集団訴訟・弁護団事件

 被害者が一定数集まった「被害者の会」などが組織されている場合には,集団的に手続を行う(集団訴訟を行う)例があります。また,多数の問合せがなされるような事件についても同様です。法律事務所の枠を超えて弁護団を組成することもしばしばあります。集団訴訟や,弁護団事件としての対応には,情報を集約することができる,統一的に迅速な手続を採ることができる,手続選択可能性が拡がるなどのメリットがある反面,個別の被害者の意向に必ずしも完全には添うことができないなどのデメリットがあります。
 当法律事務所の所属弁護士が代表ないし主要なメンバーとして行った主な集団訴訟事件、弁護団事件には,以下のとおり、多数の多様な事件があります(弁護士らからの問い合わせの多い事柄であることもあり、である調で記載します。)。

1 レフコ事件

【相手方業者】
 米レフコ・アソシエイツ・エルエルシー,REFCOFX JAPAN株式会社,NDCオンライン株式会社,その役員ら

【事案の概要】

 平成17年10月に米レフコグループが破綻(同年8月に上場した世界第4位の証券先物グループ。かつてCEOであったフィリップ・ベネットが巨額の横領をしていたことが発覚し,平成17年10月17日に米国連邦倒産法第11章の適用申請)し,グループFX業者も破綻した。ホームページでは証拠金が分別管理されており,レフコの倒産に耐えうるかのような記載がなされていたが,チャプターイレブンにより凍結され,証拠金は当初,10数パーセントが配当されるのみであるとされた。わが国の被害は,証拠金残額で40億円程度であったようである。

 日本で米レフコの取引の媒介業務を行っていたのは,REFCOFX JAPAN,NDCオンラインなどであった。REFCOFX JAPANは米レフコFXの証拠金管理をしていたようであり,香港上海銀行東京支店の口座に,REFCOFX JAPAN名義で巨額の証拠金相当当座預金があった。

 平成18年6月から,順次,53自然人及び2法人から委任を受け(係争金額合計17億円程度),同月から,4次にわたって30数件の仮差押手続きを行い(REFCO FXの口座,NDCオンラインの口座。被保全権利の構成は不法行為,共同不法行為),3次にわたって,業者,取締役ら(米国人2人を含む)に対して損害賠償請求訴訟を提起した。損害賠償請求は,当初は不法行為構成であったが,相手方の認否を待って,不法行為の特則である金融商品販売法の信用リスクに関する説明義務違反に基づく請求に絞り,立証の容易と審理の迅速を図った。

 相手方は,米国において預金帰属等に関する訴訟を提起(平成18年10月12日)し,仮差押の効果を争う第三者異議の訴えを提起(平成18年11月8日)するなどした。

【争点】

 分別管理の有無,その説明の有無,説明の適否,損害発生の有無,因果関係,関係会社の「媒介業者」性,信託契約の成否,当座預金の帰属,過失相殺など

【結果】

 平成19年2月から,訴訟外で一部当事者について和解が成立し(証拠金残の57.5パーセントの支払い),平成19年6月に本案訴訟が最も進行していた第1次訴訟の民事16部で訴訟上の和解が成立し,同和解の中で全被害者を利害関係人として参加させて最後まで戦った12人の被害者について一括解決した。和解内容は,REFCOFX JAPAN関係被害者は証拠金残の70パーセント,NDCオンライン関係被害者は証拠金残75パーセントの支払いを受けるというものであった。

【意義】

 最後まで訴訟手続を行った被害者は,REFCOFX JAPAN株式会社経由の被害者は証拠金の70パーセント,NDCオンライン経由の被害者は証拠金の75パーセントを回復できることになり,当初証拠金の10数パーセントしか戻らないのではないかと観測されていたのと比べると,大きな成果である。また,今回の手続に参加した者によって日本の会社の名義で香港上海銀行の当座預金を仮差押したことで,米レフコグループの破綻に関する問題について,日本人顧客を無視又は軽視することができなくなり,最終的に日本顧客のほとんど全員が相当額の返還をうけることができたという副次的メリットを生じさせることができたとも考えられる。より広くいえば,海外の大手FX業者であっても,そして,分別管理がされているといわれていても,破綻に伴うリスクがついて回るということが強く意識されるようになり,FX業者が信託保全の方法を採用し,その旨広告することが格段に増えていく契機となった。実務的には,金融商品販売法の積極的利用が試みられたということも特筆されて良い。訴訟進行は,比較的スムーズに行われたと感じられ,それは,法律構成の選択にも拠るものと考えられる。FX取引業者には信託保全を強制するべきであるが,信託保全の義務化によっても,業者の破綻による証拠金の欠損のリスクはなくならない。信託の更新頻度が日次でされても,レバレッジが数100倍の取引が自己取引(カバー取引を含む)としてされているのでは,証拠金欠損は日常的に起こりうる。分別管理の方法を改めると同時に,レバレッジ規制を行うことが不可欠であると考える。

