犯罪利用口座として凍結された口座に関する金融機関の情報開示の問題点のうち,喫緊の課題であると考えられるもの

 いわゆる買取仮装型劇場型詐欺商法は,今なお減少の傾向を見せず,高齢者の生活の平穏を害する最も重大な犯罪の一つとなっている。これに対しては,犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律に基づく口座の凍結等が一定の成果を上げており,関係諸機関からも同法の積極的な利用が提言されているところである。しかしながら,同法の運用には,同法の実効性の確保の観点から,直ちに改められるべき点がある。
 まず,犯罪利用口座として凍結された口座の残高は,同口座に対する仮差押等の手続を採るべきか否か,採るとして仮差押債権をいくらに設定するべきかを検討するために不可欠である。また,同口座の名義人は誰かということは,口座名義人はしばしば同一商号の別会社であったりすることがあり,被害回復手続の名宛人を正確に把握するためには口座の名義人を正確に把握することから,やはりこれを確知することが不可欠である。しかし,金融機関の中には,これを速やかに開示しないものがある。
 ところで,これらが即時に回答されないと,取り返しのつかないことが生じうる。すなわち,口座名義人と第三者が通謀し,架空の債務負担をする公正証書を作成して凍結預金に対して強制執行手続を採り,口座凍結を潜脱しようとする例が散見されるところ,上記事項が即時に回答されないとこれを漫然と許してしまうことになってしまうのである。
 このような強制執行妨害は古くから見られるものであるが(例えば福岡地大牟田支判平成5年7月15日判タ828号278頁),振り込め詐欺利用口座については調書判決が偽造されて口座凍結が解除されてしまったという例が報道され(平成20年10月18日付共同通信発),その後,預金名義人自身が凍結口座からの払戻しを請求する訴訟を試みた例がいくつか見られ(東京地判平成22年7月23日金法1907号121頁,東京地判平成22年12月3日金法1921号112頁),いずれも名義人の請求が棄却されているものの,法の潜脱が模索され続けていることがうかがわれる。
 そして,その最も新しい手口として,口座を凍結された違法業者が第三者と結託して公正証書により架空の債務負担をして強制執行手続の形態を採って違法に口座凍結の解除と同一の効果を企図する例が見られるようになっている。このような行為は,強制執行妨害罪を構成させる犯罪行為であるが,すでに詐欺罪に該当する行為を行っている口座名義人ないしその構成員にはさらなる刑事罰は抑止力とはならないのであって,何らかの民事執行手続内での違法の阻止が試みられなければならないところ,現行の法制度の中では,(仮)差押えを競合させ,(狭義の)配当手続に移行させて配当異議訴訟によりこれを阻止するほか方法がないように思われ,そうすると,(仮)差押えの競合を生じさせることが喫緊の要請となり,そのためには,少なくとも口座残高及び口座名義人については直ちに(違法行為を行った者が公正証書による強制執行手続を了してしまわないうちに被害者が債権仮差押命令申立手続を採ることができるような時間内に)開示される必要性が著しく高い。
 そこで,このような対応を金融機関が統一して行うよう,日本弁護士連合会,先物取引被害全国研究会などから金融庁,警察庁などにしかるべき要請をする必要があるのではないか。
 また,凍結口座から現金出金されている場合,払戻手続を行った者の氏名・住所等を出金の際の伝票や出金した者から徴求した本人確認資料を添付して回答を得ることは,当該口座から出金行為をした者を特定し,その者が出金行為をしたときの所属組織を特定して,本件詐欺商法の関与者を探知・特定するために不可欠である。
 さらに,凍結口座から振替出金されている場合,振替先口座の銀行・支店・口座種別・口座名義を確知することは,いわゆる買取仮装型劇場型詐欺商法においては,犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律に基づく口座の凍結等を警戒し,被害者らからの入金があったときには数分以内にこれを別の金融機関の口座に送金(振替)している例が多く見られるから,振替先を知ることによって本件詐欺商法の,隠れた,しかし実質的に主導的地位にあり,違法収益の最終的な利得に与っている関与者を探知・特定するために不可欠である。
 なお,このような場合には,同法に基づく凍結申請を受けた金融機関としては,同法3条2項に基づき,振替先金融機関に必要な情報を提供し,これを受けた振替先金融機関は,同法2条4項2号の犯罪利用預金口座を知った金融機関として,同法4条に基づき,速やかに口座の凍結をしたうえで所定の手続を採るべきであるが,現状では適切な対応が採られているとは評価し得ず,新たな被害の発生を阻止する機能を果たせていない。
 そこで,これらについては,少なくとも,弁護士法23条の2に基づく照会に速やかに回答する運用を採るように周知徹底されるよう,日本弁護士連合会,先物取引被害全国研究会などから金融庁,警察庁などにしかるべき要請をする必要があるのではないか。(荒井哲朗)

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