放射性物質で汚染された地域の食品を忌避することは,何一つ間違っていない

 5年前の原発事故は,人を分断しました。現在も復興に対局するものとして著しく大きないびつさとして立ちはだかっています。その一つの象徴的事象が,食品汚染の問題だと思います。被災地は苦しい。なんとしてでも力になりたい。私にとっても,近しい人々の住む,近しい地域です。その復興なくしては我が国の健全な発展もありません。しかし,放射性物質を取り込んでいる食品(の形をした放射性汚染物)をあえて食べることはしません。
 原発事故直後,早急に被ばく地域の生産物の流通を止めるべきだと訴えました。しかし,あのときの「世間の空気感」は違っていました。弁護士の中でも,「洗って食べよう放射能」などという人があったくらいです。
 当然,忌むべき事態は止められませんでした。出荷自粛野菜のスーパーへの流出,原乳の線量の希釈検査,出荷制限野菜の宅配流出。防護マスクをつけて作付けを始める汚染地域の生産者。少しでも暫定規制値を下回ったとして売られている農作物を「安全だから給食に使う」と嘯く者の存在。汚染野菜が売れないから一箱1円で売ったという恐ろしい話を被害者らしい顔つきでする農業従事者と,それがあたかも同情されるべき話であるかのように報道される状況。当然の流れとして,やはり生じた,確信的な汚染物の出荷。
 食品を経由して広く放射性物質がばらまかれていました。被災地の産物を買って摂取することが被災地支援になるというかのような欺瞞が消費者を冒そうとしていたのです。それは,今でも変わらないでしょう。
 私は食べませんよ。福島のものは,できるかぎり食べません。(安全宣言直後に汚染食品を流通させて)信頼を裏切った千葉の旭市のサンチュなんか一生食べたくありません。非国民だとののしられても,食べません。放射性物質の体内への取り込みは,できる限り少ないに越したことがないと考えるのは当然のことでしょう。
 「食べて応援」。そんなことが,被ばく状況が判然としない時期から言われ続けてきました。政治家などがこぞって(弁護士会の会長なども)被ばく地域の食品を頬張るパフォーマンスをしていました。彼らは高齢です。彼らが勝手に食べるのであれば好きにしたらいい。しかし,「権威」のある人が,あえて国民に見える形でそれを口にすることの意味は,「安全だから君たちも食いなさい。君たちの子供の口に押し込みなさい。」ということを意味します。無責任にもほどがあると感じたものです。私は,子供の口にそんなもん入れたりするものか。自らの立場・影響力をわきまえもせず(いや,わきまえていたからこそそういった行動に出たのでしょうが),へらへらして汚染物を得意げに口にするんじゃない。放射性物質を我が子の体内に取り込ませることで被災地支援をするというのは,およそ人間のすることではない。あまりのおぞましさに気が狂いそうでした。
 情報が錯綜し,汚染の範囲や程度も十分には分かっていない時期でした。そういう時期に軽々しく「風評被害に負けるな」,「食べて応援」という空気感が醸成されたことに,私は心底怒りと恐怖を覚えたものです。
 少し補足しますが,汚染されているされていないは科学の問題でのみ左右されているものではありません。科学の観点からは,できる限り汚染から遠ざかるに越したことはありません。これは,経済の話です。カネの話です。補償は負担になるから、子供にだって食べさせてしまえ。そういう話です。被ばく地域には,適切に賠償しなければならない。絶対に安全であると強弁して原子力の商業利用をしてきた電力会社が賠償すべきはもちろん,それを止められなかった国民全体が公平に負担しなければならない。風評被害などという言葉で不安を表明する消費者を貶め、放射性汚染物を目をつぶって口に入れ,子供の口にさえ押し込む蛮勇が「被災地支援」ともてはやされる。こんな人権侵害は戦争以外に我が国にはなかったのではないかと思います。
 5年前,私は弁護士に向けて上記のようなことを発信し,それを漏れ聞いたのか,多くの声が私には寄せられました。多くが,小さな子供を持つお母さんからでした。私には何ができるわけでもありませんが,自分の考えを変える必要がないという安心感を持てたということで,一定の意味があったのだと思いました。下記の日弁連の日弁連の意見書にも微力ながら繋がりました。
 なぜ今になってこのようなことを改めて言おうと考えたかというと,放射性物質は今なお除去され切らず,むしろ放出され続けているのに,年月が経つにつれ,「風評被害非難」は改めて強まりを見せているようにも感じられるからです。情報は,非対称です。「安全」をいう勢力には莫大な金があります。放射能から身を守ることさえ,個々に分断されてしまった消費者には,極めて難しいことです。しかし,自分の考えを変える必要は,全くないと,私は思います。

日本弁護士連合会:2011年10月19日,「消費者の食品に対する安全・安心の確保のために放射性汚染食品による内部被ばくを防止する施策の実施を求める意見書」
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2011/111019_4.html