるものが多く,うまくいっても利益は5000円から1万円であり,これを積み上げていくというのは大変なことです。また,「アービトラージャー」として大きな利益を抜いているということになれば,ブックメーカーは賭けの条件(金額)を一方的に変更してきます。したがって,小さい資金でこつこつ小遣い稼ぎをすることはできる可能性があるが,何億円,何十億円単位の「投資」にはなりようがないもののようです。
 今回の事件は,それまで「スポーツブックアービトラージ」をしていたシードの代表者であり,スピーシーの「責任者」であるという田中慎こと田中愼のほか,波田(カワタ)直樹なる人物らが,大きな関与をしていると目されます。本件スキームの中心は,「投資」を行うという田中愼であり,海外保険の販売などの代理店群を用い,マルチ商法の手法によって一気に資金集めをしたのが波田のようです。スピーシーは,金銭配分組織として田中らに用いられ,計算,集計,集金,出金をしていたようです。
 「代理店」や最上位勧誘者は10パーセントを超える「枠」と呼ばれる「配当を受ける地位」をスピーシーから与えられ,このうち自己が3パーセント,5パーセント,7パーセントといった「利益」を取って下位者を集め,下位者は例えば自身の「7パーセント」から「5パーセント」のうち一部をさらなる下位者に与えると申し向けて被害者を拡大させていき,下位者を勧誘すればするほど,上位者が利得するという,マルチ商法の典型的なシステムが採用されています。
 「配当」は,「運用」の実績にかかわらず,スピーシーとの間の「コンサルタント業務委託契約」に基づいて確定した率で支払われることになっており,しかも,運用の状況にかかわらず,「集めた金額」に応じて支払われることになっており,破綻必至の詐欺商法であるといえます。
 当職はオールイン,121FUNDなど似たような詐欺商法事案の弁護団の代表をしていることから相談が多く寄せられているのだと思います。キプロス法人から1億8000万円程度の資金回収ができたこともありますので,海外資金を必ずしも軽視してはいけないとは思いますが,海外資金の凍結ばかりを云々するのは適切ではないと思います。要するに,代理店,上位勧誘者は,集めた資金から毎月合計その約1割もの金を利得していったわけですから(交付(出資)金額の1割を利得したのではありません。毎月その金額を利得したのです。),彼らから(被害金額の全額の)賠償を受けるのが筋であると思います(もちろん,スピーシーの関係者らに対する損害賠償請求を検討すべきであることはいうまでもありません。)。
 このように立論してくると,代理店であるとか,上位勧誘者は,「自分も信じていた」とか,「自分が賠償すべきだとしても,責任を負うのは自分が受け取った配当の差の部分のみではないか」という反論をするようになります。しかし,このような反論を受け入れる裁判所は多くないでしょう。東京地判平成23年5月27日先物取引裁判例集64巻329頁は,「被告Aは,要するにアイベストの指示のとおりに説明したにすぎないから過失がない旨の主張をするが,元本が保証され,かつ高利回りである投資商品は容易に想定しがたいのであるから,営業担当者としては会社から資料に基づいてその具体的な根拠について説明を受け,投資商品の運用状況を調査確認すべきであって,会社の説明を鵜呑みにして投資商品を販売しても過失がないというべきではなく,同被告の主張を採用することはできない。」と判示していますし,東京地判平成24年4月23日は,原告から預かったFX証拠金をFXの自動取引で運用することにより月利2から3%の運用利益を得ることができるという内容のものであり,しかもそれにより勧誘をした被告M・Sについても原告から預かったFX証拠金に対して月3%もの割合の報酬を得るというものである。このような取引が,およそあり得ない荒唐無稽のものであることは明らかであるから,被告M・Sは,FXの自動取引で運用しているとの内容が虚偽であることを知っていたと推認され,仮に虚偽であることを知らなかったとしても虚偽の勧誘をするにつき過失があったことは明らかである」と判示し,損害賠償額を被告が得た金額に限定すべき理由はないとしています。
 相談が急激に寄せられるようになっていますし,今後も寄せられるであろうことを踏まえ,当事務所で集団訴訟として被害回復を図る手続を行うことを予定しており,近日中に被害者に対するアナウンスをする予定です。
5月25日に公告しました→ http://article/sportbook/