5月1日の東京新聞,中日新聞に,下記の記事が掲載されました。
<セカンドらいふ>老後資金守るなら貯蓄で十分 MRI事件教訓に
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2013050102000154.html
アベノミクスへの期待感による株価上昇を背景に、投資セミナーが盛んだ。老後資金が気になるシニアの関心も高い。だが、米国の資産運用会社「MRIインターナショナル」の事件のようにトラブルは後を絶たない。投資トラブルに詳しい弁護士の荒井哲朗さんに聞いた。(三浦耕喜)
「銀行でさえ失敗する。個人が投資するなど非建設的。投資などしなくていい」。荒井さんは、昨今の投資ブームをズバッと斬りすてた。「『貯蓄から投資へ』など、無責任なスローガン。シニアに老後資金を吐き出させる『現代の金属供出』といえる」
投資をめぐるトラブルは数多い。MRIの事件では、日本の顧客の千三百億円が消えたとされる。昨年のAIJ投資顧問の事件でも、年金基金の千四百五十八億円の大半が消えた。
投資を勧めない理由について、荒井さんは「取引を判断する情報の収集で個人は圧倒的に不利だということ」と端的に説明した。「必要な情報が、適切に開示されているとは限らない。うそをつく例も多い」
実際、MRIは財務局や顧客に虚偽の報告をした疑いが強い。AIJ事件でも、社長らは詐欺罪などで起訴された。
公表情報だけでも、機関投資家に追いつくには、常に経済情勢に神経をとがらせることになる。パソコンから目を離せず、海外市況が気になれば夜も寝られない。「常に動く数字にイライラして、しかもリスクを抱える。それが豊かな暮らしといえるでしょうか」
では、投資信託などプロに任せるやり方はどうか。荒井さんは、銀行系の証券会社で起きた実例を挙げた。
銀行が紹介した証券会社が、年金暮らしの八十一歳の男性にリスク性の高い投資信託を勧誘。男性は資産の大部分を投じた。だがその後、株価下落で元本割れが生じ、男性は三千万円を失った。
「銀行が仲介していれば、元本は保証されていると思い込むのは仕方がない。リスクを十分に説明しないことがあまりにも多い」と荒井さん。このケースは裁判になり、証券会社は約二千万円を払うよう判決が下された。
「こちらが損をしても、証券会社や投資会社は得をすることもある。顧客と共存共栄の関係にはない。それでも取引したいのなら、相手は自分を客とは思っていないつもりで」と荒井さん。そもそも、シニアには根本的なリスクがあるという。
「加齢リスクだ。今は頭もはっきりしていても、判断能力はやがて衰える。そうなっても、手を引けなくなりズルズルと続けていて、老後の資金は守れるのだろうか」
投資は「少しでも得をしたい」と思って始めることが多い。だが、損すると「何とか取り返そう」という意欲が湧きがち。負けが込むほど、大ばくちをする道理だ。
「そんな心理状態になると、詐欺にも引っかかりやすくなる」と荒井さん。シニアの多くは、まとまった貯金があり、年金という確実な収入があり、ローンの済んだ不動産も持っている。年を取って判断能力が鈍り、でも投資に抵抗感がないとすると、一体どうなるか?。「高齢者の財産を狙う業者がはびこることは容易に想像できる」と言う。
荒井さんは「『私はやらない』というスタンスを定めること。投資は損のリスクを引き受けるもの。決して守る手段ではない。老後資金を守るなら貯蓄で十分」と話している。(以上)
この記事には多くの反響があり,投資を止めたいのだがどうすればよいと思うか,などと高齢者から電話が架かってきたりもした(もちろん,当職には具体的な「アドバイス」は何一つする立場にない)。
さて,投資はしなくて良いというのは,正論であるけれども,金にならないからであろうか,あまり言う人はない。これをきちんと言ってやるのが,「大人」の矜恃である。この記事を書かれるにあたっての取材の姿勢及びこの記事に接し,これを書かれた記者にその矜恃をみた。