いわゆる劇場型未公開株詐欺被害事案においては、第一審で被害者側が勝訴することがほとんどです(もちろん証拠が揃っていることが前提ですが)。ただし、まれに、主張も立証も他の事件とまったく同様であっても(むしろ他の事件よりも立証が厚くても)、この種事案を「被害」と認めないかのような判決が出される場合があります。
その特徴的な理屈は、おおまかにいうと以下のようなものです。
1.会社が現に存在していて、事業がいちおう継続している。それなりに取引もあった。
2.ゆえに株式は客観的価値は全くなかったとはいえない。
3.だから価値があるかのように装った勧誘は違法とはいえない。
4.よって請求原因については理由がない。
このような場合、当然鼻息を荒くして控訴を行うわけですが、先日、とある未公開株詐欺被害の高裁判決があり、この判決では(当然第一審判決は取り消され、請求の9割以上を認容する逆転勝訴判決となったわけですが)、第一審で一度出された判決を、きれいに塗りかえることはなかなか難しいということを改めて思い知らされました。
この事件では、被害者は2つの会社から被害を受けていました。
まず、勧誘部隊からA株式会社の未公開株式を購入させられましたが(1)、その1年後、A社の株券はB合同会社の出資券に切り替えられている、B社の出資券を11倍で買い取りたい人がいるなどと説明され、追加でB社の出資券も購入したのです(2)。
高裁では、(2)の出資券については、「それ自体において何らかの財産的価値を有すると認めるのは困難」と述べて購入代金全額を損害と認定しましたが、(1)の株式については、地裁と同じ理屈でこれを損害と認めませんでした。
訴訟に限らず、事務所のHPや様々なところで、我々は、未公開株の無価値性が換価可能性と切り離せないことについて主張しています。
すなわち、現在、グリーンシート銘柄以外の未公開株については、証券業の登録を受けた会社であっても、証券業協会の規則により、これを勧誘してはならないとされています。
経営状態に関する適切な情報開示のない会社の株式は、証券取引の対象とすべきでないものとされているのです。
つまり、グリーンシート銘柄以外の未公開株式は、一般投資家が正当な価格(価値)に関する情報を得にくいものです。これを市場価値・交換価値の点からみた場合、換価可能性が極めて低く、これをいったん取得した場合には、一般投資家は取得価格と同程度の価格では販売しえないということになります。その意味で、当該株式は無価値(あるいは著しく価値が低い)であり、損害であるといえるのです。
実際に、「(当該未公開株の)販売価格が正当なものであったことを積極的に立証しない限り、・・・取引当時における本件未公開株の正当な価格は、もともとその代金額を大きく下回るものであり、その販売価格は、顧客がそれを正当な価格であることを前提とした詐欺商法によるものであったことが推認されるというというべき」とした裁判例もあります(東京地裁平成19年11月30日判時1999号142頁)。
株式に価値があると主張するのであれば、それは損益相殺の問題とすべきであり、抗弁として、価値があると主張する側に主張・立証責任があると考えるべきです(東京高判平成20年5月15日、東京高判平成21年1月21日参照)。
こういう判決をもらうと、「これはすごいチリ紙なのだ」と騙されて普通のチリ紙を1箱30万円で買ってしまった人に、「チリ紙は鼻をかむこともできるしこぼれた液体を拭くこともできる。なんならものを包むことだってできる。ゆえに価値はあるのだから、そもそも損害と考えることはできないのである!」と言われたような気分になり、本当に鼻白んでしまいます(もちろん、適切に地道に経営を行っている大多数の企業の存在価値を否定するつもりはありません)。
そんなわけで、現在上告受理申立理由書を起案中です。