昨日(平成23年9月21日),最高裁判所から2つの決定(許可抗告審決定)が送達されてきた(最三小決平成23年9月20日,平成23年(許)第28号,同37号)。多くの実務家がその内容に強い関心を寄せていた論点に関するものであったが,決定は,いずれも,ただ執行抗告を棄却した原審の判断を正当として是認することができるとのみいうものであり,その理由は何ら付されていない。
この論点についてこのような判断しか示されないことには失意を禁じ得ず,この感覚は多くの実務家に共有されうるものと思われる。
今一度,この問題を振り返って整理しておきたい。
1 問題の所在
預金債権の差押命令の申立に当たっては,取扱店舗を特定(限定)しなければならないとするのが実務の基本的取扱であり,複数の支店を限定列挙する方式を認めた決定例はいくつか見られるものの少数にとどまっており,全店無限定列挙方式(全取扱本支店を本支店番号の順位で順位付けをして「特定」する方式)を許容した決定例は皆無であった。
しかしながら,支店を限定する執行は差押債権者に著しく大きな不利益をもたらす。すなわち,預金債務の法的帰属主体でない「支店」毎に債権を割り付けなければならないという従前の実務によるときには,郵便事情及び各支店の差押命令への対応の状況によって,各支店の差押手続に不可避的なタイムラグが生じるところ,このような状態では,差押債務者(預金債権者)が自らに差押手続がなされたことを察知し,他の預金を引き下ろしてしまうことによって執行が奏功しないという事態が生じる現実的危険性があるのである。そこで,預金契約の存否さえも不明な取扱店舗を盲目的に選んで「割り付け」をして執行手続を行うなどといういかにも不健全な運用が実務上一般的に行われてさえいる。
また,差押命令の送達は地域の郵便事情によっては数時間以上のタイムラグが生じるし,各支店の差押への対応体制の程度等によって送達後の現実の処理にも多少のタイムラグが生じる。このようにして数時間を超えるタイムラグが複数の支店の差押手続間に生じるのであれば,差押債権者としては,第三債務者の本店等が一元的に差押処理を行った方が,仮に多少の時間がかかるとしても,債務者に差押を察知されうる状況になってからタイムラグが生じるよりはよほど執行の奏功可能性が高まるのであり,一定の不利益は甘受するものと思われる。
そもそも,本店支店の関係にすぎないのに預金債権のみ支店毎に分断する運用が維持されるべきというのであれば,それは,著しく発達した預金管理システムのもとでもなお負担が過大である旨の主張立証が銀行から不断になされなければならないだろう。そうして始めて議論がかみ合い,深まり,実務が実情に即したものとなりうる。そのような状況を欠いている以上,支店の特定(限定)を求める実務のあり方には正当性に乏しいように感じられた。(続く)(荒井哲朗)