SNSからLINEグループに誘導する投資詐欺

近時急増しているSNSからLINEグループに誘導する投資詐欺の典型例とその被害回復手続について

 旧来のいわゆるロマンス詐欺というものは、入り口がマッチングアプリなどで接触を持った異性から、自身が投資に詳しいとか、親戚が情報を持っているなどと言われて(LINEなどで送信されて)「投資」をする流れになっていくものである。近時はロマンスの要素がある手口は少数派になっており、SNSに流れてきた広告に興味を持ち、接触すると、LINEグループに誘われて、投資の先生などから指示されるという形で「投資」を行うものが多数である。

 「投資」が行われているというWEBサイトやアプリ上では自分の資産が増えているような表示がなされ(FX取引や金の取引などが多い)、初期段階には、追加投資のための資金(証拠金)として被害が拡大していく。

 実在する有名人が登場すると称するものもあるが、詐称しているだけであり、実在する人物が当該商法に関与しているわけではない。

 振込先口座は個人、法人の双方があるが、コロコロと変えさせるのが通例である。「投資の先生」とは別の、カスタマーサービスを名乗る者が(凍結を避けながら詐欺商法を続けるために)直前に指示してくることが多い。

 「本物らしさ」を感じた理由に「MT5」を挙げる被害者が多い。MT5で騙された、という人が相当数いるが、MT5が何なのかも良く分かっていない。MT5は単なる取引ツールを提供するもの(簡単に言えばアプリ)であって、MT5が使われているからホンモノの取引であると言えるものでは全くない。

 被害の中期には、取引を終了して出金するよう指示され、あるいは被害者自身が取引を終了したいと言い出すことから始まり、助言料、指導料、さらには利益に対する税金の前払い金、マネーロンダリングの疑いを晴らすための保証金、などとの名目で被害が拡大していく。詐欺商法を行う者から「借り入れ」を受けたことになっていることもあり、それを「返済」しないと出金できないなどと言われることもある。

 終期には、システムエラーであるとか、計算違いがあったなどとして、あとこれだけ出せば今まで出した資産が戻ってくるとの期待にすがるほかない被害者の心情に乗じて、取れるだけの財産を奪っていく。

 ようやく騙されていると自覚できて、弁護士に相談しようとしても、この種被害に遭った直後に独特の、普段と違った不安定な精神状態にあるので、冷静な判断ができず、被害回復を過大に期待させて着手金名目で金銭を得ようとするいわゆる2次被害弁護士の被害に遭う被害者も多い。弁護士であるのに詐欺商法の広告と見まがうような派手な広告で、365日24時間対応するなどとうたっている。弁護士と話をすることはほとんどなく、(非弁)提携業者がLINEなどで相談に乗ると称して着手金の支払いをせかす。独自の調査ルートがある、多くの実績がある(普通でない弁護士は「返金」実績という。詐欺犯人を相手にするときには損害賠償請求をするのが通常であって、「返金」など求めることはない。)などと言い募り、弁護士に会うこともなく委任契約の締結を迫られてしまう。普通に見れば怪しいと気付くのだろうが、弁護士に頼みさえすれば何とかなると自分で自分を無理に納得させようという心理が2次被害を後押ししてしまうものと思われる。2次被害による被害者の「損害」は、非弁提携弁護士に支払う費用だけではなく、適切な被害回復の機会を奪われるところにもある。後述のとおり、この種の被害の被害回復は、時機を失すれば取り返しがつかないことが往々にしてあるのである。

 そのような非弁提携弁護士でない弁護士に相談できたとしても、被害回復は不可能と言ってよいほど困難であるからあきらめた方が良いといとも簡単に言われてしまうことが多い(弁護士会でさえ、2次被害への警戒を強調するあまり、被害回復はほとんど不可能であるということさえある。)。高い授業料だと思ってくださいと言われても、自分の得た甘い話に乗せられるなという当たり前の教訓の再確認は、自身が半生をかけて築いてきた財産を失ったことに見合うとはどうしても思えない。
 
 警察に行っても被害回復は警察の仕事ではないという。警察官もこういうものは返ってこないからあきらめた方がいいと言うことが多い。だれもが自分を見放しているように思えてくる。家族に打ち明けられない被害者も多く、孤独のうちに被害を抱え込まざるを得ない状況に陥ってしまう。知人や家族から借金をしている被害者も多く、人間関係の破壊を招くこともある。

