近時のファンド商法でよく見られる,適当な高配当(年間配当30%)を恒常的に出す旨喧伝し,「ファンド・オブ・ファンズ」,「運用会社に投資する」をするなどと称していたにもかかわらず,出資金を特定の者ら(A社,B社,C社)へ無担保で貸付を行い,結局ファンドが破綻したなどとして出資金の返還をしないという事案についての集団訴訟である。
本判決は,まず、本件匿名契約による出資金は,そのほとんどが「無担保の貸付によって運用されており,それ以外の運用の予定もなかった」にもかかわらず,「被告ハヤシファンドと同トップゲインは,原告らに対し,本件匿名組合契約締結の勧誘に当たり,出資金の運用について,「『ファンド・オブ・ファンズ』という運用法方を採用すると記載したパンフレットなどを送付して,その運用方法を説明して」おり,「原告らは,本件匿名組合契約の出資金の運用方法が『ファンド・オブ・ファンズ』によるものであると誤信して」出資金を支払ったと認定した上,「本件匿名組合契約締結の勧誘に当たり,出資金の運用方法について故意に虚偽の説明をした」,「原告らは,そのような虚偽の説明を真実であると誤信して本件匿名組合契約を締結した」とし,「匿名組合契約は,営業者が出資金を運用して,その利益を分配することを目的とするものであり,営業者が出資金をいかなる方法で運用するかは,同契約を締結するか否かを決定するに当たって極めて重要な事柄というべきであるから,本件匿名組合契約締結の勧誘に当たり,この点について故意に虚偽の説明をし,その旨誤信させて契約を締結させ,出資金として金員を交付させる行為は,不法行為を構成させるというべきであ」るとして,被告らの違法性を明確に指摘し,業者側の,本件で被告らが行ったA社,B社及びC社への無担保の貸付も「ファンド・オブ・ファンズ」に含まれるから,「ファンド・オブ・ファンズ」による運用であると告げたことは,虚偽の事実を告げて勧誘したことにはならないなどとの主張については,「『ファンド・オブ・ファンズ』とは,不動産,株式,債券などへの投資信託を投資対象とする投資信託であると理解されていることは公知の事実であるし,前記のとおり,本件匿名組合契約による出資金は,ほとんどが志波らに対する無担保の貸付によって運用されており,それ以外の運用の予定もなかったのに対し,被告ハヤシファンドと同トップゲインが配布していたパンフレットには,運用方法として貸付は例示されていないのであって,被告ハヤシファンドと同トップゲインが出資金の運用方法について虚偽の説明をしたことは明らかである」として,排斥した。
また,自身は一切業務に関与していなかったという主張をしていた役員らの個人責任についても,本判決は,同社の代表取締役もしくは取締役としての職務を行う意思はないのに,それら地位にとどまった上,代表取締役もしくは取締役としての職務を一切行わず,被告林に経営を任せていたことが認められるのであるから,同役員らには重大な過失があるといえ,その役員の就任期間に応じて,会社法429条1項の責任を負うとした。
本判決は,この種のファンドまがい商法の判断枠組みが踏襲され,真実はそうでないのに,「ファンド・オブ・ファンズ」を喧伝する行為についての違法性評価を固めるものであり,参照価値があるものと思われる。
判決PDF
⇒先物取引裁判例集67巻325頁
⇒消費者法ニュース95号349頁
⇒金融・商事判例1427号金判SUPPLEMENTVol.59
(海外ファンド,金融商品まがい取引としての違法性)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決) 「金融商品まがい取引」として違法性を導いたリーディングケース
2.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成20年9月12日決定) 私募ファンド業者に対する意表を突いた被害回復手続
3.D9
(東京高等裁判所令和5年5月17日判決、東京地方裁判所令和3年11月26日判決) 詐欺的商法をマルチの手法で伝播拡散した者(勧誘者、動画投稿者、上位者等)らの不法行為責任を認めた事例
4.ラッキーバンク
(東京地方裁判所令和4年11月14日判決) ソーシャルレンディングの被害事案において、ファンドの組成・販売を行った第2種金融商品取引業者とその役員の責任を認めた事例
5.CFS
(東京地方裁判所令和2年2月26日判決、東京高等裁判所令和3年7月19日判決) 違法な商法において主謀者以外の商法の伝播に関与した者の責任を肯定した裁判例
6.ゲインスカイ
(東京地方裁判所令和6年10月24日判決) マルチまがい商法の伝播者、上位者の責任を認めた事例
7.夢高塾
(民泊投資セミナー商法関係)(東京地方裁判所令和2年6月15日判決) 民泊投資セミナー商法の違法性と損害の範囲
8.JPB,日本プライベートバンキングコンサルタンツ
(海外ファンド,金融商品取引業者の取締役の監視監督責任のあり方)(東京高裁平成22年12月8日判決,東京地方裁判所平成22年5月28日判決) この種業者の(名目的)取締役の責任について説得的に判示している
9.ストラテジック・パートナーズ・インベストメントほか
(東京高等裁判所平成29年4月26日判決,東京地方裁判所平成28年2月18日判決,東京地方裁判所平成27年2月4日ほか) インターネットにより契約の申込みをさせていたファンド商法において,説明義務違反の違法性が認められた事例
10.ファンドシステム・インコーポレイテッド
(FX自動運用,従業員の過失による幇助責任)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決) 「過失による幇助」による損害賠償を命じたもの
11.原野商法に関与した宅地建物取引士の責任
(東京地判平成30年10月25日,東京高判令和元年7月2日) 原野商法に関与した宅地建物取引士の責任を認めた高裁逆転判決
12.DYK consulting株式会社