2 スターレイズ事件

【相手方業者】

 グランドヴィジョン株式会社(スターレイズキャピタル株式会社),その役員ら8名

【事案の概要】

 従業員にマインドコントロールのような研修を受けさせ,虚偽の情報を告げてする未公開株式の販売を親族・友人知人に次々に行わせた被害群。

 平成18年6月から,順次,80名から委任を受け,同年7月3日に未公開株商法会社及びその幹部構成員8名に対して訴えを提起した。予め立証のほとんどを準備して訴えを提起したが,相手方は一応は応訴をするものの,代理人弁護士を通じて和解の申し入れがあり,同年9月6日には訴訟上の和解が成立した。和解内容は,未返還交付金額の97%の支払を分割で受けるというものであった。

 途中で支払が滞ったため,取締役に対する債権者破産の申立てをするなどした。全額の支払を得ることはできなかったとはいえ,満足するべき相当な割合の支払を受けることができたのは,手続の迅速によるところが大きいと考えられる。

3 アルファエフエックス事件

【相手方業者】

 破産者アルファエフエックス株式会社,株式会社グラン・ディの取締役,監査役ら

【事案の概要】

 平成19年11月9日,関東財務局は,外国為替証拠金取引業者であるアルファエフエックス社に対して,証拠金等を自己の固有資産と区分して管理していないなどとして,6か月の業務停止命令の行政処分をした。しかし,このときすでに同社は20億円以上の預り証拠金を流用した挙げ句に失い,行政処分に先立つ同月6日に自己破産の申立をしていた。登録を経ている業者が,預り証拠金を全部消失させて自己破産の申立をし,その後にようやく行政が業務停止(登録取消でもない)の処分をするという,滑稽とすらいえる事態が生じたのである。すでに法令(内閣府令)の改正により顧客の預り資産の区分管理は,一応の制度化が完了したとされていた時期であった。流用の方法は,関連会社であるグラン・ディなる法人名義で取引を行うに際して証拠金の預託を受けず,その取引のために要するカバー取引の証拠金を他の顧客らからの預り金で充用していたというものである。

【争点】

 区分管理の有無,区分管理義務違反の有無,ワンマン経営体質のFX業者における取締役・監査役の注意義務のあり方,その違反の有無,証拠金を差入れずに取引を行ってきた関連会社の取締役・監査役の注意義務違反の有無,名目的役員の責任の有無

【判決】

 東京地判平成22年4月19日は,証拠金の流出を防止するべき注意義務を怠ったとして,アルファエフエックス及び関連会社であるグラン・ディの取締役・監査役らに対して被害者の未返還証拠金相当損害金等の損害賠償を命じた。預り金が社外に違法に流出されないようにするべきことはこの種業者の最も基本的な業務のありようであって,防止しようと思ったができなかったとか,自分は名目的役員なので何もしないで当たり前だ,などという抗弁が排斥されることは当然である。

4 レジャーホテルファンド事件

【相手方業者】

 グローバル・ファイナンシャル・サポート株式会社(GFS)ほか

【事案の概要】

 レジャーホテルへの出資をすればほぼ確実に最高年利8.4%(匿名組合契約によっては12%)もの高率の配当が得られると喧伝し,HOPEシリーズ(HOPE○○という名称がつく。)と称する匿名組合への出資名下に資金集めが行われたという事案である。

 GFSが販売したHOPEシリーズのうち,「HOPEラスト優先出資匿名組合」は,平成19年6月19日に募集を開始し,平成19年9月1日から平成22年8月31日までの3年間,年利(各会計年度(第1期?第3期)毎に)最高8.4%という利回りを喧伝し,1口50万円で7200口,合計36億円の出資を一般投資家から集め,第1期,第2期については,最高利回りである年8.4%の割合により配当されたが,平成22年8月31日に運用期間が満了する予定となっていたところ,同年10月31日に,不動産投資市場の失速を理由として,1口50万円の出資に対する償還金額はわずか8万24円となると伝えられた(なお,実際にはそのような償還金額さえ支払われなかったようである。また,「HOPEシリーズ」のうち運用期間が満了していないものも同様に償還がなされなかったようである。)。