 被害回復が決して容易でないことは繰り返さざるを得ないところである。しかし、警察や弁護士が被害回復をあきらめろという時、被害者はそれならいっそ詐欺グループがいう、「あと1000万円出せばマネーロンダリングの疑いが解消されて送金手続を採ることができる」という話に乗ってしまうしかない、と考えてしまう可能性を生じることには正しく思いを致して欲しいと思う。

 被害者は、まず、最寄りの警察署に行って事情を打ち明け、振込先口座を凍結してもらうべきである。そして、凍結された口座の残高、(法人名義であれば)口座名義人の住所などの情報を可能な限り提供してもらっておくべきである。口座凍結は弁護士が行うことも可能であるが、のちの手続において警察との連携が有意なものとなることも往々にしてあり、被害者自身が警察署に行くのが最善であると感じる。

 弁護士に対しては、正直に話をすることである。「お金はいくらあるか。家族に打ち明けているのであればどのような援助を期待できるか」と聞くと、困窮を強調したいためか、最初は「お金はもう全部取られてしまって全くないんです。」と答える相談者がある。しかし、被害回復には費用を要する。仮差押えは被害回復にとって不可欠ともいえる手続であるが、相当額の担保を供託しなければ発令されない。費用対効果を考えるのも弁護士の仕事の大きな部分である。このことは正しく理解されるべきであり、必要以上に困窮を訴えることは、被害回復手続の選択肢を無用に狭め、回復できたかもしれない被害を逃してしまうことになりかねない。弁護士としても「費用倒れ」(弁護士費用以上の被害回復をできない状態)はやはりなるべくであれば避けたい。被害回復の見通しを立てにくい事案類型であるが、反面、様々な手続を短期間でする必要のある難事件でもあり、実費は相当額を覚悟しておくべきである。仮差押えは(幸運にもその手続を行いたいと思えるほどの対象が見つかったのであれば)被害金額の10%程度を工面する見通しを立てておくのが望ましい(超過仮差押えはできないが、空振り・競合なども考えられるので、これもより多く準備できるのであればそれに越したことはないが、10%を超えてはあまり無理しすぎる必要はない。担保は半年から1年程度は返ってこないものと考えておくべきである。)。

 弊所では、この種の被害事案を複数(多いと言って過言ではないだろう)手掛けてきた。残念ながら満足すべき被害回復ができなかったものも多いが、被害の相当部分を回復できた例もある。全く被害回復ができなかった事例は、むしろ少数派である(ただし、暗号資産を送信する方法によって生じた被害については現時点において被害回復ができた例はない。)。通常の事件に比して被害回復の経緯が独特であって見通しが付きにくいが(一般的には振込先口座の凍結後残高が一定額存在することが判明しているものが複数ある場合、被害から相談までに期間があいていない場合、振込先口座の名義人が自然人のものよりも法人のものが多い場合、に被害回復の程度が大きくなる傾向がある。)、被害回復がどの程度達せられるかは時の運にも左右されるので、非常に厳しい状況にあることを自覚しつつ、楽観はせず、悲観もせず、弁護士のする手続の結果を祈るほかない。

 この種の被害回復手続は、事案に応じて臨機応変に方法を変える必要がある。訴え提起一つとってみても、印紙代の負担や全体像の分かりにくさというデメリットがあるとしても、複数の事件に分けて訴えを提起することが望ましい場合もあれば、一つの訴訟でやり切ってしまう方がよいと考えられる場合もあり、諸要素を総合的に考慮して短時間で結論しなければならず、法的検討・判断というよりはむしろ、弁護士の「カン」のような部分に頼って手続の取捨選択、タイミング、方法を決めていくことになる。事務所内で共有される「カン」は、1か月単位の間でも相当大きく変容しており、日進月歩の感がある。全国の行動力のある弁護士らによる事例の集積や新たな試みの成果も報告され、共有されるが、地方の裁判所においてはその裁判所ならではの進め方がなされることもあり、一概に一般化できないという難点もある。

