弁護士による横領

 弁護士による横領が多発しているとの報道に接する。非常に遺憾なことである。弁護士は,金を預かることを日常業務として行うから,この点で弁護士に対する信頼が害されるようでは,弁護士業務は徒にやりにくくなりかねない。
 現在発覚しているのは成年後見事案であるとか,企業からの預かり金を含むものが多く,探知が比較的容易なものであるように見え,まだまだ多数の発覚していない同種犯行があるものとも予想される。横領など,やろうと思えば簡単にできてしまうように思えるし,少なくとも様々な方法があるだろうことは容易に想像できる。
 これに対する抜本的解決策も提示されている状況にはない。弁護士の矜恃に頼るほかない,経済的に困窮した弁護士をなくすべきである,などということが言われている程度である。弁護士全員が責任を負担し合うという議論も出てきているようだが,現実的なものであるとは思われない。私は,先輩弁護士から,弁護士は資格ではなく,単なる仕事でもなく,生き方であると教わってきた。「弁護士バッジ」には,多少の金(報道されている事案は,確かに巨額なものもあるが,あえて誤解を恐れずにいえば,弁護士としての「生き方」を犠牲にするほどの金額ではない)を得るために犯罪を犯して失ってしまうにはあまりにも惜しい大切な価値がある。多くの弁護士がそう考えていることがほとんど唯一と言って良い歯止めになっているのが実情だろう。
 しかし,他方で,容易に横領ができてしまうようでは,経済的に逼迫した状況が継続したときに犯行に及んでしまう者の出現を阻止し切れまい。刑法が器物損壊罪よりも(ブツを壊してしまうよりもまだブツに対する侵害の程度は小さいのに)窃盗罪や(業務上)横領罪に厳しい法定刑を定めているのは,人間の犯罪が利欲から出ることが圧倒的に多いという動かしがたい事実に根拠するものである。経済的逼迫は,これから逃れるために違法な経済的利得に向かわせてしまうことがあることもまた,否定しきれない事柄だろう。私は債務名義を履行しない弁護士に対する強制執行(弁護士の自宅での動産執行など)を行ったことがあるが,数十万円の金が払えないなどと言う弁護士もあった。そのような弁護士は,いつ犯行に踏み込んだとしても不思議ではないと感じられた。
 弁護士の業務が他人の金を預かることを不可欠の内容とする業務であるからには,一定の経済的基盤を有していることを前提にするべきとも思える。金融商品取引業者の自己資本比率のようなものである。全ての弁護士に資産的裏付けもしくはこれに代わる資産的要件(若手の弁護士が満たしうるように,弁護士会が主導するなりして互助的システムを構築することになるのであろうか)を有させることを検討すべき時期に来ているのかもしれない。会計監査を義務付けるなども真剣に検討されて良いだろう。
 また,横領は,「売上の隠匿」を伴うことが多いだろうから,税務調査により探知することができる場合も多いものと思われる。税務調査は,その対応に一定の時間と労力を要するから,弁護士を含む事業者にとって必ずしも歓迎したいものではないが,税務署の調査能力は非常に強力である。税務調査によってこの主犯罪が明るみになることも期待するほかない。

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