先物取引

国内先物・海外先物・先物オプション

 当法律事務所は,先物取引被害の救済に積極的に取り組んでいます。当法律事務所の代表は,先物取引被害全国研究会の幹事(前東京代表,前事務局長)を務め,所属弁護士は,先物取引被害に関する複数の書籍(取扱事件欄参照)の執筆にも参加しています。
 これまでに相当件数の事案を担当し、大多数の事案について被害額の5割から8割程度の被害回復をしてきました(中には,実損害額損害を超える賠償を得ることができた事案もあります。多くは下記に示したいわゆる「客殺し商法」による被害事案ですが、会社の経理担当者などが横領し,先物取引に使い込んでしまうという事件もしばしば起きており,会社の依頼を受け,あるいは横領行為者の破産管財人の依頼を受けて損害賠償請求訴訟を追行するという事案もあります。)。
 かつては訴訟前の和解で終了する事案が多数を占めていましたが,最近では,訴訟によらなければ(適切と思われる程度の)賠償に応じない先物会社が多数となっています。訴訟上の和解によって終了する事案はなお高い割合で存在しますが,そもそも適切な訴訟追行ができなければ,訴訟を提起しても適切な和解を成立させることもできないでしょう。憂うべきことに,先物取引被害事件を取り扱うと称していながら,適切な訴訟を追行する意思(あるいは能力)を欠き,先物取引業者から言われるがままの低率な和解を押し付けようとする弁護士が多くあるのが現状です。
 当事務所が担当した先物取引被害の裁判例の一部は「主な担当裁判例 先物取引」に掲記してありますので,ご自身の被害との類似性や弁護士が先物取引被害事案においてどのような主張立証を行うのか,先物会社がどのような反論をし,裁判所がどのような判断をしているのかを詳細に知りたい方はご参照下さい(もっとも,一般の被害者の方が専門的な裁判例などを読み込むのは大変であり,それに大きな意味があるとは思いませんから,特に無理をして読もうとする必要はありません)。

 また,当法律事務所は,1審は被害者自身や他の弁護士が行っていたものを控訴審から委任を受けることもしばしばあります。近時そのような相談が増加している傾向にあるように感じられます。先物取引被害は,訴訟の専門性が高いため,1審段階で適切・十分な主張立証がなされていないことに起因して敗訴ないし敗訴的内容の判決となっている例が少なくないように見受けられます。このような場合には,1審の主張立証をそのまま控訴審で述べるのみでは,1審の判断が変更されることを期待することはできないでしょう。控訴審で改めて尋問等が採用されることはあまりないため,1審で提出されていない書証の存否や改めて適切な法律構成を採るべきかどうかを検討することが主眼となり,また,同じようなことを主張する場合であっても,証拠に基づき,より説得的に主張することができないかを検討する必要があります。

1 はじめに

 先物取引被害については,クーリングオフなどの「直接的かつ容易な被害回復手段」はありません(と考えた方が実態に即します)。あえていえば,法律の詳細な知識は「不要」です。商品先物取引法やその下位規範は違法性の意識の根拠となるでしょうし(場合によっては民事的効果を生じさせもします),特商法や消費者契約法,金融商品販売法が適用される場面もあるにはあります。しかし,これらは様々な問題点を有していることは疑いを容れる余地がありません。これらの法令に根拠して交渉及び訴訟手続等を行うことは,結局事案の全体の実際とは異なった問題点のみに焦点を当てることになるでしょう。詳細な法令の知識よりも(ないよりはあった方がいいのはもちろんですが),「これはおかしい」という直感に素直に従い,事案と向き合うことが望まれる分野です。それが,事案を正しく把握すること,ひいては適切な交渉及び訴訟活動等を可能とすることにつながります。事案に当たる弁護士は,この点を十分に心に留めておかなければなりません。