 不動産価格が変動するものであることは常識に属する事柄ではあるけれども,第1期,第2期には8.4%の配当がなされており,これだけ高率の配当をなしうるだけの収益があげられているという以上,対象となるホテル物件が将来生み出すであろうと期待される収益の総和としての収益価格を求める方法,すなわち,収益還元法で計算されるホテル物件の資産価値の評価がわずか3年の間に16億8120万円にまで下落するようなことは考えられない(GFSから送付されていた「HOPEシリーズ運用レポート」にも収益状況は好調であると記載されており,不動産市況の冷え込み等に関する報告等は一切なく,上記のような急激な不動産価格の下落を合理的に基礎付ける事情は見当たらない。)。

 上記のような償還予定金額の不自然な少なさは,このような利害対立状況を悪用して著しく不適切な態様でホテル物件の取得・管理を行っていたことを強くうかがわせるものであるし,この点を措くとしても,また,GFSは,HOPEシリーズの勧誘に当たって,8.4%の高率の配当を得ることができるという部分を過度に強調する利益強調型の勧誘を行う反面,リスクについては適切に説明がなされていなかったものと考えた。

【被害回復活動】

 平成22年9月初旬ころから相談数が急増したことから,同月には弁護団を組織し,順次140名強から委任を受けた。迅速な賠償の開始が強く望まれると考えたことから,迅速に和解交渉を開始し,同年中に相手方代理人と口頭で損害額全額を支払わせる旨の和解を成立させ,翌平成23年初頭に関係会社ら,役員らに対して債務名義を得て,その後,任意の支払に加え,不動産競売申立,動産執行申立,預金差押え,生命保険解約返戻金差押え,債権者破産申立など,様々な手続を行い,平成28年7月までに合計1億6543万円余(被害者らの実損合計の41%強)の被害回復をなし得た。

5 アーバンコーポレイション事件

【相手方業者】

 株式会社アーバンコーポレイション,その役員ら

【事案の概要】

 株式会社アーバンコーポレイション(以下,「同社」)は,東証一部上場企業であったが,平成20年6月末までには資金繰りに窮する状態に陥っていた。そうした中で,平成20年6月26日付臨時報告書において,BNP Paribas S.A.(以下,「BNPパリバ」)に対して新株予約権付社債(以下,「本件CB債」)を300億円で発行し,この300億円は「短期借入金を始めとする債務の返済に使用する予定」と報告,発表し,その後,同年7月11日には予定通りBNPパリバから300億円が支払われたと発表した。市場は,同社は当面の資金繰りができ,課題であった財務体質の強化が一歩前進したと受け止めた。

 ところが,同年8月13日の東京証券取引所取引終了後,同社は上記臨時報告書の訂正報告書を提出し,本件CB債の手取金の使途を「財務基盤の安定確保に向けた短期借入金を始めとする債務の返済に使用」から「割当先との間で締結するスワップ契約に基づく割当先への支払に一旦充当し,同スワップ契約に基づく受領金を財務基盤の安定確保に向けた短期借入金を始めとする債務の返済に使用」に訂正すると報告,発表し,実際には300億円の資金調達ができていなかったことを明らかにし,併せて東京地方裁判所に民事再生手続の開始を求め,同月18日午後5時付けで開始決定を受けた。

 同年8月14日に公表された同社の四半期報告書によると,同スワップ契約に基づき元本300億円から営業日毎にCB債転換価格(344円)と対象株数の積算分が減額され,一方BNPパリバは各営業日毎の株価に連動する一定の計算式で算出される金額を同社に支払うが,株価が予め定められた下限価格を下回ると支払われない旨定められていた。さらに,同年8月18日に開催された債権者説明会では,BNPパリバから同社に実際に入金があったのはわずか92億円であり,一方スワップ契約が解約になったことにより同社には58億円の損失が発生していると発表された。

 同社の株価は,同年8月13日には62円(同日終値)であったが,上記訂正報告書が公表された翌日から急激に下落し,一気に6円にまで下落し,9月14日に上場廃止された。
 同年9月ころ,急激に相談が集中して寄せられるようになり,再生債権の届出期間が迫っていたことから至急の対応が必要であると判断した。弁護団を組織し,順次約300名からの委任を受け,会社に対する再生債権査定の訴え,役員らに対する損害賠償請求の訴えを提起するなどし,多数の訴訟の複数の審級を追行した。

