対ソフトバンク訴訟第1審判決等報告(1)

 先日来ご報告させていただいており,多方面から強い関心を集めていた,ソフトバンクモバイルが調査嘱託に応じないことに関する同社に対する損害賠償,回答義務確認請求訴訟について,平成24年5月22日に東京地方裁判所で判決の言い渡しがあったので,その概要を報告し,続いてその問題点等を指摘しておきたい。
 結論は,棄却,却下であり,6月1日付けで控訴をしている。しかし,内容を見ると,ソフトバンクが23条照会に対して報告を拒否する理由としているところが全て排斥されており,23条照会実務にとっても興味深いところが多くあるものと考えられる。
 判示の概要は,次のようなものである。
1 嘱託を受けた内国の団体は,正当な事由がない限り,調査嘱託に対して回答すべき義務を負う。
2 本件調査嘱託事項は,携帯電話番号の契約者情報を内容とするものであるところ,契約者情報それ自体から個々の通信が推知されるものではないし,契約者情報が直ちに通信の当事者を特定しうる情報であるともいえないから,ソフトバンクは通信の秘密として秘密保持義務を負うことはない。ソフトバンクは調査嘱託書から嘱託事項が「通信の秘密」に該当しないと判断することはできないというが,本件調査嘱託事項は,調査嘱託書の記載自体から「通信の秘密」に該当しないことが明らかである。
3 ソフトバンクは本件嘱託事項について電気通信事業法4条2項の「通信に関して知り得た他人の秘密」として秘密保持義務を負うが,携帯電話番号の契約者に関する氏名,住所,電話番号の情報は,人が一定の社会生活を営む上で一定の範囲の他者に対しては開示されることが予定された情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえず,プライバシーに関わる情報であるとはいえ,これが開示されることによって当該情報の主体に生ずる不利益は大きなものではない。他方調査嘱託は簡易迅速な証拠の収集を可能とするものであり,嘱託先が調査嘱託に対して回答すべき必要性は高い。従って,上記嘱託事項について回答すべき義務は,「通信に関して知り得た他人の秘密」としての秘密保持義務に優越するものと解するのが相当であり,回答拒絶に正当な理由があったとは認められない(ただし,電話料金支払方法については秘密保持義務の方が優越する)。(続く)