(続き)
(1)本件許可抗告の申立に係る原決定は,いわゆる無剰余通知を受けているとしても,手続費用及び優先債権の見込額の合計額を超える額を定めて,同額に達する買受けの申出がないときは自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供をするなどの方法によって,強制競売手続の続行を求めることができ,それができないことは「事実上の困難に過ぎない」,本件では買受希望者があるというのであるからこれを元に優先債権者と交渉すれば良く,交渉もしないで同意を得ることが困難であるとは直ちにいえない,無剰余取消制度は,民事執行法の容認するところである,として,本件申立は不適法であるとの原々決定を相当であるとして申立人の抗告を棄却した。
(2)確かに,仮差押命令は,通常は,債務名義のない場合に申し立てられることが多いが,それは,債務名義を有している以上即時に強制執行手続を採ればよく,通常は「保全の必要性」を欠くからである。
しかしながら,民事保全手続は,民事訴訟の本案の権利の実現を保全するため(民事保全法1条),すなわち,民事訴訟の本案の権利の実現が不能若しくは困難となることを防止するために,債務者の財産を現状のまま凍結することを目的とするものであって,金銭の支払を目的とする債権について,強制執行をすることができなくなるおそれ又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがある場合に発することができるものとされている(同法20条1項)。
そして,被保全債権について債務名義が存在していても,上記の場合に該当することは観念されるところであり,そのような場合には,権利保護の必要性(及び保全の必要性)は否定できず,民事保全手続の趣旨・制度目的に照らしても,仮差押命令の申立は許容されなければならないのではないだろうか。(続く)