詐欺商法(これは動かしがたい)に用いられたバーチャルオフィス契約,IP電話レンタル契約に当たって用いられた本人確認書類を提供した者の責任について,1審判決を取り消して肯定した事例。
1審(東京地判平成27年4月22日)は,本件詐欺商法に用いられたバーチャルオフィス契約に際し,運転免許証,住民票,電気料金の領収証の各写しが提出されている者について,「上記各書類は,一般に本人確認資料として利用されているものであり,本人以外の第三者が取得することも十分に想定しうる。そして,被告井上は,その本人尋問において,平成20年に失職した後,就職活動のために自己の運転免許証の写し,住民票及び公共料金の領収証等を履歴書と一緒に提出したりしたと述べ,陳述書にもその旨記載しているところ,その供述内容には特段不自然な部分も認められない。これらを併せ考えると,本件バーチャルオフィス契約の締結に際して提出された被告井上の運転免許証の写し,住民票の写し,及び電気料金等領収証の写しは,被告井上が就職活動に際して提出したものが流用された可能性も否定できない。そうすると,被告井上が,上記各書類を自発的に訴外会社に提供するなどして訴外会に加担したと推認することまではでき」ない。過失による不法行為も,上記各書類が一般に本人確認資料として利用されていうるものであることからして,詐欺行為に悪用されることに予見可能性があったともいえない。
とし,
本件詐欺商法に用いられた4つのIP電話の利用契約(レンタル契約)に際し,運転免許証が提出されている者について,
「被告野口名義で締結されたIP電話利用契約…契約書の署名の筆跡と被告野口の筆跡とは必ずしも類似していないこと,同契約当時の被告野口の住所は…であり,上記契約書の住所とは異なること,被告野口本人が,同契約書を作成していないし,同契約書の作成を承認していないと供述していること,及びその旨の陳述書を提出していることを併せ考慮すると,同契約書に被告野口の運転免許証の写しが添付されていることのみから,同契約書が真正に成立したと認めることはできず,他に,被告野口が,上記IP電話利用契約を締結し,訴外会社の上記不法行為に利用させたと認めるに足りる証拠はない。」,仮に流用されたとしても,過失があるとはいえない。
とし,
いずれも請求を棄却していた。
これに対して,控訴審判決は,以下のとおり判示して原判決を取り消し,請求を認容した(過失相殺3割)。
判示の概要は以下のとおり。
上記井上について,
「被控訴人井上は,平成20年に勤務先会社の倒産により失業し,アルバイトをする傍ら就職活動をしていたところ,平成24年頃に株式会社○で契約社員として半年くらい稼働した後は,UFOキャッチャー設置事業を立ち上げたが1年くらいでやめたこと,被控訴人井上の運転免許証(平成23年9月1日交付),住民票(平成24年9月27日杉並区長発行)及び電気料金等領収証(東京電力株式会社荻窪支店発行の平成24年8月分電気料金,同年10月15日支払のもの。)の各写しが,遅くとも同年12月11日までに,相被告会社の管理下に入り,同日,訴外サーブコープに対し,本件バーチャルオフィス契約に係る相被告会社の総務責任者の本人確認資料として提出されたこと,上記契約によって相被告会社に提供されバーチャルオフィスが,控訴人らに対する投資勧誘等に利用されていたこと等の事実が認められる。
以上によると,被控訴人井上は,電気料金を支払った平成24年10月15日から同年12月11日までの間に,自分の運転免許証,住民票及び電気料金等領収証の写しを提供したものと認められるところ,これらの書類は,いずれも本人確認資料として一般に用いられるものであるから,被控訴人井上は,上記各書類がそのような性格のものであることを十分に分かった上で,これらをセットで提供したものであり,それらが短期間のうちに相被告会社の管理下に入っていることからすると,被控訴人井上は,これらの書類を相被告会社に提供したものと推認することができる。なお,被控訴人井上は,これらを就職活動の一環として提出したと主張するものの,平成24年10月15日から同年12月11日までの間に,いかなる事主に対して,これらを提出したかについて,具体的に明らかにすることができないし,被控訴人井上の陳述書によれば,その期間は,契約社員として稼働していた時期ないしはその後にUFOキャッチャー設置事業を立ち上げた時期である。そして,この点に関する被控訴人井上の原審における供述は,具体性を欠く上,極めて不自然かつ不合理である。