【争点】

 争点は,虚偽記載の有無,対象株式の選定基準,何を損害と見るか,推定損害額の計算方法,金商法21条の2第4項,5項(減額規定)の適用の有無,適用されるとする場合にはその減額の程度,金商法22条の責任を負う役員の範囲,損益相殺の可否,弁護士費用相当損害金の請求の可否など,多岐にわたった。

【結果】

 地裁・高裁のいずれの審級においても,判決は損害の割合が大きく分かれた。株主全部勝訴の判決も複数あったが,最高裁はこれらを破棄し,減額がなされるべきであることを明らかにした(もっとも,結局,どのような割合によるべきかは示されず,差戻審では推定額の約46%を損害額とするという和解が成立した。)。集団訴訟事件は,平成25年3月28日に訴訟上の和解が成立し(ただし,和解内容等については守秘条項が付されている),およそ4年半を要して事件は終了を見た。

6 くりっく365ランド円異常レート事件

【相手方業者】

株式会社東京金融取引所 コメルツバンク・アクツィエンゲゼルシャフト(コメルツバンク)

【事案の概要】

 株式会社東京金融取引所が開設する外国為替証拠金取引市場(くりっく365)における南アフリカランド・日本円外国為替証拠金取引について,平成21年10月31日4時59分33秒,コメルツバンク・アクツィエンゲゼルシャフトが誤って提示した実勢レートから著しく乖離した異常レート(直近の約定レートに比べ,約30%も円高な8.415円)による約定が成立したことから,それに起因してなされたロスカット取引等により損害を被った投資家を原告として,コメルツ銀行及び金融取に対し,投資家に発生した損害の賠償を求めるもの。

【争点】

 上記異常レート配信にかかる責任,違法性,損害との因果関係等

【手続の経緯】

 平成22年2月26日提訴(原告46名,総請求金額:2億2095万3700円,1人あたりの損害金額:約15万円から約6900万円)
 長期間に渡る審理がなされたが,残念ながら,1審判決(平成27年3月23日)請求棄却,控訴審判決(平成27年10月29日)控訴棄却で終了した。
 1審判決は,コメルツ銀行の過失を認めたが,損害との因果関係を認めなかった。控訴審判決は1審判決をそのままなぞるようなものであった。
 1審判決の概要は以下のとおりである。
・金融取の過失について,「くりっく365」の取引参加者を通じて取引所外国為替証拠金取引を行う顧客に対し,マーケットメイカーによる実勢価格 から著しくかけ離れたレート提示ないし著しく乖離したスプレッド幅によるレート提示によって,顧客に不測の損害を被らせることのないよう,適切なシステム の構築・整備・運営等を行う注意義務を負っており,これに反する行為は取引参加者を通じて取引所外国為替証拠金取引を行う顧客に対する不法行為を構成するとの規範を示したが,本件については,事前予防措置として取引所システムにおいてチェック機能を採用していたから,金融取が「くりっく365」市場を 開設・運営するにあたって必要なシステムを構築・運営する注意義務を尽くしていたとして,金融取の過失を否定した。
 また,本件においてチェック機能が機能しなかったことについては,コメルツバンクの想定外の行為によってチェック機能が無効化されたのであるから,そのようなマーケットメイカーの行為に対してまで無効化されないようなシステム設計をすべき注意義務を認めることはできないと判示している。
 さらに,10月中にコメルツバンクが何度も異常レートを提示していたのであるから,金融取は特に注意して監視すべきであったという主張に対して は,10月中のコメルツバンクの異常レートは,他のマーケットメイカーによるレート提示が優先し,合成レートとして市場レートに提示されることがなかった から,金融取は異常レートが提示されていることを認識し得なかったとして,この点に関しても過失を否定した。
・コメルツバンクの過失については,被告金融取と同様,実勢から著しくかけ離れたレート提示を行うことによって顧客に不測の損害を被らせることのないようにする注意義務を負っていたとの規範を示した上,本件については,本件レートを提示するに至るまでこれを調整するのに十分な機会が与えられていたのに,本件レート作成時に調整すべきエマージェンシースプレッドの桁数を調整することを怠り,本件レートを提示するに至ったのであるから,被告コメルツバ ンクには注意義務違反の過失があると判断している。
 しかし,11月2日の取引開始直後において,ランド/円取引の成行の売注文が増加したことは認められるが,マーケットメイカーがこれを消化するためにインターバンク市場においてそのカバー取引をその直後に行ったと認めるに足りる証拠はないし,仮にそのようなカバー取引が行われたとしても,「くりっく365」とインターバンク市場の平均取引高に照らした市場規模の差に照らすと,その影響は極めて限定的であったと解されるとし,本件レートの提示が,インターバンク市場に大きな影響を与えたと認めることはできないなどとして,「くりっく365」における11月2日午前7時10 分ころのランド/円取引における円高は,本件レートの提示が原因であると認めることはできないとして結論としてコメルツ銀行の過失行為と,損害との因果関係を否定した。
 業界などからも実態を正解しないものであるとの非難がなされているようであるが,1審判決には今後につながりうる見るべき規範が示されているようにも思われるので,下記に掲示しておくこととする。

