最近の担当事案の判決のうち,実務上興味深いと思われ,弁護士らの関心が高い3つの判決について,概要を報告しておく。いずれもHPには判決を掲記してある。
1 まず,東京地判平成28年3月23日は,詐欺商法業者(ロト6詐欺)に用いられた銀行口座を開設するにあたって内職のために必要であると言われて本人確認資料等を送付し,届いた郵便物を転送するという「内職」をしていた者ら(その他の関与態様の者もある)に対し,口座開設の幇助をしている認識がなくとも,自らの行為が何らかの違法行為に使われている可能性が高いことを容易に知り得たとして損害賠償を命じたものである。
近時,組織的詐欺商法において用いられる(主に)ネット銀行口座について,必ずしも本人確認が厳格になされていなかったこともあって,上記のような態様で口座の違法な開設に関与する者が多くあったが,このような者らに対する責任追及訴訟の動きがなされてくるようになっている。
これまで同旨結論を採る裁判例がなかったわけではないが,どういう検討の結果そのような結論になったのかが分からないような判決が多かったところ,本判決は,詳細な事実認定の上に,複数の争点のそれぞれに対して充実した判断が示され,過失の対象についても踏み込んだ判断を示しており,実務上参照価値が高いものと考えられる。
2 二つ目は,二酸化炭素排出権取引商法に関する東京高判平成28年4月13日である。現在,我が国においてCO2排出権取引商法を行っている業者は,そのほとんどがAX Markets Limitedを通じてICE(インターコンチネンタル取引所)における「ECX?EUA」(欧州気候取引所 EU域内排出権)を行う,と称するものであるところ(そうでなく,「相対取引」であると正面から言い切る業者は,そのような取引は仕組み自体違法であるとの裁判例により著しい減少を見せている。),そのような取り次ぎがはできないと認定し,取り次ぎができないのに取り次ぎをするとして勧誘等をしたこと自体が詐欺に当たると判断している。現在の同種商法の被害救済に広く援用されることとなろう。
3 三つ目は,「デート商法」に関する東京高判平成28年4月20日である。結婚紹介サイトで知り合った女性から出資,社債・株式取得名目で金銭を交付させられた事案であるところ,被告は多数あり,判決は五月雨式になされているが,本判決は,業者の顧問などとして弁護し対応などを行っていた者の1審の欠席判決に対する控訴審判決である。
本判決は,「一審被告菊池は結婚紹介サイトを通じて同じ時期に被控訴人らと知り合い,被控訴人らに対して交際をほのめかしながら投資のリスクを何ら説明することなく,出資金,社債購入資金等として一審被告会社尚未らに対する投資を勧誘したこと,被控訴人らを勧誘した一審被告K以外にも,一審被告株式会社尚未の取締役であった一審被告Yが同様の方法で一審被告株式会社尚未らに対する投資の勧誘を行っていたこと,一審被告Kによる勧誘と一審被告Yによる勧誘とは,勧誘の方法が共通のものであり,両名が勧誘を行っていた時期は近接していることが認められ,これらによれば,一審被告K及び一審被告Yによる投資の勧誘は,結婚紹介サイトで知り合った相手方に対して,交際する意思はないにもかかわらず,これがあるかの如く装い,相手方の歓心をかい,実態に乏しい法人への投資案件を勧誘するという違法なデート商法による投資勧誘行為と評価され,これは一審被告株式会社尚未の業務の一環として行われていたと認められる。」と判示している。
投資的商法(特にマンション投資などが多いように思われる)において,デート商法としての違法性は正面から肯定されにくい傾向がある中で,本判決は,明示的に「違法なデート商法」であると認定しており,控訴審判決であることもあって,実務上の参考価値があると考えられる。