控訴審からの受任

 残念ながら地方裁判所において請求が(十分には)認められないこととなると,高等裁判所への控訴を検討する必要があります。当法律事務所においても,多数の控訴審を担当してきましたが,1審は被害者自身や他の弁護士が行っていたものを控訴審から委任を受けることもしばしばあります。金融商品取引被害関連訴訟のみでなく,様々な事件類型で近時そのような相談が増加している傾向にあるので,少し控訴審のことについて書いておきます。

 控訴審は,多くの事件が1回の弁論期日で終結しますが,1回終結した事案であっても,結論が変わることは往々にしてあり,特に,先物取引被害や金融商品被害事案においては,高裁の方が地裁より理解を示してくれることも少なくありません。

 もっとも,控訴審は短期間のうちに準備をする必要があるため,控訴審について法律相談をする場合には,急を要します。1審段階から委任を受けて訴訟を提起する場合と異なり,控訴審から委任を受ける場合には,タイトなスケジュールの中で主張立証を見直し,控訴理由・新たに提出すべき証拠の有無等を検討しなければならないからです。控訴審の審理期間は概ね6か月程度ですが,弁論期日は1回のみしか開かれず,即日結審することが多いのが現状ですから,それまでに1審記録を精査し,依頼者から事情を聴取し,これらに検討を加えて,第1回口頭弁論期日までに主張立証の準備をし尽くしておかなければならないのです。控訴の提起は判決の送達を受けてから2週間以内にしなければならず,控訴理由も控訴状を提出してから50日以内に提出しなければならないため,控訴審から事件の委任を受けた弁護士は極めてタイトなスケジュールの中でこれらを行う必要があります。

 先物取引被害や金融商品取引被害においては,訴訟の専門性が高いため,1審段階で適切・十分な主張立証がなされていないことに起因して敗訴ないし敗訴的内容の判決となっている例が少なくないように見受けられます。このような場合には,1審の主張立証をそのまま控訴審で述べるのみでは,1審の判断が変更されることを期待することは覚束ないでしょう。もっとも,控訴審で改めて尋問等が採用されることはあまりないため,1審で提出されていない書証の存否や改めて適切な法律構成を採るべきかどうかを検討することが主眼となり,また,同じようなことを主張している場合であっても,証拠に基づき,より説得的に主張することができないかを検討する必要もあります。

 何かのご参考のために,控訴理由書例を掲記しておくことにします(10年も前に起案したものであり,未熟と思われるところもありますが,凄惨な被害であったのに1審が請求を全部棄却している事案であったこと,被害者本人が亡くなっていた事案であって事実経緯が必ずしも明らかにできない事案であったこと,控訴審からの受任であり,極めて短期間のうちに主張を練り直す必要があったこと,などといった特殊性がある事件でしたので,良く記憶に残っていた事件でした。高裁で訴訟上の和解が成立しました。)。
Adobe_PDF_Icon1.svgPDF(控訴理由書例)

 なお,他の弁護士が追行して1審で請求が全部棄却されてしまった事件について,控訴審から委任を受け,無事控訴審で逆転(一部)勝訴判決を得たものとして,直近のものとして,東京高等裁判所平成26年7月17日判決があります。1審で約3年の審理を経て請求が全部棄却され,控訴審で約6か月で結論が変わり(遅延損害金を算入すると,実損害の53%の賠償が命じられています),控訴審の怖さ,大切さを改めて感じさせる事件でした。