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7 FX自動売買ソフトまがいマルチ商法(オール・イン)事件

【相手方業者】

株式会社オール・イン,オール・イン上位会員,株式会社リブラ,LINEMAP HOLDING株式会社ら

【事案の概要】

 オール・インらがFX取引(外国為替証拠金取引)で運用して月20パーセントもの高率の配当をする等と称し(リブラについては,FX取引以外に素性の知れない中国の会社の株式を購入させたり客観的価値の知れないエストニアの不動産をシェアリング(共同出資)させたりしている),キプロスに所在するというG・T・I POINT LTD(以下,「GTI社」という。)の口座などに出資金を送金させて返還しないまま霧消したという事案である。
 GTI社は,キプロスに所在する電子通貨の発行会社であるということであり,円貨を一旦「ipoint」(アイポイント)なる疑似通貨に変換し,FX取引によってポイントを運用するとの形態を採って,金融商品取引法の形式的潜脱を図ると共に,配当ないし出資金の停止の原因を海外との連絡不足であるとかポイントの計算の混乱にあるなどと強弁して当初から予定していた配当及び出資金返還の停止による被害の顕現を遅らせることを企図していた。ラインマップらは,オール・イン,リブラと共謀して,iポイントを用いることを提案し,上記GTI社名義の口座の開設・管理を行って金銭の管理を行い,GTI社の出資金の管理等を行っていた。
 オール・イン等商法の勧誘にはマルチ・レベル・マーケティング(MLM。多段階販売方式,マルチ商法)が採用され,特にオール・インでは,下位会員を勧誘すれば巨額の利益(最高のタイトル(地位)である「プレジデントクラブ」になれば1月当たり1億円を超える「ボーナス」が支払われるとの触れ込みであった。)を得ることができるとしてマルチ商法の手法を用いて会員を急激に増加させるとともに,1口当たり300万円までしか運用できないとして複数口の参加を勧誘し,さらには,1万人を超える参加者を集めて幕張メッセやさいたまスーパーアリーナなどでコンベンションと呼ばれる大規模な集会を開いて,幹部会員は,巨額の報酬を得ることとなった「成功者」「勝利者」であるとして壇上に上がって表彰を受け,オール・インにおいて「成功者」が生まれるのであるとの誤信を強めさせてさらなる射幸心を煽って被害の拡大,発覚の遅れを来す役割を演じさせていた。振り返ってみるまでもなく,極めて「滑稽」とでもいうほかない詐欺商法であった。
 同商法の違法性については取り立てていうまでもないところであろう。

 

【被害回復活動】

 同じGTIポイント商法でも,オール・インとリブラでは関与者が異なったことから,損害賠償請求訴訟は,オール・イン関係とリブラ関係と分けて提起・追行した。
 リブラ関係については,平成21年9月,リブラ,リブラ役員,リブラ幹部従業員,ラインマップ関係者らを被告として訴訟を提起し(原告11名,被告12名),被告それぞれと訴訟上の和解をして支払を受け,支払いを怠った被告については財産調査をして執行手続により被害回復をした。
 オール・イン関係については,オール・イン,オール・イン役員,オール・イン幹部構成員・幹部従業員,プレジデントクラブのタイトルを有していた幹部構成員,ラインマップ関係者らを被告として平成21年9月に1次訴訟を,平成22年1月に2次訴訟を提起した(原告(1次)104名,原告(2次)28名,被告82名)。
 平成22年4月から9月にかけて,リブラ関係及びオール・イン関係共通の出資金の送金先口座の名義人であったキプロス法人であるGTI社に対する訴訟・強制執行により約1億7900万円を回収した。
 オール・イン関係の訴訟は最初の訴訟提起から4年程度審議が続き(一審),一部の被告らとの間では和解が成立するなどして被害回復をした。和解に至らなかった残りの被告については判決となった(オール・イン及び代表者に対する請求を認容するもの)が,現実の被害回復に繋がるものではなかった。
 その後,平成26年12月,新たに判明した関与組織等に対して訴訟を提起し,平成28年7月に和解が成立してさらに被害回復を得た。
 以上の手続を経て,リブラ関係では合計約4670万円(被害者の実損合計の約73%),オール・イン関係では合計約1億8536円(被害者らの実損合計の約64%)の被害回復をなし得た。弁護団結成から7年を要したが,泣き寝入りを余儀なくされた者が多くあり(弁護団組成後相当期間経過後にも相当数の問い合わせがあった),満足すべき被害回復がなしえたものと思う。

