無剰余取消と有名義債権者による不動産仮差押命令申立の可否(4)

 (続き)
原決定は,このような事態は,無剰余取消しの制度を採用する民事執行法が予定し,容認している事態であるかのようにいうが,民事執行法は,そのような事態を嬉々として歓迎しているわけでは全くなく,強制競売手続という,限られた期間で限られた情報の元でかつ事後的な保障などもなく,限られた広報しかできず通常の不動産取引におけるそれとは格段に異なる数の潜在的買受希望者しかない「市場」の中では実際の価値を強制競売手続に反映させることが困難であることから,実際の価値よりも低い価格を基準とする無剰余取消をやむを得ないものとして行わざるを得ないものとしているのであって,無剰余取消制度が現実の不動産価値との乖離部分の余剰価値という執行不能財産を作出することを積極的に容認し,これを回避する手続があり得るのにこれを禁じる趣旨に出るものであるとは,到底解することはできない。
 本件のような仮差押の申立に権利保護の必要性があることは明らかであり,これを認める上記名古屋高決のような手当は,民事執行手続における不動産価値の評価及びこれを基礎とする無剰余通知・取消と現実の不動産の経済的価値の間に乖離があるという民事執行制度に内在する問題のとりあえずの解決として,適切なものであるというべきである(債務者には格別の不利益を生じさせることはなく,万一何らかの不利益が生じるとしても,それは担保がたてられることによって利害が調整されている事柄であると見うる)。平成21年度主要民事判例解説(別冊判例タイムズ)その他の判例解説が,概ね名古屋高決に好意的な見解を示しているのも,そのゆえんであろう。(続く)

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