FX取引(外国為替証拠金取引)

 当法律事務所の弁護士は,詐欺的外国為替証拠金取引商法が生起したときからその撲滅に取り組み,成果を上げてきました。また,最近のFX取引をめぐる問題についても,先駆的な訴訟等をいくつも経験しています。

1 かつての詐欺商法としての外国為替証拠金取引の消滅

 いわゆる「外国為替証拠金取引」(FX取引)は,平成17年7月1日に金融先物取引法改正法が施行され,許可制度,不招請勧誘(無差別の電話・訪問勧誘を一律に禁止する制度)が導入された結果,近時は,その被害は大きく質的変容を見せています。

2 システムトラブル等

 FX取引において現在顕在化している問題は,(広義の)システムトラブルです。相場が乱高下する場面で,取引画面がフリーズしてしまったり,注文が出せなくなったり,といった事象が多く発生しているようです。
 また,システムの正常さ・公正さが外部から見えにくいこともあって,スプレッドが恣意的に拡大されたり,スリッページが相当と考えられる範囲を超える頻度・範囲で生じたり,俗に「ロスカット狩り」と呼ばれるような手法が用いられているのではないかとの疑念が生じるような状況もしばしば見られます(このことは,いわゆるトレール注文についても見られます。)。
 当法律事務所の弁護士は,FX取引において,ロスカットの発動が適切になされなかったという事案について,適切にロスカットがされていたであろう場合との差額の賠償を求めた訴訟を担当し,同事件の判決である東京地判平成20年7月16日金融法務事情1871号51頁はロスカットルールに関する初の司法判断として大きな注目を集めています(司法試験受験生にもなじみの深い判例百選に取り上げられています)。高いレバレッジをかけて,海外の株式市場の動向等により我が国における取引レートが急激に変動することが当然に予想されるFX取引において,未曾有とでも言うべき相場混乱が生じたわけでもないのに瞬時の約定ができないというのでは,正常な金融商品であると評価することは難しいでしょう。
 「安全性」をうたい文句にしてきた取引所取引においてもシステムトラブルは少なくない頻度で生じているようです。
 相対取引業者においてはこの種のシステムトラブルは後を絶ちませんし,提示レート(スワップを含む)が誤りであったなどとして事後的に取引益金の出金を拒まれるという事案も相当数あります。当法律事務所でも,このような事案についてFX取引業者の主張に理由がないことを(金融庁にも併せて)指摘し,取引益金の支払いをさせることができたことがあります。
 システムトラブルの問題とは離れますが,FX取引業者は利益を出す顧客を閉め出してしまうという姿勢を採っているのではないかと思われる節があり,不正取引をしたなどと強弁して口座を強制解約したり,いわゆる「キャッシュバックキャンペーン」で約束した金員(取引量に応じて支払を約した「キャッシュバック金」)の支払いを拒むという事例も多く生じているようです。当法律事務所の弁護士が担当した,この点に関する訴訟について,興味深い初の司法判断として,東京地判平成26年6月19日があります。