8 リソー教育事件

【相手方業者】

株式会社リソー教育

【事案の概要】

 東証一部上場企業である株式会社リソー教育が、平成21年2月期から平成26年2月期第2四半期までの約5年半にわたり有価証券報告書等の虚偽記載をしていたものであるところ、平成25年12月16日の大引け後、同社が第三者委員会の設置及び期末の配当が未定である旨発表し、平成26年2月10日、当該第三者委員会の調査結果の公表とともに過去5年間にわたる虚偽記載等の事実を公表した事案。

【争点】

(1)株式の取得時期の点につき、第三者委員会設置発表の「お知らせ後」(以下、「お知らせ」という。)に株式を取得した者に対する請求が認められるか、(2)損害の点について、①主位的な請求として本件虚偽記載がなければ株式を取得することはなかったので株式の取得価額が損害であるとの主張(取得自体損害)のほか、予備的な請求として②本件虚偽記載がされたことにより不当に高く株式を取得したのであって、本件虚偽記載がなければ成立していたであろう価格(想定価格)との差額分が損害であるとの主張(高値取得損害)及び③金商法21条の2第2項(現3項)の推定により算出された金額が損害であるとの主張のいずれにより請求が認められるかが争点となった。

【結果】

(1)株式の取得時期について 第1審及び控訴審とも、第三者委員会設置の発表前に被告株式を取得した原告については請求を認めた(損害額については下記(2)のとおり)。ただし、第三者委員会設置の発表後虚偽記載の公表前に被告株式を取得した原告については、第1審では、「株価の動向が虚偽記載による影響を受けている可能性があることを認識できた」として、相当因果関係なしとして同条項に基づく損害賠償を認めず、2項推定も同様の理由により損害賠償を認めなかった。控訴審では、同じく第三者委員会設置の発表後虚偽記載の公表前に被告株式を取得した原告について損害を認めなかったが、その根拠として、金商法21条の2第1項但し書きを準用あるいは類推ができるものとした。 (2)損害について 原告らの損害は「平成25年12月16日付け第三者委員会設置のお知らせの発表によって、当該発表に対する市場の反応ひいてはそれに応じた株価の変動に反映され、処分時において現実化したということができる」として12月16日の終値から処分価格の差額を損害として金融商品取引法21条の2第1項に基づく損害賠償を認めた。第1審は、第三者委員会の設置発表の「お知らせ」によって、当該発表に対する市場の反応ひいてはそれに応じた株価の変動に反映され、処分時において現実化したということができるとして、第三者委員会の設置発表日の終値から処分価格の差額を損害として金商法金融商品取引法21条の2第1項に基づく損害賠償を認め、控訴審でもこれを維持した。

【意義】

 本件は、損害賠償請求を行う株主(元株主)側の観点からは、虚偽記載と相当因果関係のある損害として、取得自体損害(前記①)は否定したものの、公表日前である「お知らせ」を基準として、の株価下落でも損害との因果関係を認め、「お知らせ」の公表日の終値と原告らの処分価格との差額を損害と認めた点のほか、被告(控訴人)側からの過失相殺や損益相殺の主張を認めなかった点に参照価値がある。ただし、原審及び控訴審とも、平成25年12月16日付第三者委員会の設置等のお知らせに重きを置きすぎており、「公表日」以前の取得であるにもかかわらず、第三者委員会の原告につき2項推定に基づく請求を認めなかった点で株主保護に欠ける点がある。
なお、判決PDFについては、https://aoi-law.com/article/s_shoken_10/を参照されたい。