動産執行について改善が検討されて良いと思う点

 昨日は,雨の降る中,2人の勤務弁護士を伴って動産執行に行ってきた。ずぶ濡れになり,二度と動産執行などに行くものか,と思いかけた。。
 動産執行は,奏功しないというのが大方の認識であろうと思われる。しかし,いくつかの改善をすれば,多少は有意なものになり得るのではないか。
1 債権者の納得のためにも債権者の立会を権利として認め,債務者の生活の平穏等を不当に害さない手当をした上で,一定程度の探索行為を許容するべきではないか。現在のように執行官が建物の外観で執行対象となるような財産はないと判断するというのでは,債権者の納得を得ることは難しいだろう。
2 動産執行において差し押さえるか否かの判断に当たって債権者側の買い受けの意向を十分に斟酌するべきではないか。執行官が動産の評価を大きな裁量を以て行いうるのは,動産執行手続においては,価格の算定にあたって,原則として現金支払が求められること(民執規118条),売却期日までの期間が短いこと(同114条),中古品であるときに瑕疵があっても売主による修理などのアフターサービスがないことなどの中古品としての危険性があること,などの特殊な状況があることにその大きな理由を求めることができるところ,執行に立ち会った債権者側が相当価格で買い受ける旨申し出たというような場合には,上記のような動産執行における売却手続の特殊性を考えあわせても,「差押物の売得金の額が手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の額の合計以上になる見込みがないとき」(法128条2項)や「差押物について相当な方法による売却の実施をしてもなお売却の見込みがないとき」(法130条)に当たらないのであるから,これを差し押さえるべき動産の選択を判断するに当たって考慮するのが適切であろうと思われるのである。
3 「差押物の売得金の額が手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の額の合計以上になる見込みがないとき」(法128条2項)や「差押物について相当な方法による売却の実施をしてもなお売却の見込みがないとき」(法130条)に該るとして民事執行の手続を取り消す執行官の処分に対する執行異議の申立てを却下する裁判に対しては執行抗告をすることができる(民事執行法12条1項第2文)。しかし,現行法上,これらの判断を執行官が差押えの前にしてある物を動産執行の対象としなかった場合には,これを執行抗告によって争うことができないこととなっている。これでは均衡を失し,適切でないので,執行抗告が可能となるようにするべきではなかろうか。

 ところで,詐欺的商法を行う者は毎日を食うや食わずでいるから仕方なく悪事に手を染めているというわけではない。動産執行は詐欺業者が多くの被害者の苦悩の上に保有している豪華な資産を奪還する,ダイナミックな執行である。現金はもちろん,テレビやコピー機,食器,珍しいものとしては乗馬運動器や電動マージャン卓に至るまで,差押えた対象は多種多様である。
 執行官を伴って動産執行が実施されたということには少なからぬ衝撃を受けるのが通常であり,執行の実施によって和解の気運が高まることも期待される。通常は動産執行は徒労であると認識されているきらいがあるが,動産執行を端緒に数千万円もの被害回復が得られた事例もあり,軽視するべきでない。
 法人に対する業者営業所を執行場所とする動産執行では,差押手続中に金員をどこかから持ってこさせ,その場に存在する現金として差押えた例もある。動産執行は,隠匿している財産を顕出させる手段でもあるのである。
 また,動産執行は,情報の探知のきっかけにもなる。動産執行に行ったときに聞くと不用意に質問が来たことや執行官が臨場してする手続の直後であることなどから本人自身が白状する場合もある。執行場所に立ち会った詐欺業者の身内の者などが述べることもある。自身に執行がなされたときには,「なぜ自分だけが」と思うのが通常であり,その余の相被告らの財産の状況等について情報を提供する強い動機を有することになるから,そのような機運は機敏に察知し,適切な情報提供に誘導してやらなければならない。
 動産執行は,単に形式的に「動産に対する執行」であるばかりでは決してない。「情報に対する執行」であるという側面をも色濃く併せ持つのである。(荒井哲朗)
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