2 先物取引被害の典型的被害事例

 先物取引被害は,
 まず,先物取引会社からの無差別の電話勧誘に始まり(現在は通常の先物取引について不招請勧誘が禁止されていますが,損失限定取引(いわゆるスマートCX)や金の現物の購入を端緒として先物取引の勧誘が開始される例は多数見られる状況にあります。),
 最初は断っていても再三の電話によって根負けさせて面談をさせ,
 先物取引の投機性,危険性,複雑性についての十分な説明をしないまま,
 「同時多発テロによって世界が不安定になり,世界中で戦争が起こっている,原油の値段は,今は信じられないくらいに低いが,これ以上下がることは考えられない。今買えば儲かることは間違いない」等として取引を開始させ(断定的判断の提供,相場観の押し付け,説明義務違反),
 「まだまだ行けます,絶対にあがります,今買わなければ損です,あと300万何とかなりませんか」等と執拗に取引の拡大を要求し(新規委託者保護育成義務違反,過当取引),
 仮に計算上利益が出ても手仕舞いをして取引を終了させる指示に応じず,益金を証拠金に振り替えて建玉し(利乗せ満玉,扇形売買),
 さらに,損計算になると,「今止めればこれまでつぎ込んだ財産が無くなり,さらに巨額の損害が発生する,止めるわけには行かない」等として無意味な両建を執拗に勧誘し,常時両建状態に置いて取引関係を錯綜させて取引状況の把握を困難にさせ,離脱を困難にさせて先物会社の従業員にすがるほかない状況を継続させ,
 被害者に先物取引をするに足りる知識経験,相場判断の資料,時間的余裕が無い(先物取引の不適格者である)ことに乗じて,
 無断ないし一任あるいは実質的な一任売買によって,
 両建,直し,途転,日計り,不抜けといった,いわゆる,特定売買といわれる手数料稼ぎの手法を駆使して無意味かつ過当な取引を繰り返し,被害者がその預託能力を超えて拠出した預託金員のほとんど全てを損金ないし手数料として失わせ,手数料相当額の利益を偏取するとともに,
 顧客の建玉に対応する向い玉を建て(現在ではあからさまなものは見られませんが,これが疑われるものが散見されます),あるいは顧客の総体との間に向い玉を建てる(差玉向い)ことによって,損金相当分をも先物会社の利益に転じさせてこれを騙取する,
という商法であるということができ,ほとんど全ての事例で,上記複数の違法行為が競合してなされています。
 先物会社系の証券会社が取り扱っている取引所株価指数証拠金取引である「株365」取引においても,同様の(広義の)客殺し商法が行われている例が少なからず見られます。
 なお,先物会社系の証券会社が取り扱っている株価指数証拠金取引(くりっく株365)は,金融商品取引法の規制に服する取引ですが,被害実態は商品先物取引被害と酷似しています(東京地判平成28年5月23日参照)。

3 先物取引被害における違法行為の概説

 ここでは,あえて法令の根拠をあげません。全ての違法要素は,信義則に根拠するものと考えるのが適切でしょう。

(1)適合性原則違反

 商品先物取引等投機的取引は,これを行う一般消費者等にとっては,商品等(の購入)自体に意味があるのではなく,金融商品としての性質に注目して行われるものです。そして,広く金融商品に関与する者には,その商品に見合った財産,知識,情報収集能力,これらを的確に分析して自己の行動を判断する能力,十分な分析をなしうる時間,経験等が必要です。そのような知識,経験,情報収集,分析能力,財産が十分でない者は,当該金融商品を購入して「リスク」を負う適格性がないのです。このことは,一般消費者を含む一般投資家に限られることではありませんが,リスクに関わることに慣れていない一般投資家は,そもそも,自らが当該金融商品と関わりを持つに十分な知識,情報収集・分析,判断能力,リスクに見合った財産等を有しているのかさえ,自ら判断する知識,情報,判断能力,経験等を欠いていることが極めて多いことから,格別の配慮を要することになります。
 ここから,当該金融商品について,豊富な知識,情報,経験を有し,一般投資家に対して当該金融商品の「購入」を勧誘する者は,被勧誘者が,勧誘しようとしている金融商品の性質に照らして十分な知識,情報収集・分析,判断能力,経験,財産を有しているかを調査し(顧客熟知義務),これが十分でない場合には,勧誘自体をしてはならないという,「適合性原則」(適格性原則)が導かれます。

(2)断定的判断の提供

 断定的判断の提供とは,先物取引等の勧誘を行う者が,被勧誘者に対して,利益を生ずること,あるいは,損失を取り戻せることが確実であると誤解されるような断定的な判断を提供して,受託を受けることをいいます。これが違法であることは言うまでもないでしょう。

