詐欺的商法被害事案においては,取締役らの責任は,裁判実務上,名目的なそれであったと主張する場合を含め,ほとんど異論なく肯定されている。
中小規模の金融商品取引業者(まがい取引業者を含む)においては,会社法上の責任(旧商法上の責任)が不法行為責任の補完的機能(中小規模事業者の事業の執行に違法があれば会社の内部事情は外部から把握しにくい上に業者の顧客らは会社の内部事情に関知し得ない立場にあって具体的な違法行為等を詳細に云々することなく幹部構成員らに責任を負わせるのが公平である(名目的であるとか関与の度合いが小さいという主張は,被害者らに対して賠償をした上で主要な関与をした者に対して自らの負担で求償権を行使するべき事柄である)という価値判断に基礎を置くものである)を果たしているということが指摘され,名目的取締役であるなどという主張を認めない傾向はもはや揺るぎないものといってよいほどに顕著である。
ところで,この点は,「名目的役員」という呼称が議論を混乱させる遠因ともなっているように思われることもある。要するにこの点の法律的判断は,株式会社の役員の対第三者責任が法定責任であること,法の不知は罰する(法諺)こと,最判は商法14条の類推によっても旧商法266条の3の責任が生じるものと判示していること,価値判断としては,役員であった者らがいかに会社の業務に関与せず,任務を懈怠したかを言い募れば言い募るほど責任を免れるかのような構造は一般の法感情にも反するものであること,名目的であったというのは要するに真実の幹部と当該名目的であると称する役員との間での取り決めについての事柄であるから,その事情は損害賠償を履行した者が行う求償権に関する係争に委ねるのが公平であること,を考えると,その結論は自ずと明らかである。「名目的役員」というのではなく,「確信的義務不履行役員」と呼称するのが実情及びその法的責任にも合致するように思う。