金地金取引,金地金売買契約まがい取引(代金を契約時に設定した上で代金を長期間の分割払いとし,差金の授受による契約関係からの離脱を可能とするという,店頭先物取引類似取引)

 金地金(場合によっては白金地金)を大量に売付け(たことにし),総代金の2割程度を支払わせ,残りを300回程度の分割払いとする,という現代型金現物まがい商法が跋扈の兆しを見せている。
 色々と警告が発せられているが,要するにこの取引は金地金の取引であると評価できるものではなく,これに藉口した詐欺商法であると見るべきものであるから,取引は絶対にするべきではない。万一騙されてしまった場合には代金の引き落としを即時に停止し(銀行に預金口座振替解約届を提出し),業者に対しては支払,あるいは引き落とされた金員の賠償を求めるのが相当である。

 近時跋扈の兆しを見せている金地金取引,金地金売買契約まがい「取引」は,契約時の価格で金を購入したこととして,第1回分として上記のとおり相当額を支払わせた上,残額を300回程度の分割払いとし,その全額を支払って初めて金等の引き渡しを受けうることとなり,それまでの間,将来の任意の時点で中途解約をすることができ,そのときには,解約日の東京工業品取引所の価格を基準として業者が定める金額と契約時の価格との差額を精算する,というものである。例えば,5月23日に金を4キロ,1グラムあたり4243円,総購入代金1697万2000円で購入したこととし,同日280万円を支払い,残額は平成49年4月まで毎月5万3000円(2回目は7万5000円)の分割で支払い,将来の任意の時点で「中途解約」をして差金の授受をする,というものである。他に購入代金の10パーセントの手数料を支払う必要があるものとされ,年間数万円の口座管理費及び情報料等を支払うものとされている。また,価格が20%下落した場合に自動的に取引を解約するなどという「ロスカット制度」が設けられている。
 このような「取引」は,「金・白金地金売買契約」などと称してはいるものの,上記の仕組みに照らして,一般に,「ロコ・ロンドン貴金属まがい取引」と称されていた取引類型とその実質は何ら異ならない,将来の金等価格によって差金決済をする私的差金決済契約であって(なお,一般に差金決済契約とは,差金の授受により契約関係から離脱できるものをいい,本件取引は明らかにこれに該当する。)「取引」の仕組み自体,取引公序に著しく反するものとして違法であり,業者が,このようなあからさまな詐欺商法を作出してこれを口実に高齢者らから金銭を交付させることは,反倫理的な不法行為である。
 敷衍する。このような「私設」「現物まがい」「証拠金」(差金決済時には売買総代金について差損益が生じるから,1回目の支払金額と売買総額との間にレバレッジがかかっていると見ることができる。)取引である私的差金決済取引は,賭博として刑事罰を以て禁止される行為を,あたかも何らかの真っ当な取引であるかのような外観を生じさせて,高率の手数料を徴求し(貴金属の価格で利ざやを得ようとする取引をしたいというのであれば法律で整備された国内の先物取引を行えば足りるのであって,手数料もその方が圧倒的に割安である。),一方的に「証拠金」(その趣旨を持つ第1回目の支払い金員)を徴求し(保全の措置が法律上整備されているわけではないから利益金はおろか「証拠金」でさえ返還される保証はなく,現実に平成17年には外国為替証拠金取引業者の多くが証拠金を返還することなく破綻したことは記憶に新しいところである。),差損益計算に大きな影響を及ぼす差金決済指標である金等現物価格を一方的に業者において決定することとして(レートは勝手に設定できるのであるから,損失も利益もいかようにでも加減しえ,「顧客」の「損失」は業者によっていかようにも増減できることとなる。),業者において業として,図利目的で,常習的に行われるものであり,そのようなものであると聞かされれば通常人であればこのような取引を行うとはおよそ考えられないものであるから,本件商法はそれ自体「いかさま賭博」,「詐欺賭博」とでもいうほかはないものである(したがって,本件取引の実際を明らかにしない詐欺的勧誘が不可避的に行われることになる。「高い利息や利益が見込まれます」という勧誘をする一方で,「そうは言うけれども,実はあなたに得になってしまうと私の会社が自腹でそれを支払うし,利益が得られないから,本当はあなたには損をしてもらわないと会社としては困るのです。」という説明を従業員はしなければならないが,このような説明がなされるとはおよそ期待することはできない。)