(3)説明義務違反

 先物取引等の勧誘者は,取引の勧誘にあたって,取引の仕組み,危険性等について,被勧誘者の理解力に応じた説明を尽くす義務があります。個別取引の勧誘を行う場合には,当該取引に係る商品についても,その価格変動要因等を具体的かつ正確に説明しなければなりません。先物取引の危険性,理解困難性その他の特性に照らし,勧誘者は,被勧誘者に対して,上記説明事項について,被勧誘者の理解力等に応じて,被勧誘者が理解できるまで十分説明を尽くす義務があるというべきです。このことは,説明が,顧客の理解のためになされるものであり,当該顧客の理解を得られてこそ意味があるものであることからして,当然でしょう。諸規定において,「告知」すべきものとされているのではなく,「説明」すべきものとされているのはこの趣旨と解されます。

(4)新規委託者保護義務違反(取引の数量的過当性)

  先物取引等の勧誘者は,被勧誘者に対し,真に自己の相場判断に基づく注文をなしうるような知識,経験を蓄積させ,保護,育成し,十分な自主的判断がなしうるまでに不測の損害を被らせないように建玉を抑制する義務を負います。これを新規委託者保護育成義務と言いますが,この義務違反を認めて損害賠償を命じる判決は相当数に上りますので,重要な違法要素です。

(5)無断売買,一任売買

 無断売買が違法性を有することは当然ですが,一任売買は,顧客自らシビアな判断をして具体的な注文をするのでなければ,顧客が,投機的取引をすることの困難さ,危険性を身を以って実感し,取引についての実のある知識経験を得ることができず,新規委託者保護育成義務の趣旨に反すること,取引が,しばしば顧客の利益と対立する業者の従業員に一任されると,過当売買,頻繁売買その他,顧客の利益を害する取引がなされる危険性が高いこと,顧客の自由な意思が取引に反映されず,市場における公正な価格形成をも阻害すること等から,違法な行為です。
 もっとも,被害者の中には,「私は何も聞いていない,業者が勝手にやったのだ」と訴えることも少なくありませんが,このような訴えに弁護士が軽々に乗るのは訴訟追行を考えると不適切である場合がほとんどです。この種訴訟での敗訴事案の多くは,無断売買の主張に拘泥したところに起因するのです(売買報告書は送られてきているのですし,場合によっては会話の録音もなされています。)。

(6)過当な頻繁売買,特定売買等

 高率の手数料が設定されている対面でする先物取引においては,反復売買は,顧客に対して,委託金額の大部分を手数料として失わせる危険を負担させることになる反面,先物取引会社が,顧客の犠牲の下に多額の手数料を得ることになりますから,先物取引会社には,短期間に頻繁に売買することを勧誘し,あるいは,無意味な反復売買をしない注意義務があります。無意味な反復売買がされたかどうかについては,下記の数値を検討することが有益です。ただし,個々の取引の相互関係の不合理さを詳細に検討していく必要があり,ただ単に数値のみを並べ立てても裁判所の理解を得ることはできないでしょう(このような訴訟活動をする弁護士が少なくないことは非常に残念なことです)。

ア 売買回転率(月間回転率)

 売買回転率とは,全取引回数(建てて落とすごとに1回と数える)を取引日数で除し,これに30を乗じて得られる数値であり,これにより,取引の頻度が,平均して1か月間に何回の取引が行われたかという客観的な数値によって示されることになります。

イ 手数料化率

 ここで手数料化率とは,損金に占める手数料の割合をいいますが,これが高い数値を示す場合には,先物取引会社が,委託者の利益のために委託を行うべき旨の注意義務に反し,自己の利益のために委託者を犠牲にしようとしたことが推認されます。

ウ 特定売買率

 特定売買とは,「直し」,「途転」,「日計り」,「両建」,「不抜け」の5種類の取引をいいます。全取引に占める特定売買の割合を特定売買比率といいます。全取引は,仕切り玉の回数で数え,特定売買は,1つの建玉が重なる場合には,1回と数えます。

エ 特定売買

(ア)直し

 直しとは,既存の建玉を仕切った同じ日に,これと同一のポジションの建玉を行うことをいいます(限月が違う場合を含む)。同一ポジションの建玉をするのであれば,あえて仕切らなくても,そのまま建玉を維持していればいいのであって,委託者にとっては,手数料を1回分余分に支払わなければならないデメリットがあるのみで,メリットがないのが通常であり,他方,先物取引会社には,余分に手数料を得ることができるというメリットがあります。また,既存の建玉を仕切って生じた取引差益を証拠金に振り替え,より多くの建玉を行う場合(利乗せ建玉,全額を証拠金として建玉を行っている場合には,利乗せ満玉といいます。)には,委託者に過当な売買を行わせ,より危険な立場に置くことにもなります。

