レセプト債被害集団訴訟について
平成28年7月12日
弁護士 荒 井 哲 朗
同 島 幸 明
同 浅 井 淳 子
同 太 田 賢 志
同 五 反 章 裕
同 津 田 顕一郎
同 見 次 友 浩
同 磯 雄 太 郎
当職らは,株式会社オプティファクター(以下「オプティ社」という。)及びその関連会社が組成・運用・発行し,アーツ証券株式会社(以下「アーツ証券」という。)等が販売していた,いわゆる「レセプト債」について多数の被害者からの相談を受け,被害弁護団を立ち上げた。
当弁護団は,平成28年3月7日に第1次集団訴訟,同年7月11日に第2次集団訴訟をそれぞれ提起したので,本事案に対する当弁護団の考え方の概要を説明する。
なお,不特定多数者,特にオプティ社,アーツ証券関係者らも閲覧可能であることから,今後の戦略に関わるような詳細を記述することは出来ない。また,手続の方針は,今後の調査や状況の変化によって随時変更される可能性がある。
内部事情等についての情報提供は,大いに歓迎する。
第1 事件の概要
本件は,オプティ社,アーツ証券及びその関係者らが,「医療機関から買い取る診療報酬債権を裏付資産とする安全性の高い商品がある」などと称して,一般投資家に対して外国法人の発行する診療報酬債権等流動化債券(以下「本件レセプト債」という。)を販売し,計2400名超から計約227億円もの資金を集めたが,当該資金は診療報酬債権の買取りではなくオプティ社その他関連会社の資金等に流用・毀損され,その結果,一般投資家らが元利金の支払いを受けられずに多額の損害を被ったという事案である。
第2 当弁護団の見解
1 被害者(原告)らが伝えられていた本件レセプト債の仕組み及びリスク
本件レセプト債は,?本件レセプト債の発行を目的として設立された特別目的会社(SPC)を発行体とするユーロ円債であり,?発行体が保有する診療報酬債権及び介護報酬等(以下「診療報酬債権等」という。)を裏付資産として発行されるものであり,?償還日は発行日から1年後,?利率は年率3%(固定,課税前)である。
本件レセプト債の裏付資産のうち,まず「診療報酬債権」とは,病院等の医療機関が提供した保険医療サービスについて,当該医療機関が社会保険診療報酬支払基金等に対して有する支払請求権のことであり,「介護報酬等」とは,介護事業者が自ら提供した介護サービスについて市区町村に対して有する介護報酬支払請求権のことである。
本件レセプト債は診療報酬債権等を「裏付資産」として発行される債券であると伝えられていたが,ここでいう「裏付資産」の意味は,まず「投資家」は,「販売会社」であるアーツ証券を通じて「発行体」から本件レセプト債を取得することになるから,投資家の資金は投資家から販売会社,発行体へと順次移動する。次に発行体は,その資金を使って,「保険医療機関」等との間で債権譲渡契約を締結し,診療報酬債権等を買い受ける。診療報酬債権等の買取金額は,保険医療機関等が本来受け取れる金額よりも安く設定されており,発行体等はその差額から手数料収入を得る(保険医療機関等が診療サービスを提供してから診療報酬を受領するまでには約2ヶ月かかるため,資金繰りが苦しいなどの理由で早期に資金調達をしたい保険医療機関等にとっては債権譲渡により資金調達を行うメリットがある。)。そして,「発行体」は,債権譲渡契約から約2ヶ月後に,社会保険診療報酬支払基金等から診療報酬等を受け取り,そこから投資家への社債償還及び利払い等を行う流れになる。
このように,本件レセプト債は,発行体が投資家から集めた資金を使って保険医療機関等から診療報酬債権等を買い取ることを前提としてはじめて成り立つ金融商品であり,診療報酬債権等が本件レセプト債の「裏付資産」であるというのはその意味である。
そして,診療報酬債権等は我が国の健康保険制度に根ざしたものであってデフォルトリスクは(ほとんど)なく,円貨建てのため為替変動要因によってその価値は左右されず,診療報酬債権等の買い取り先となる保険医療機関等についてはオプティ社の関連会社が厳格な審査・監査を行うことから,本件レセプト債は「安全性の高い商品」であると説明された。
発行体の財務状況については,平成27年8月以降にアーツ証券により作成された勧誘資料には,発行体の貸借対照表の一部が抜粋されて添付されるようになり,当該貸借対照表の「純資産の部合計」欄はマイナス(すなわち赤字)となっていたが,かかる赤字の理由については,勧誘時には全く触れられないか,又は「将来債権を取得するので診療報酬が入るまで一時的に赤字になっているだけで問題はない」などと言われただけであった。
2 本件レセプト債発行スキームの実際