。これをあたかも何らかの真っ当な商品であるかのように誤信させて利益相反状況その他の顧客に不利益な事情を悉く秘したまま一般消費者を勧誘してこれを行わせて金銭の交付を受ける行為は,公序良俗に著しく反し,私法上も不法行為を構成させるに十分な違法性を有するものというべきである(法令による違法性阻却のない私的差金決済取引の存在を認めることは一般の取引行為者の保護をその目的(例えば金融商品取引法1条,商品先物取引法1条)とする取引関連法令と様々な点で矛盾を来すことになる。一般取引者の保護の観点から定められた法令の趣旨を根本から大きく崩してしまう私的差金決済取引を作出して勧誘し,これを行わせることは,私法上の違法性が認められるといわなければならず,これを許すときには,金融商品取引秩序が根本から瓦解することになることは見易い道理である。)。
 この理は,東京高判平成20年10月30日(先物取引裁判例集53巻377頁,消費者法ニュース78号278頁)ほか多数の裁判例が指摘するところである。同判決は,
 「本件取引は,控訴人会社が提示する「ロンドン渡しの金の現物価格」及び「ドル為替変動」を差金決済の指標とする差金決済契約である。売買差金の額は,顧客が買ったあるいは売ったとされる「ロンドン渡しの金の現物価格」を「ドルの為替レート」によって換算した額と顧客がその後に売ったあるいは買ったとされる「ロンドン渡しの金の現物価格」を「ドルの為替レート」によって換算した額との差額によって算出されるものであるし,「ロンドン渡しの金の現物価格」も「ドルの為替レート」も,控訴人会社及び顧客には予見することができないものであり,また,その意思によって自由に支配することができないものであるから,本件取引は,偶然の事情によって利益の得喪を争うものというべきであり,賭博行為に該当する。
 そして,全証拠によっても,本件取引の違法性を阻却する事由を認めることはできない。(中略)
 上記1のとおり,本件取引は賭博に該当し違法なものであるから,仮に被控訴人が本件取引の仕組みやリスクを理解して本件取引を行ったとしても,被控訴人を顧客として本件取引に勧誘してこれに引き入れた点において,その勧誘行為を行った控訴人○はもとより,控訴人○,同○(注:取締役ら)及び同○(事実上の代表者)も意思の連絡があったと認められるので民法719条1項の共同不法行為責任を負うというべきであり,控訴人会社も民法715条の使用者責任を負う。」と判示している。
 これと同旨は,わたくしが担当したもののみでも,東京高判平成20年3月27日先物取引裁判例集51巻175頁・消費者法ニュース76号256頁,東京地判平成21年3月16日先物取引裁判例集55巻97頁,東京地判平成21年3月25日消費者法ニュース80号266頁・先物取引裁判例集55巻177頁,東京地判平成21年4月10日消費者法ニュース80号268頁・先物取引裁判例集55巻345頁,東京地判平成21年5月25日先物取引裁判例集56巻109頁,東京高判平成21年7月15日先物取引裁判例集55巻110頁,東京地判平成21年10月1日先物取引裁判例集57巻273頁,東京地判平成21年10月5日先物取引裁判例集57巻283頁・消費者法ニュース82号228頁,東京地判平成21年12月16日先物取引裁判例集58巻326頁,東京地判平成22年6月10日先物取引裁判例集60巻29頁,東京地判平成22年8月25日先物取引裁判例集60巻56頁・消費者法ニュース86号193頁,東京地判平成22年11月4日先物取引裁判例集62巻254頁・消費者法ニュース86号196頁,東京地判平成23年11月22日先物取引裁判例集64巻181頁・消費者法ニュース91号221頁,東京地判平成24年1月18日先物取引裁判例集64巻252頁,東京高判平成24年4月26日先物取引裁判例集65巻222頁がそろって指摘するところである。
 さらに,この種「取引」に藉口して金員を騙取する業者は,金融商品取引に関する何らの許可・登録とも無縁であり,違法な取引・勧誘を行わない人的構成,組織体制にある法律上の担保を欠き,取引上の義務の履行を担保しうる財務状況(自己資本比率規制がその最も基本的なものである。設立されたばかりの資本金も1000万円程度しかないような業者が将来金の価格がいくら値上がりしようとも契約時の金額さえ払えば25年後に貴金属を引き渡してくれる(その客観的意思と能力がある)と期待することは常識的ではないだろう。)についての制度上の担保も全くなく,財務状況を開示させる制度的担保もなく,現に財務状況は開示されておらず,分別管理の法令上の担保もなく,現に分別管理がなされているか否か,なされている場合にその状況について公開されてもおらず,そのような状況で,電話による不招請勧誘によって,構造的利益相反状況や公序良俗に反する取引による利益であるとして利益金支払請求権が法律上保護されない可能性が相当程度に存在することを説明せず,金銭を交付させているのであって,およそ正当業務行為として違法性を阻却されるものではない。