(イ)途転

 途転(ドテン)とは,既存の建玉を仕切るのと同日に,反対のポジションの建玉を行うことをいいます(限月が違う場合を含む)。途転は,相場観を変更したときには,それなりの合理性を有することは否定できないとしても,これが無定見に行われたときには,手数料稼ぎの兆表といえます。

(ウ)日計り

 日計りとは,新規に建玉を行い,同一日内にこれを仕切ることをいいます。一日ではたいした値動きもないのが通常であり,委託者にとっては,(手数料が極めて低額に設定されているネット取引は別として)手数料がかかるというデメリットのほかにメリットはありません。また,日計りは,常時相場の行方を観察していなければこれをよく行うことは不可能ですから,先物取引以外になすべき日常の業務,家事等を有する者にこれを勧誘することは,結局,委託者に,先物取引会社の勧誘に盲目的に従わせて取引を行うことを余儀なくさせるものでもあります。

(エ)両建

 両建(りょうだて)とは,既存の建玉と反対のポジションの建玉を行うことをいいます(限月が違う場合を含む)。仮に両建に先物取引に熟達した者にとっては,自己の相場観が外れた場合に損失の顕在化を先送りにすることによって今一度冷静になって相場を見直すことができるという心理的なメリットがあるとしても,先物取引に熟達していない者にとっては相場判断を誤った状況にあるにもかかわらず価格が下がったところで売り玉を仕切り価格が上がったところで買い玉を仕切るという,相場の波が単に上がるか下がるかの通常の相場判断と比較し,より複雑で困難な相場判断を的確になすことによってようやく達成しうる両建のメリットを享受しうるとは到底考えられず,ただ手数料を2倍支払い,建玉状況を把握できなくなり,取引から抜け出すことが一層困難にさせられるというデメリットがあるのみです。

(オ)不抜け

 不抜けとは,取引によって利益が生じているものの,当該利益が委託手数料より少なく,差引損になっているものをいいます。手数料も超えない利益であるのに落玉してしまうというのは,利益を目的として取引を行う委託者の通常の意思に合致しませんから,先物取引会社による手数料稼ぎとして,委託者の無理解に乗じて行われたことが推認されます。

(カ)特定売買の主張方法

 特定売買は,上記のとおり,通常,手数料を要するのみで委託者の利益に反する取引であることから(ある裁判例は,特定売買の不合理性を「裁判実務上顕著な事実である」とまで言い切っています。),その,全取引に占める頻度(特定売買比率)が高ければ,先物取引会社が,自己の利益のために無意味な反復売買を繰り返したものとして,先物取引会社の不法行為を基礎付ける一根拠事実となりまする。

 これら「客観的違法要素」は,取引履歴の分析によって容易に見出すことができ,記憶に頼ることなく立証できるものですから,先物取引被害事案において客観的取引履歴を分析することは訴訟活動上不可欠です(法律相談の場では困難かも知れませんが,事後の事情聴取も,特定売買がなされている状況に即して事実経緯を聴取する必要があります。)。特に高齢者の被害の場合には,記憶のみに基づく事情聴取に根拠するのみでは「不安定」です。詐欺的な違法行為を行う先物取引会社が行わせる「取引」には,どこかに「ほころび」が生じているはずであり,それは,丹念に探せば,必ず見つかることでしょう。弁護士は,これを丹念に拾い出し,取引相互の関係の不整合に細心の注意を払う必要があります。このことは,先物会社系の証券会社が取り扱っている対面の「株365」取引においても同様です。