(1)本件レセプト債は,社債発行により投資家から得た資金を使って発行体が診療報酬債権等を医療機関から取得することを前提としてはじめて成り立つ金融商品であるから,発行体の発行金額と,発行体が買い取った診療報酬債権等の残高は,概ね一致しているはずである。ところが,平成27年10月末現在における発行体3社の発行残高は約227億円である一方,診療報酬債権等の買い取り残高はその約1割の約23億円に過ぎなかった。そして,証券取引等監視委員会の調査によれば,このような乖離は,発行体3社がそれぞれ本件レセプト債の発行を開始した初期の段階から認められた。つまり,発行体3社等は,本件レセプト債の発行によって調達した投資家資金の大半を,診療報酬債権等の買取りではなく,それ以外の使途に流用し,毀損していたのである。
(2)内容虚偽の決算書の作成
発行体3社においては,本件レセプト債の発行開始当初から,投資家の資金はオプティ社及びその関連会社の資金等に流用され毀損されていったが,かかる資金流用が始まったのと同時期に,発行体3社においては,水増しされた診療報酬債権等残高が記された内容虚偽の決算書が作成されていた。
(3)レセプト債の新規発行を行わなければ元利金の支払いは極めて困難であったこと
前記の通り,本件レセプト債の発行開始当初から,診療報酬債権等の買い取り残高は,本件レセプト債の発行残高を大きく下回る状況にあったため,次々に訪れる既発行レセプト債の償還及び利払い(及び本件関連法人に対する業務委託報酬等の支払い)を発行体3社が継続的に行うのは極めて困難な状況にあった。そこで,オプティ社等の関連法人は,本件レセプト債の新規発行を絶えず行うといういわば自転車操業によって,既発行債券の元利金の支払いを行っていた。
(4)アーツ証券が発行体の破綻等を知りながらそれを秘して販売を継続したこと
アーツ証券は,遅くとも平成25年10月までには,オプティ社の児泉社長から発行体3社の財務状況について相談を受け,本件レセプト債発行残高と診療報酬債権等買取り額との乖離や,関連会社への流用の事実等を認識した。しかし,本件レセプト債を新たに発行し続けなければ破綻必至の状況であったことから,アーツ証券は,診療報酬債権等の買い取り実績がほとんどないことや,発行体が恒常的な債務不履行状態にあることをあえて隠匿し,本件レセプト債は「安全性の高い商品」であるという虚偽の勧誘を継続することにし,もって被害を拡大させた。平成27年11月8日に開かれた説明会においても,アーツ証券幹部らは,本件レセプト債の組成上の違法性を認識したのは同年10月30日にオプティ社から連絡を受けたからであるなどと虚偽を述べ,もって顧客投資家らを欺き続けた。
3 違法性
前記のとおり,オプティ社が運営する発行体3社は,本件レセプト債の新規発行を行わなければ,次々に訪れる既発行レセプト債の元利金支払いができない財務状況にあり,本件レセプト債の新規発行により調達された資金は,その大半が,診療報酬債権等の取得ではなく,オプティ社及びその関連会社の資金に流用され,毀損されていった。
すなわち,オプティ社,発行体3社を含む本件関連法人は,少なくとも原告らが本件レセプト債を購入する時点において,それが「診療報酬債権等を取得し,それらを裏付資産として発行される債券」でも「安全性の高い商品」でもなかったにもかかわらず,販売会社であるアーツ証券等をして,前記のとおり本件レセプト債が「診療報酬債権等を裏付資産とする」もので「安全性の高い商品」であるなどという虚偽の説明資料を前提とした取得勧誘をさせ,もって原告らをしてその旨誤信させ,本件レセプト債の取得代金名下に多額の金員を支払わせた。かかる本件関連法人等による本件レセプト債の組成・運用・販売行為は,強い違法性を帯びるものである。
第3 集団訴訟の当事者
1 原告ら
いずれも,アーツ証券の営業担当者又は同社が委託した金融商品仲介業者を通じて本件レセプト債を取得した被害者である。第1次集団訴訟は4名,第2次集団訴訟は32名が原告となっている(請求金額合計6億6110万円)。
2 被告ら
オプティ社,アーツ証券の役員らをはじめとする,本件レセプト債の組成,運用,販売の関係者ら計22名(3法人,19自然人)を被告としている。
第4 争点
当弁護団は,本件レセプト債の組成・運用・販売行為が強い違法性を帯びると主張しているが,各行為の違法性の有無,そして主導的役割を担った者以外の被告については,その関与態様や認識内容に照らしてその責任の有無が争点になることが予想される。
第5 弁護団事務局
本件についての問い合わせ,情報提供は,以下事務局まで。
弁護団事務局
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以上