そうすると,被控訴人井上は,上記のような自分の本人確認資料となり得る書類をセットで提供することによって,相被告会社の不法行為に加担したものと認めることができる。」
上記野口について,
「被控訴人野口名義で,被控訴人光システムとの間で,平成24年10月1日付でIP電話の利用契約が締結され,これにより,「〇〇?〇〇〇〇?〇〇〇〇」,「〇〇?〇〇〇〇?〇〇〇〇」,「〇〇?〇〇〇〇?〇〇〇〇」及び「〇〇?〇〇〇〇?〇〇〇〇」の4本の電話回線が被控訴人光システムから貸与されたこと,これら4本の電話回線は,相被告会社の利用するバーチャルオフィスにおいて,相被告会社の「第5営業部」ないし「第8営業部」の電話回線として使用されたこと,同電話回線契約の「契約書兼用申込書」には,借主として被控訴人野口名義の署名と押印に代わるサインがあり,その住所として,「東京都新宿区北新宿3…」と記載されていること,同「契約書兼用申込書」には被控訴人野口の運転免許証の表の写しも添付されているところ,その住所欄の記載は上記住所と同一であったこと,被控訴人野口は,同年8月21日付けで訴外ジャパンテクノロジーシステムズの代表取締役に就任した旨の登記がされているところ,この登記手続には,被控訴人野口の実印及び印鑑証明書等が用いられたと考えられること,訴外ジャパンテクノロジーシステムズは,相被告会社とほぼ同様の手法で詐欺行為を行っていたことが認められる。
以上によると,被控訴人野口は,住所を同被控訴人肩書住所地に変更した平成24年7月30日から訴外ジャパンテクノロジーシステムズの代表取締役就任登記がされた同年8月21日までの間に,自分の実印及び印鑑証明書等を,次いで,上記IP電話利用契約締結日である同年10月1日までの間に,自分の運転免許証の写しをそれぞれ使用ないし提供したものと認められるところ,これらは,いずれも一般に本人確認資料として用いられるものである。被控訴人野口は,上記各書類等がそのような性格のものであることを十分に分かった上で,これらの使用ないし提供したものであり,それが短期間のうちに相被告会社の管理下に入って利用されていることからすると,被控訴人野口は,これらを相被告会社のために使用し,又は被告会社に提供したものと推認することができる。被控訴人野口は,これらを自らの負っている多額の債務処理のために,「カワムラ」,「イトウ」等と名乗るいわゆる闇金業者に提供したことがあると供述しているが,具体性を欠くものであり,前記推定を覆すものではない。
したがって,被控訴人野口は,これらを使用し,又は提供することによって相被告会社の不法行為に加担したものということができる。」
IP電話レンタル業者については,残念ながら請求棄却の結論が維持された。「当時はIP電話を利用した犯罪行為が携帯電話ほど社会問題化してはいない状況であったこと」が指摘されているところであって,今後はこれと異なった判断がなされる余地を残している。
近時,組織的詐欺商法においてはバーチャルオフィスやレンタル電話が利用され,加害組織の実態は表には出てこず,これに対する責任追及が極めて困難な状況にあるが,これに犯罪利用ツールを取得するに当たって必要な本人確認資料を安易に提供する者が後を絶たないという現状がこのような事態を深刻化させている。本人確認資料を提供した者の責任を追及する訴訟が,全国で少なくない件数提起されている所以である。
そうした中,本判決は,高裁が1審を取り消して責任を肯定するものであり,事実認定の(方向性とでもいうべき)あり方,事実の評価のあり方が1,2審で異なっており,実務上参考になるものと考える。
判決PDF(控訴審判決,原判決一部取消,認容,上告棄却等により確定)
⇒金融・商事判例1485号金判SUPPLEMENTVol.87
⇒先物取引裁判例集74巻225頁
⇒消費者法ニュース107号316頁
⇒判例時報2297号44頁
判決PDF(原判決:東京地方裁判所平成27年4月22日,請求棄却,被害者ら控訴)
⇒先物取引裁判例集74巻199頁
⇒判例時報2297号51頁
(海外ファンド,金融商品まがい取引としての違法性)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決) 「金融商品まがい取引」として違法性を導いたリーディングケース
2.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成20年9月12日決定) 私募ファンド業者に対する意表を突いた被害回復手続