 この種の詐欺において弁護士が行うべき(と本日現在弊所が考えるに至った)被害回復手続は、時間的に切迫し、かつ、非常に煩瑣なものとなっている。出来るだけ速やかに訴えの提起、口座名義人の特定・探知のための手続を採る。凍結されている金額が多い場合には、口座名義人の特定・探知には注意深さと大胆さを併せた行動が求められることになる。口座の仮差押えと口座名義人との交渉は端緒があれば迅速かつ粘り強く行う。交渉の相手は訴訟等の相手方ではあるが一定の信頼関係を築かなければ円滑に進まない傾向が顕著にあり、非常に神経を使うところである。交渉は、応じることが口座名義人にとっても有益なことが少なくないが(凍結口座に実質的な利害関係がなければ、認諾することは相手方にもメリットがある)、無知・畏怖・困惑・無関心などの事情により、端緒がつかみにくいことも多い。接触してみさえすれば話が大きく進展することも多く、外国人の通訳の協力を得たり、送達のための調査を兼ねて相手方の所在地を訪問することもしばしばある。成果が全く得られない場合もある、負担の大きい活動になる。これと並行し、訴状の補正を適時に行い、できるだけ早期に債務名義を得て本執行に移行することが被害回復の初期段階の成否を分ける。

 なお、犯罪利用口座からの回収は「被害者同士の争い」の様相を呈し、依頼者のために他の被害者の利益を損なっているのではないか、という疑問が生じなくもない。しかし、弁護士は目の前の被害者のために全力を尽くすのがその第一次的な職責であろう。また、被害回復に熱心な被害者が多くの被害回復を得るのは実質的公平にも適うし、そのような熱心さが、凍結をはじめとした諸手続の迅速(すなわち被害の早期収束)にもつながる。さらに、積極的な被害回復活動を行う覚悟こそが、資金の移転先や犯罪ツールの統括者などを探知・特定・責任追及していく原動力となるのであって、全ての被害者や弁護士があきらめれば(被害の分配手続をただ待つという行動をとるとすれば)、詐欺商法はよりやりやすくなるだろう。法的手続によって被害回復を目指す弁護士として、この種被害に対して広義の民事訴訟手続が全くの無力ではないことが、被害回復を希求する者にとって一筋の光であって欲しいとも思う。

 被害者からの振込先、あるいは資金移転先として用いられる口座の口座名義人にはいくつかの種類があり、すでに持っていたものを単に売却した者、転売目的で口座を開設した者(銀行に対する詐欺罪が成立する)、本人確認書類を譲渡、貸与した者、転送バイトを持ち掛けられた者、他人に口座開設をさせて本人確認手続のみを自ら行う者、法人ごと売却した者、割の良い収納代行業務があるという話に乗ってしまった者など、様々である。名義人に何らの関与もなく口座が開設されたり利用されている例は(本人確認が厳格化されている)現在ではあまり見当たらない。免許証の写しを交付した程度では、新たに口座が開設されることはできなくなっているからである。

 資金移転先は凍結されていない場合が多い。口座の動きを見れば疑わしい取引であるのみならず、犯罪資金の移転先として使われていることは一目瞭然であるにもかかわらず、放置されていることもしばしばである。資金移転先(一部の情報しか得ることのできない我々にはその判断は必ずしも容易ではない場合もある)を凍結し、仮差押え、訴訟、と手続が続いていく。

 外国人が関与している場合など、送達に困難を生じることが多く、送達のための調査も様々な角度から複数回数行う必要があることが多い。送達のための弁護士会照会(不動産管理会社や入管)は回答までの期間を考慮して適時に行う必要がある。訴訟や仮差押え、強制執行のやり方は、他の被害類型に比して独特であり、微妙な判断や方法の違いが結果を大きく左右することも多く、しかも多数件を並行することの多い極めて煩瑣なものである。従って、この種の被害事案は、多数件を同時に受任することは(少なくとも弊所では)できない。

 近時急増しているSNSからLINEグループに誘導する投資詐欺の典型例とその被害回復手続について述べてきたが、要するに、被害者は、被害回復の実現を「祈る」ことができる前提を作るためには、被害回復が困難な詐欺被害に遭っていることを明確に自覚すること、速やかに口座凍結のための手続を採り、根気強く振込先口座に関する情報を集めること、(できれば複数の)弁護士に会ってきちんと話を聞くこと、被害回復には相当の費用を要することを覚悟すること、が必要である。

 楽観は決してできないが、悲観は何も生まない。