5.預金にかかる第三者異議訴訟

(東京高等裁判所令和元年11月20日判決,東京地方裁判所令和元年6月26日判決)

本件は,依頼者が債務者Aに対する強制執行としてA名義口座の預金債権(定期預金及び普通預金の各口座)を差し押さえたところ,Aの母親であるがXが,かかる口座は自ら開設して管理してきたものであると主張して,上記強制執行の不許を求めたという第三者異議訴訟である。
 A名義口座の預金がAに帰属するといえるか否かが争点であった。
 第一審判決(東京地判令和元年6月26日)は,各口座の開設経緯や届出印の保管状況等に関するXの供述の信用性を否定した上で,名義人がAであること及び出入金履歴等に照らして口座をAが管理していた可能性があると指摘して,Xの請求を棄却した。
 Xは控訴したが,控訴審判決(東京高判令和元年11月20日,確定)は補足的判断として,以下の規範を定立してXの控訴を棄却した。
 「預金債権の帰属は,普通預金・定期預金を問わず,預金原資の出捐関係,口座開設者,出捐者の口座開設者に対する委任内容,預金口座名義,預金通帳及び届出印の保管状況等の諸要素を総合的に勘案した上で,誰が自己の預金とする意思を有していたかという観点から認定判断するのが相当である。そして,自らを預金口座の名義人としたという事実は,通常は,その名義人たる者が自己の預金とする意思を有していたことを強く推認させる重要な間接事実である。したがって,本件各預金がいずれもA名義であることは,当該預金債権がAに帰属することを強く推認させるものであり,それにもかかわらずXに帰属するというのであれば,相応の事情が必要である。」
 預金執行に際して預金の帰属が争われるケースで参考になると思われるので,ここで紹介する。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(被害者勝訴,相手方控訴)

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(控訴棄却,確定)

1.弁護士会照会に対する報告義務
(東京高等裁判所平成22年9月29日判決ほか)
2.ソフトバンクモバイルの調査嘱託に対する回答拒否事件
(東京地方裁判所平成24年5月22日判決,東京高等裁判所平成24年10月24日判決)
3.保険証券番号不特定執行
(東京高等裁判所平成22年9月8日決定)
4.仮装離婚と財産分与の虚偽表示による無効・債権者代位による不動産移転登記抹消登記手続請求
(東京地方裁判所平成25年9月2日判決,東京高等裁判所平成26年3月18日判決)
詐欺的業者の首謀者が妻との離婚を仮装して財産分与をした事案について,離婚及び財産分与は通謀虚偽表示により無効であるとして債権者代位により居宅不動産の所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した事例 5.預金にかかる第三者異議訴訟
(東京高等裁判所令和元年11月20日判決,東京地方裁判所令和元年6月26日判決)
第三者異議訴訟において預金が名義人に帰属すると判断された事例 6.判決確定後の被告の住所判明と更正決定
(東京地方裁判所令和元年11月28日決定)
判決確定後に被告の住所が判明した場合にこれを併記した更正決定例 7.訴えの提起における当事者の特定・住所地の記載されていない債務名義の強制執行の方法等
(東京高等裁判所平成21年12月25日判決ほか)
8.詐欺商法業者の代理人弁護士の預かり金に対する強制執行を認めた事例
(東京地判平成29年7月25日,東京高判平成30年2月21日)
9.金融商品取引業者と取引履歴の開示
(東京地方裁判所平成20年9月12日決定ほか)
10.詐欺的取引と裁判管轄(移送の可否)
(東京高等裁判所平成23年6月1日決定)
11.支店不特定執行
(東京高等裁判所平成23年3月30日決定ほか)
12.支店不特定執行(2)
(東京高等裁判所平成26年6月3日決定)
13.預金債権の時間的包括的執行
(奈良地方裁判所平成21年3月5日決定)
14.詐害行為取消訴訟
(山形地方裁判所平成19年3月9日判決)