(東京地方裁判所平成29年12月25日判決) セミナーを開催して詐欺的ファンドを広める商法について関係者の損害賠償責任を肯定した事例
13.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング,New Asia Asset Management,Mongol Asset Management(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成24年4月24日判決) 海外ファンドについて商品自体の「不適正」さを指摘したもの
14.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決) 表に出てこなかった上位関与者及び収納代行業者の責任を認めたもの
15.レクセム証券(旧商号:121証券)
(東京高等裁判所平成27年1月14日判決) 121ファンド商法について一定の関係を有していた証券会社の責任を認めたもの 16.Quess Paraya,エターナルファンド
(東京地方裁判所平成27年3月26日判決) 「セレブな雰囲気」を用いて勧誘するファンド商法について,投資を行う者に適正な損益を帰属させることを目標として組成され管理されていたものということはできず,金融商品として不適正なものであったとして首謀者以下関係者に損害賠償を命じたもの 17.バーチャルオフィス契約・電話利用契約に関する本人確認書類提供者の責任
(東京高等裁判所平成28年1月27日) 詐欺商法において用いられたバーチャルオフィス・電話利用権の契約に関する本人確認書類提供者の責任を認めた事例 18.勝部ファンド
(東京地判平成29年10月25日,東京地判平成29年11月30日) 連鎖(マルチ)取引類似の方法で勧誘された投資まがい商法の,直接の勧誘者ではない上位者の不法行為責任を正面から肯定したもの 19.携帯電話貸与者(一般個人)
(東京地方裁判所平成26年12月25日判決) 携帯電話レンタル業者ではない一般人が貸与した携帯電話が詐欺商法に用いられた事案において貸与者に過失による幇助の責任を認めた事例 20.L・B投資事業有限責任組合関係
(東京地方裁判所平成26年2月26日判決) 投資事業有限責任組合の形態を採用して未公開株商法を行っていた業者らの責任 21.ユニオン・キャピタル,ファンネル投資顧問
(東京地方裁判所平成28年7月8日) 「本件ファンドは,そもそも,顧客の資金を運用し,顧客に適正に損益を帰属させることを目的として組成されたものとはいえない」として損害賠償請求を認容した事例 22.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決) 中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 23.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年7月9日判決) ファンドまがい商法被害事案において参考になる 24.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年9月14日判決) ファンドまがい商法被害事案において参考になる 25.合同会社フィールテックインベストメント4号,一般社団法人米国IT企業投資協議会(投資事業組合商法)(東京地方裁判所平成25年2月1日判決) 投資の実態を明らかにしないことがどのような意味を持つかを正しく指摘している 26.よいルームネットワーク(探偵業者)
(東京地方裁判所平成24年11月30日判決,東京高等裁判所平成25年4月17日判決) 探偵業者による被害事案 27.恵新
(東京地方裁判所平成26年1月28日判決) 過失による幇助という法律構成を用いている 28.スペース・ワン関係
(東京高等裁判所平成26年7月11日判決,東京地方裁判所平成25年3月22日判決) ファンド商法勧誘者,加功者の責任(「勧誘」の評価) 29.あいであ・らいふ
(東京地方裁判所平成22年9月27日判決) リスク説明がされていたか否かについて,書面の表示・記載の内容を具体的・実質的に検討して判断したもの 30.アイ・ベスト
(東京地方裁判所平成23年5月27日判決) 「不動産ファンド」まがい商品の勧誘者について会社の説明を鵜呑みにして勧誘したとしても責任を免れないとしたもの 31.サンラ・ワールド(海外ファンド)
(東京高等裁判所平成23年5月26日判決) 広く被害を生んだサンラ・ワールドの商法に関するもの。これ以外は全て全額を支払うとの訴訟上の和解が成立している 32.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成23年5月31日判決) 私募ファンド商法被害事案 33.KCFホールディングズ,中央電算(フェリーマルチ商法)
(東京地方裁判所平成24年8月28日判決) フェリーマルチ被害事案 34.住まいと保険と資産管理
(東京地方裁判所平成24年9月26日判決) FPグループの海外投資勧誘 35.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決) 121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 36.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決) 過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決 37.ハヤシファンドマネジメント,トップゲイン
(東京地方裁判所平成25年1月24日判決) ファンドまがい商法の判断枠組みを踏襲し,真実はそうでないのに,「ファンド・オブ・ファンズ」を喧伝する行為についての違法性評価を固めるもの