多くの方面から関心を持って頂いている標記の事件について,本日,東京高裁で控訴審判決の言渡しがあった。
請求は容れられていないが,今後の同社の調査嘱託・23条照会への応答を変容させうるものと期待させる判示がなされている。
判示は,大要,次のようなものである(判決文は追って当事務所のHPに掲示する予定である。)。
「被控訴人(ソフトバンクモバイル)は,本件調査嘱託…に回答すべき義務があるのに,これをしなかった。控訴人としては,本件調査嘱託を通じて取得できた資料を基に石川(詐欺商法加害者)の住所を覚知するなどして有効な訴訟遂行を考えていたが,被控訴人からの本件調査嘱託に対する回答がなかったことにより,石川の住所を知ることができず,結局公示送達の方法により訴訟を遂行せざるを得なかった。その意味で控訴人の有効な訴訟遂行の権利が侵害されたとみる余地もある。確かに,調査嘱託に対する嘱託先の回答義務は,前記のとおり当該調査嘱託をした裁判所に対する公法上の義務であり,調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者に対する直接的な義務ではないので,上記公法上の義務に違反したことが直ちに上記訴訟当事者に対する不法行為になるというものではない。しかし,調査嘱託の回答結果に最も利害を持つのは調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者であるところ,この訴訟当事者に対しては回答義務がないという理由のみで不法行為にはならないとするのは相当ではないというべきである。したがって,調査嘱託を受けた者が,回答を求められた事項について回答すべき義務があるにもかかわらず,故意又は過失により当該義務に違反して回答しないため,調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者の権利又は利益を違法に侵害して財産的損害を被らせたと評価できる場合には,不法行為が成立する場合もあると解するのが相当である。
…控訴人作成の調査嘱託申出書には,本件調査嘱託の目的が記載されているが,本件調査嘱託においては単に本件調査嘱託事項のみが記載されているだけで,その目的の記載はない。これを受け取った被控訴人としては,本件調査嘱託の目的が判明しない以上,秘密保持等のために回答を拒否したとしてもやむを得ないと考えられる。したがって,本件調査嘱託事項…については,被控訴人に回答すべき義務があったのではあるが,上記の点からして,被控訴人の当該義務違反が故意又は過失により行われ,その結果調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者の権利又は利益を違法に侵害して財産的損害を被らせたとまで評価することはできない。」
また,ソフトバンクがことあるごとに云々するDV事案については,「被控訴人の指摘するドメスティック・バイオレンスの事例は適正な事例とはいえ」ない,と断じている。
本判決は,
本件訴訟においては調査職の申立書も提出されていて,ソフトバンクは本件調査嘱託の目的を知っていたのであるから,過失がなかったとは到底言えない,
また,上記のように考えるのであれば,中間確認の訴えにおける「先決性」があることは明らかであるから,中間確認の訴えの利益がないとの判断(原判決を引くのみで新たに理由を付加してはいない)には齟齬があると言うほかない,
などと言った問題点があるように思われる。
しかしながら,上記に紹介したような判示は,実務を大きく前進させる可能性を秘めており,歓迎できるものであるから,これに対して不服を申し立てることには躊躇を覚える。
これを受けた各取り組み(これらによるソフトバンクモバイル社の運用方針の是正)に期待したい。
平成24年12月3日補足
本判決及び原判決は金融・商事判例1404号で公刊され,その解説は,(不法行為の成否に関する部分について)「本判決の意義は画期的ともいい得るほどに大きいものがある」としている。今後の活発な議論の契機とされることを改めて期待したい。