スイスフランの激しい動き

 昨日からスイスフランが大きく動いていますね。
 これは当然FX取引にも波及し,様々な問題が出ているようです。こういう場合に寄せられる相談は,やはりロスカット遅延に起因するものです。あるFX業者ではロスカットがかかったが,業者,ポジションの状況,時間帯によっては10分も遅延したという相談も寄せられています。
 FX取引は,その倍率等から,瞬時の発注,約定が可能な電算処理システムになじむ取引として発展し,現在のFX取引は実際にそのほとんど全て(そうでない業者は知らない)が電算処理によって取引システムを構築し,そこで取引が行われています。注文の発効,約定が遅滞した場合の顧客の損失の大きさ等からすれば,電算処理によってされる注文の発効,約定は,ほぼ瞬時になされるべきものであり,顧客らも,FX取引をそのようなものとして理解して取引に参加していることは,社会経済上公知の事実でしょう。
 予期される程度の価格の変動,注文の集中によってこれが滞るようなシステムであるとすれば,そのようなシステム自体,FX取引のシステムとして不適切であるとのそしりを免れえないかもしれません。予期される以上の価格の変動,注文の集中などがあった場合には,その程度に見合った若干の遅滞が許されうる余地があるでしょうが,このような事象が生じたこと,及びこれによってどのような機序で遅滞が生じたのかがきちんと説明され,それが,(レバレッジ取引であること,価格が急変することが極めて頻繁に起こること)からして注文の発効,約定の遅滞した場合に顧客が大きな損失を被ることを甘受させるに足りる事情である場合にのみ(訴訟事件の場面でいえばそのような立証が適切に尽くされたときにのみ),その限度では責任を免れうる余地があるものというべきであるとも考えられます。そうでなければ,FX業者は,抽象的に価格変動が大きかったとか,注文が多かったなどといえば免責されることになり,ひいては恣意的な取引の成否,成立時間,価格を相対取引の対立当事者であるFX取引業者が恣意的に操作できるということになり,このような取引はおよそ健全な金融取引として許容される前提を欠くものというほかはないからです。
 東京地判平成20年7月16日金法1871号51頁は,「ロスカット手続は,有効証拠金額があらかじめ決められた所定の水準まで減少するという条件が成就した場合に発動する手続であって,そもそも大きな為替相場の変動とそれによる混乱の発生を予定している仕組みである上,原告が預託した証拠金よりはるかに多額の建玉の運用を可能とし,極めて危険性の高い本件取引において,ロスカット・ルールは顧客の損失の拡大を防止し顧客を保護するいわば安全弁としての機能を有するものであることからすれば,外国為替証拠金取引業者である被告は,真に予測不可能なものを除いて,同取引において起こり得る様々な事態に十分対応できるよう,ロスカット手続のためのシステムを用意しておかなければならないというべきである。」と判示しています。
 これは,同事件がロスカット注文に係る紛争であって,原告代理人であった当職の主張,被告会社の防御もこの点に焦点が当てられていたからこのような判示になっているのであって,上記したところからすれば,FX取引業者は,真に予測不可能なものを除いて,同取引において起こり得る様々な事態に十分対応して,注文の発注処理,約定処理自体が適切に行われるシステムを構築しておくべき義務があるというべきでしょう。
 なお,本判決は,注文を成立させる義務まではないとしていますが,この点について同判決の判解(神作裕之ジュリスト1435号128頁)は,「(ロスカット)ルールを確実かつ迅速に実行したかどうか,業者の恣意が介在しなかったかどうか等が問題とされるべきであ」ると指摘しています。
 同旨の指摘は,「10秒」なら構わないとの趣旨でFX業者が挙げることのある東京地判平成25年10月16日判時2224号55頁の解説において,「10秒という判断基準についても,技術的可能性その他の面から多角的な検討が必要と思われるところであって,本判決の示した上記基準を直ちに一般化することは相当でないと思われる」としてされているところでもあります。
 したがって,要するに,真に予測不可能なものを除いて,FX取引において起こり得る様々な事態に十分対応して,注文の発注処理,約定処理自体が適切に行われるシステムが構築されていたこと,及び,それでもなお遅滞を生じてしまった予期される以上の価格の変動,注文の集中などがあり,それによりどのような機序で遅滞が生じたのかが主張立証されなければ,FX取引業者は免責され得ないのではないのではないかと考える余地があるでしょう。
 いずれにせよ,今後,ロスカット遅延が大きく生じたFX取引業者からの適切な説明がなされることが望まれると思います。

 なお,多数の問合せが寄せられていますが,当事務所では,今回の問題は,損害賠償請求,差損金の債務不存在確認請求事件としては原則として取り扱わないこととしました(もっとも,いわゆるゼロカットを謳っていた業者については別異に考えるべきものと思っています。)。破産手続による差損金債務からの解放にも一定の法律上の問題点があり,慎重を期す必要があることから,破産手続については委任を受ける方向です。

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