対ソフトバンク訴訟第1審判決等報告(2)

(続き)
4 ソフトバンクは電気通信事業法4条2項は憲法21条2項後段に根拠があるから,民訴法に基づく調査嘱託に回答するべき義務に優越する旨主張するが,「通信の秘密」以外の「通信に関して知り得た他人の秘密」については調査嘱託に対して回答するべき義務に当然に優越するものではない。ソフトバンクは電気通信事業法4条2項は民訴法との関係では特別法の関係にある旨主張するが,両者の関係を一般法と特別法の関係と見ることはできない。
5 ソフトバンクは,従業員が本件調査嘱託事項について証人として尋問される場合には当該従業員は民訴法197条1項2号の類推適用により証言を拒絶することができるから,ソフトバンクが本件調査嘱託に対して回答を拒絶するとしなければ民訴法の統一的解釈が果たされない旨主張するが,自然人を対象とする証人尋問と法人等を対象とする調査嘱託とでその規律を異にすることは当然であるからソフトバンクの主張は採用できない。
6 ソフトバンクは最判昭和56年4月14日を挙げて契約名義人に対して不法行為責任を負う可能性があると言うが,これは前科及び犯罪経歴という高度にセンシティブな情報に関する事案についての事例判断であり,このような情報について調査嘱託がなされた場合に秘密保持義務が当該調査嘱託に回答すべき義務に優越すると判断することが困難であるとはいえない。
7 ソフトバンクは,例えばドメスティックバイオレンスの被害者などが契約上の住所や請求書送付先を変更することができず,携帯電話の使用を継続できなくなるなどの萎縮的効果が生じ,ソフトバンクが電気通信役務の円滑な提供を確保し,その利用者の利益を保護することができなくなるといった弊害が生ずる旨主張するが,契約上の住所や請求書送付先住所の変更が携帯電話の使用を継続するために不可欠であるとはいえないことに加え,調査嘱託は,裁判所が職権により又は当事者の申立てを審査した上で行うものであり,乱用的な調査嘱託の利用を排除する制度的な保障が設けられているといえることからすると,ソフトバンクが本件調査嘱託に回答したからといって弊害が生ずるとも考え難い。
(続く)