判決報告(金・白金地金分割払い取引の公序良俗違反性)

 平成26年7月18日に標記事件について東京地裁で判決がありました。

 金・白金の地金を分割払で購入するという契約の外形を取って金銭を騙取する近時多発している商法について,詳細な判断を加えて同取引を公序良俗に違反するとして損害賠償請求を全部認容したものです。
判示の概要は,以下のとおりです。
 「20年間もの長期にわたって分割金を支払い,金等地金の引渡しを受けること自体に大きな意味はないこと,本件各契約は,顧客による中途解約が自由であることを考慮すると,本契約の主たる目的は,顧客が20年後に金等地金の引渡しを受けることにあるのではなく,任意の時点で中途解約をして解約時の金等の時価と契約時のそれとの差金を取得することにあると認められ,原告及び被告会社はそれを前提に本件各契約の内容を合意したものと認められ,本件各契約は,形式的には金等の割賦販売契約であるが,実質的には差金の授受によって契約関係から離脱することができる差金決済契約,先物取引である。先物取引は差金決済によって取引関係から離脱することができ,過当な投機や不健全な取引となる危険が大きいことから,類似施設の開設が禁じられ,相場による賭博行為が禁止されている。これら規程は委託者等の保護を目的とするものであるから,本件各契約が公序良俗に反するものといえるかどうかを判断するには,取引秩序の維持及び委託者保護のための方策が講じられていたかどうかを考慮する必要がある。
 被告会社は,顧客との間で139キログラムの金等の積立取引を継続中であるにもかかわらず,実際に保有している金等地金は合計665グラムにすぎないし,他に資産を有しているとも認められない。本件各契約の期間が20年という長期に及ぶことからすると,契約期間中に金等の価格が高騰した場合,多くの顧客が中途解約による清算又は早受渡しを希望することが容易に想定されるところ,上記のような被告会社の資産状況の下で,中途解約に応じて解約清算金を支払うことや,高騰した金等地金を取得して顧客に引き渡すことが可能であるとは考えにくく,仮に可能であるとしても,それは被告会社に巨額の損失を生じさせ,被告会社の存続自体を危うくさせるものである。取引秩序の維持についての制度的担保が存在しない本件各契約のような金等地金の先物取引においては,顧客による投下資金の回収又は金等地金の引渡しの可能性は被告会社の資産状況に依存することになるところ,上記の被告会社の資産状況に照らすと,被告会社の顧客は,被告会社の信用力について多大なリスクを負っていたものと認められるが,このようなリスク説明はない。
 本件各契約は,240回の分割払であるにもかかわらず,1回目の分割金は,手数料を含むことから取引総額の1割程度の50万円又は60万円である。そして,契約条項によれば,満期受渡し,早受渡し及び中途解約のいずれにおいても,手数料は被告会社の利益となる。また,金等の価格が下落し,顧客が中途解約した場合には,顧客には損失が生じる一方,被告会社は利益を得る。金等の価格が上昇し,顧客が中途解約による清算又は早期受渡しを希望した場合には,計算上,顧客が利益を得て被告会社に損失が生じることになるが,顧客は投下資金の回収や金等地金の引渡しを受けることができないリスクを負っているが,このような説明もしていない。
 本件各契約は,解約時の東京商品取引所の相場と契約時のそれとの差金を取得し,これにより契約関係から離脱することができ,投機性の高い取引を内容とする先物取引に該当し,商品先物取引法の相場による賭博行為の禁止等の規定に違反すると認められるところ,上記のとおり,取引秩序の維持及び委託者保護のための方策が講じられたものとはいえないから,公序良俗に反し,違法である。」

 この種の,金地金分割払取引の違法性を正しく指摘し,この種被害事案における求釈明(被害者側からする事実関係を明らかにするための情報等の開示を求める手続)やその結果の用い方などについても参考になるものと思います。広く援用できる判決でしょうから,この種商法の早期の消滅のために役立つものと思います。
 同種の問題点を有するCO2排出権取引にも応用できる判決でしょう。

なお,本判決は確定し,業者から全額が賠償されました。