 屋上屋を重ねてさらに言えば,仮にこのような「取引」が適法に存在しうるとの考えに立つ場合にでも,なお,この種「取引」自体が違法であると判断する裁判所が大勢を占めるであろうということまでは否定し得ないだろう。そうすると,裁判所によって利益金請求権が否定されることとなる可能性があること及びそのことは全く説明されていないことも問題となってくる。
 すなわち,上記東京地判平成21年5月25日は,「賭博によって相手方が負担することになった金銭債務の支払を求めることは,公序良俗に反し許されないことであり,原告らの主張する損害は,まさにこれに当たるといわなければならない。そして,賭博の結果について法がその実現に助力することができない以上,原告らが被告らに対し,上記損害の賠償を求めることは許されないというべきである。」と判示しているのである。つまり,「顧客」は,この種「取引」で利益計算となっても仕方がないのである。単に,零細な詐欺的業者に対して,法律が保護しない請求権を取得することがありうるのみであって,業者がそれを気前よく支払わないときには,訴訟上の請求によっても利益を得ることができない(可能性が極めて高く,現にそのような裁判例がある)のである。計算上の損をすれば交付金員の返還が受けられず,計算上の利益を生じてもそれは法律上有効な請求権とはならない。このような「取引」が正常な取引であるということは,およそ不可能であろう。また,仮に上記のような説明(損したらお金が無くなり,得になっても裁判所は払えとはいわない。うちの会社の気分次第で払わなくてもあなたはどうしようもない,という説明)がなされたときには,誰も取引をすることはないだろうから,そのような説明がなされるか否かは「顧客」が取引をするか否かを決定的に左右する事柄として十分に説明されなければならない事柄であるというべきところ,そのような説明は(当然といえば当然であるが)なされることはない。この点にもこの種「取引」の構造的違法性がある。
 さらには,この種「取引」は相対取引であるから,顧客と業者の利害は決定的に対立するものであり,業者は,「あなたが利益を出せば,私の会社は損をする。あなたが損を出せば,私の会社は利益を出す。」という取引であることを「顧客」に対して十分に理解させるような説明を行うべき注意義務がある。しかし,このような説明をされてこれを理解をした者が取引をするとはおよそ考えられない。この種「取引」に関する書面を見てもこの点に十分な注意が向けられるような記載は全くない。
 これらに加えて,個別事情を加味してみると,「取引」の仕組み及びリスクの態様(価格変動リスクのみでなく,その決定権者が一方当事者である貴社であることからくるリスク,情報収集の困難性からくるリスク,分別管理が十分になされていないリスク,信用リスク,益金の支払を受けることができない可能性が高いという司法リスク,利益相反状況で取引の勧奨を受けるリスク,高齢者であるが故の判断能力低下のリスク)からして,この種「取引」業者の攻撃対象とされている高齢者らの情況(わたくしが担当している事案は専ら年金によって生計を立て,余裕資産のない,心身の能力の低下した独居高齢者に上記のような仕組みで総額5439万8000円もの貴金属を購入させるというものであった)に照らして,このような「取引」を勧誘し,取引を開始させ,継続させることが,適合性原則に著しく違反し,年金制度等を構築して高齢者の老後の生活の平穏を守ろうとしている我が国制度における高齢者の財産保護についての国民全体の指向するところに真っ向から対立する反社会的・反倫理的・反道徳的な醜悪な行為であることは疑いを容れる余地がないだろう。

 追記(平成26年9月9日):なお,この種商法の違法性について,東京地判平成25年12月12日東京地判平成26年7月18日がある。いずれも弊所のHPに掲記してあるので,参照されたい。

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