(続き)
私は,CIFシステム等のみを指摘してする発令には,若干の抵抗感を持っていた。システムの詳細は必ずしも外部からは分らないのであるし,それが差押手続との関係で用いられたときにどのような負担を金融機関に強いることとなるのかという点には,まだ不透明なところがあるとも思われないではなかったからである。CIFなどを云々するのみでは,そこで検索されない預金はどうなるのかという問題も生じる。そこで,まずは,「公平の観点からの特定性の要求」というところに着眼して,ふりがなや生年月日の記載と特定との関係を指摘したり,23条照会を先行させて取扱支店を限定できないことの「責任」の所在を明らかにするなどして,価値考量としても異論のない判断が積み上げられていくのが望ましいと考えたのである。このような観点から,東京高決平成23年3月30日は,決定理由として最も望ましいものと考えていた(決定理由は,「抗告人代理人は,…住民票で判明した相手方の住所,ふりがな,生年月日,現住所及び前住所を相手方を特定する事項として記載した上,相手方の口座開設年月日,支店名,口座番号等を照会する弁護士法23条の2第1項による照会を行った。…以上によれば,抗告人は,抗告人として差押債権特定のために考えられる調査を尽くし,弁護士法照会によっても回答を得られなかった金融機関を第三債務者として,本件申立てを行ったものということができる。」,「次に,…このような検索を行うことについての第三債務者の負担等について検討する。今日において,各金融機関は,システム設計等において差異があるとはいえ,個別に顧客情報を管理するシステムを導入しているのが通例であり,この顧客管理システムを用いることにより,大部分の金融機関では,債務者の預金の存在,債権額等について全支店の検索等をかけることが可能であると推認される。もっとも,このようなシステムでの検索は,通常はカナ検索により実施され,また,自然人である預金者について同姓同名の者が存在する可能性があり,その場合は債務者の特定が容易でないという問題点があるが,ふりがな,生年月日の記載をすることにより,システムによる検索は相当程度容易になることが推認される。そして,本件において抗告人代理人が行った弁護士法照会に対し,…は照会結果を回答しており,これらの金融機関においては,抗告人が記載した情報によって,システムによる検索が現実に可能であったものと推認される。これを前提に本件についてみると,本件申立てにかかる第三債務者は,いずれも我が国において最大の金融機関であり,上記各金融機関と同等以上の検索機能を備えた顧客情報管理システムを備えていると推認されること,本件申立てにおいては,抗告人は,システムによる検索を前提として相手方の生年月日,ふりがなを明らかにしていること,抗告人代理人による弁護士法照会に対して第三債務者三菱東京UFJ及び同みずほが回答を拒絶した理由は,相手方の同意が確認できない旨であり,検索の困難性をいうものではないこと(ちなみに,差押命令に基づく債権の有無等の調査・検索については相手方の同意の点はおよそ問題とならない。)などを総合すると,本件申立てに対応して申立てに係る第三債務者が差押えの目的物となる預金債権を識別して支払を停止するまでに要する時間と負担は,社会通念上合理的な範囲内を超えるものではないというべきである。」というものである。)。
しかし,上記発令例のいずれについても銀行から不服申立(執行抗告の申立)がなされておらず,陳述催告(民事執行法147条1項)に応じて陳述書が提出されている(本店から3店舗の預金を差し押さえた旨の陳述書が提出された例や,預金の存在する複数支店からそれぞれ陳述書が提出された例があり,銀行では本店での一括対応も支店での個別対応もいずれもできることがうかがわれる。なお,東京高決平成23年4月14日は別事件における陳述書の提出経過を銀行の負担が社会通念上合理的な範囲を超えないことの補強材料として認定している。)。すなわち,銀行がこのような差押命令に対応できることが,事例の集積からすでに明らかになったものということができるのである。(続く)(荒井哲朗)