COLUMN 金地金の購入なら安心??真意を隠した「おとり広告」?
 「金(きん)」は,いわば普遍的な価値があり,その保有は老後の生活の不安を解消してくれる助けともなるだろう。しかし,だからこそ,「金の魔力」は,古くから詐欺商法に利用されてもきた。豊田商事が行った金のペーパー商法がその代表的なものだが,ほかにも,金の私設市場取引であるとか,最近ではロコロンドン金取引など,途絶えることがない。
 現実に金地金(きんじがね)を購入しようとしても,普通の買い物のように簡単にはいかない。金地金を先物取引を行っている会社から購入する場合には,よりいっそうの注意が必要だ。金地金を持ってくるという口実で訪れてきて執拗な勧誘をする例が頻発しているし,金地金は重たいから1度には持って来れないなどと言って何度も押しかけてくることもある。もっとひどい場合には,金地金を持ってくるというから来訪を許したのに,金地金は先物取引の証拠金に充用したら良いと思って持ってこなかったなどと勝手なことを言い,あたかも金地金を買った人は先物取引をするのが当然だとでも言わんばかりに先物取引の勧誘を始める外務員もある。>
 金地金の購入は,類型的に貯蓄性向の高い人がする行為である。にもかかわらず,先物取引の勧誘に繋げようとするというのは,明らかに顧客の投資に関する意向に反するものであり,違法な行為だが,このような勧誘が増えているのは,先物会社が訪問・電話による典型的先物取引の勧誘を法令で厳しく制限されることになったからである。「勧誘受諾意思確認義務」とか「不招請勧誘の禁止」などの規制が導入され,また,いきなり先物取引の勧誘をすると警戒されてしまうこともあって,先物会社は,金地金の購入などの広告をいわば「おとり広告」として出しているのである。
 「おとり広告」には,金地金のほかにも様々なものがある。経済に関する書籍を無料でプレゼントするなどという広告を見て問い合わせをすると,外務員が書籍を持参すると言って聞かなかったり,経済評論家などのセミナーに無料で参加できるという広告を見て出かけると,なかなかただでは帰してくれない。こうして,凄まじい勧誘の端緒が作られるのである。

4 海外先物取引・海外先物委オプション取引

 現在は海外先物取引・海外先物オプション取引による被害はほとんどありません(商品先物取引法(改正法)は海先法の適用下にある取引類型を取り込み,商品先物取引法の施行に伴って海先法は廃止され,許可制度などの参入規制は相当厳しく運用され,海外先物取引被害事案は消滅しました。)から,一応の概略を示しておくのみにとどめます。
 海外先物取引を規制する海先法は,昭和57年7月16日に公布され,昭和58年1月15日に施行されたものですが,同法は,当時著しい急増傾向をみせていた海外先物取引被害に対処するため,同商法を事実上消滅させることを指向して制定されたものでした。政府は,国会における答弁においても,業者に対する説明においても,海外先物取引の経済行為という面からみて現在社会的にこれを認知して育成する段階に至っておらず,したがってこの法律は海外先物取引を行うと称する業者を締め出す実質禁止法の趣旨で制定されたものであると述べています(昭和57年4月27日衆議院商工委員会議録,昭和57年7月6日衆議院商工委員会議録)。そして,現に,同法の施行および刑事摘発(昭和57年から昭和63年までで46業者に及び,起訴事実はすべて詐欺です)により,海外先物取引被害はほとんど消滅していた状況にありました。
 海外先物取引商法は,起訴事例によると,呑み行為を行って証拠金を詐取する方法や,向い玉を建てて顧客と業者の利害が対立する構造を作り出し,顧客に利益が出ているときには仕切を引き延ばし,逆に顧客に損失が出ているときに決済を仕向けるなどして証拠金を取り込む方法などを用いて行われていたことが判明し,海外先物取引を行うと称する商法自体が詐欺商法であることが明らかになっています。これら取引の実態は,法務省においても注目され,「起訴事例に見る悪徳商法詐欺事犯の実態」法務総合研究所研究部紀要32号35頁以下にとりまとめられているところです。
 昭和60年から平成3年頃に集積された裁判例は受託契約を無効とするなど厳しい姿勢で臨むものでしたし,近時の裁判例にも,「(海外商品先物取引は)極めて投機性の高い取引であって,取引参加者に予期せぬ巨額の損害を被らせる危険性が大きいこと,したがって,海外商品先物取引に参加するためには,当該商品市場における商品価格の変動や為替変動を適確に予測し,それらの変動に対して即時的は判断・対応ができるだけの専門的な知識と経験のあることが必要であり,また,予期せぬ損失や証拠金の追加(追証)に対応することができるだけの資金の余力のあることも必要である」と指摘するものがあります(東京地判平成20年5月30日先物取引裁判例集52巻249頁)
 海外先物オプション取引被害は,かつて猛威をふるいましたが,このような取引は,特段の事情のない限り,一般消費者には適合しないものと考えるべきものとされています。東京地判平17年2月24日先物取引裁判例集40巻13頁は,「オプション取引は,その仕組みが複雑で容易に理解し難く,一般人がプレミアムの変動を予測することも不可能に近く,特に,オプション転売取引は,賭け事に近い性質を持つ極めて危険性の高い取引である」と指摘しています。海外先物オプション取引に関する裁判例には,適合性原則違反を理由として損害賠償請求を認容するものが極めて多くありました。