COLUMN 値下がりしていないのに!? ?投資取引のもっとも大きなリスクは価格変動ではない?
 米国時間2005年10月17日,突然,米レフコエフエックス社のFX取引口座から証拠金が引き出せなくなった。グループ会社を含めて米国連邦倒産法第11章(チャプターイレブン)の適用が申請され,口座が凍結されたのだ。同グループは,独立系先物・証券グループで世界第4位の規模を誇るともいわれた巨大金融グループであった。同社の関連会社は我が国で積極的な営業活動を行い,本邦在住者の証拠金拠出額はおよそ40億円にものぼっていた。我が国の投資家の多くは,同グループの知名度や関係会社のホームページに,預り金を分別して管理しているから仮にレフコグループが倒産しても証拠金はきちんと返還されるかのような記載があったことなどから,あえて同社での取引を選んでいた。にもかかわらず,同社での取引を選んだ結果,皮肉にも証拠金の凍結という目に遭ってしまったのである。被害者らは集団で訴訟を提起し,当初の配当金の予測を大きく上回る金銭の返還を勝ち取ったが,それでも,証拠金の全額返金は達し得なかった。
 我が国にも同じような例には事欠かない。平成19年11月9日,関東財務局は,外国為替証拠金取引業者であるアルファエフエックス社に対して,証拠金等を自己の固有資産と区分して管理していないなどとして,6か月の業務停止命令の行政処分をした。しかし,このときすでに同社は20億円以上の預り証拠金を流用した挙げ句に失い,行政処分に先立つ同月6日に自己破産の申立をしていた。登録を経ている業者が,預り証拠金を全部消失させて自己破産の申立をし,その後にようやく行政が業務停止(登録取消でもない)の処分をするという,滑稽とすらいえる事態が生じたのである。すでに法令(内閣府令)の改正により顧客の預り資産の区分管理は,一応の制度化が完了したとされていた時期であった。
 このような事態は,上記事件の発生後改正された現在の法令の下でも,生じ続ける可能性がある。投資は自己責任であるといわれるが,このような被害は自己責任の結果であるとはいいにくいだろう。しかし,自己責任でないといってはみても,国を含む誰かが被害を補填してくれる訳ではない。価格が上がったり下がったりすれば利益が出たり損失が生じたりする。このことが投資や投機のリスクであるということは比較的理解しやすい。しかし,本当のリスクは,そんなところにのみあるものではない。重大なリスクは,むしろ,見えないところにこそあるのである。

3 分別管理の問題

 また,これは現在では解消された問題であると思われますが,平成19年ころには,FX取引業者の分別管理のあり方が不適切であったことから,複数のFX取引業者が破綻しました。中には,顧客の預かり資産がカバー取引とは名ばかりの業者構成員の「手張り」のための証拠金に用いられ,結果,巨額の証拠金が欠損するという事態が明らかになったものさえあります。この点の問題について当法律事務所の弁護士が担当した事件の判決である東京地判平成22年4月19日判例タイムズ1335号189頁は,役員らの責任を認めており,注目されています。

4 FX関連ファンドまがい商法

 さらに,自動売買システムでFX取引をして高率の配当をするなどと称する詐欺的預り金商法被害も根強く存在しています。素人がインターネットで調べた業者に依頼して「ファンド」を組成してあたかも「プロ」であるかのように宣伝して不特定多数者からの預りを募るという杜撰なものから,中には,マルチレベルマーケティングの手法を併用して数100億円規模の被害を生んでいる著しく悪質性の高いものまで,多様なものが見られる状況です。海外の法人を絡ませる例も増えてきています。

5 かつての詐欺商法としての外国為替証拠金取引の違法性を考える現在的意義

 平成13年ころから急増したかつての「詐欺的外国為替証拠金取引商法被害群」は,金融商品取引とは異質のものであり,現在の一応正常に機能し,発展しつつある金融商品取引とは区別して考えなければならないものです(その違法性を正しく指摘し,その後の同種取引被害の救済を早めたものとして東京高判平成18年9月21日金融・商事判例1254号35頁)。
 もっとも,「詐欺的外国為替証拠金取引商法被害群」問題は,「法律の不備」を突き,あるいは「法律の誤った解釈を正当であると言い張りうる余地があったこと」を奇貨として急増し,近年まれに見る被害を生じさせたものであり,このような「法令の不備」,「解釈の余地」に乗じて新たな詐欺的取引が「開発」される可能性は,現在においても強く危惧されるところです。現に,「詐欺的外国為替証拠金取引商法被害群」の消滅の直後に「ロコ・ロンドン貴金属取引」なる商法が生起したことは記憶に新しく,商品先物取引法の施行によって同取引の被害が消滅した後にはCO2排出権証拠金取引や金地金分割払契約などと称する「私的差金決済取引」が現れて,被害の収束は見えてきません。
 そこで,「私的差金決済取引」の問題点についての正しい理解は今後も維持されるべきものですから,「詐欺的外国為替証拠金取引商法被害群」の問題点を概括し(ファイナンシャルコンプライアンス平成20年4月号掲載の原稿),次いで,この種取引が大きな社会問題にまで発展した時期にどのような検討がなされてきたのかを示しておくこととします(消費者法ニュース60号掲載の原稿)。

外国為替証拠金取引(FX取引)の概括
外国為替証拠金取引(FX取引)の事件処理