3.D9
(東京高等裁判所令和5年5月17日判決、東京地方裁判所令和3年11月26日判決) 詐欺的商法をマルチの手法で伝播拡散した者(勧誘者、動画投稿者、上位者等)らの不法行為責任を認めた事例
4.ラッキーバンク
(東京地方裁判所令和4年11月14日判決) ソーシャルレンディングの被害事案において、ファンドの組成・販売を行った第2種金融商品取引業者とその役員の責任を認めた事例
5.CFS
(東京地方裁判所令和2年2月26日判決、東京高等裁判所令和3年7月19日判決) 違法な商法において主謀者以外の商法の伝播に関与した者の責任を肯定した裁判例
6.ゲインスカイ
(東京地方裁判所令和6年10月24日判決) マルチまがい商法の伝播者、上位者の責任を認めた事例
7.夢高塾
(民泊投資セミナー商法関係)(東京地方裁判所令和2年6月15日判決) 民泊投資セミナー商法の違法性と損害の範囲
8.JPB,日本プライベートバンキングコンサルタンツ
(海外ファンド,金融商品取引業者の取締役の監視監督責任のあり方)(東京高裁平成22年12月8日判決,東京地方裁判所平成22年5月28日判決) この種業者の(名目的)取締役の責任について説得的に判示している
9.ストラテジック・パートナーズ・インベストメントほか
(東京高等裁判所平成29年4月26日判決,東京地方裁判所平成28年2月18日判決,東京地方裁判所平成27年2月4日ほか) インターネットにより契約の申込みをさせていたファンド商法において,説明義務違反の違法性が認められた事例
10.ファンドシステム・インコーポレイテッド
(FX自動運用,従業員の過失による幇助責任)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決) 「過失による幇助」による損害賠償を命じたもの
11.原野商法に関与した宅地建物取引士の責任
(東京地判平成30年10月25日,東京高判令和元年7月2日) 原野商法に関与した宅地建物取引士の責任を認めた高裁逆転判決
12.DYK consulting株式会社
(東京地方裁判所平成29年12月25日判決) セミナーを開催して詐欺的ファンドを広める商法について関係者の損害賠償責任を肯定した事例
13.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング,New Asia Asset Management,Mongol Asset Management(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成24年4月24日判決) 海外ファンドについて商品自体の「不適正」さを指摘したもの
14.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決) 表に出てこなかった上位関与者及び収納代行業者の責任を認めたもの
15.レクセム証券(旧商号:121証券)
(東京高等裁判所平成27年1月14日判決) 121ファンド商法について一定の関係を有していた証券会社の責任を認めたもの 16.Quess Paraya,エターナルファンド
(東京地方裁判所平成27年3月26日判決) 「セレブな雰囲気」を用いて勧誘するファンド商法について,投資を行う者に適正な損益を帰属させることを目標として組成され管理されていたものということはできず,金融商品として不適正なものであったとして首謀者以下関係者に損害賠償を命じたもの 17.バーチャルオフィス契約・電話利用契約に関する本人確認書類提供者の責任
(東京高等裁判所平成28年1月27日) 詐欺商法において用いられたバーチャルオフィス・電話利用権の契約に関する本人確認書類提供者の責任を認めた事例 18.勝部ファンド
(東京地判平成29年10月25日,東京地判平成29年11月30日) 連鎖(マルチ)取引類似の方法で勧誘された投資まがい商法の,直接の勧誘者ではない上位者の不法行為責任を正面から肯定したもの 19.携帯電話貸与者(一般個人)
(東京地方裁判所平成26年12月25日判決) 携帯電話レンタル業者ではない一般人が貸与した携帯電話が詐欺商法に用いられた事案において貸与者に過失による幇助の責任を認めた事例 20.L・B投資事業有限責任組合関係
(東京地方裁判所平成26年2月26日判決) 投資事業有限責任組合の形態を採用して未公開株商法を行っていた業者らの責任 21.ユニオン・キャピタル,ファンネル投資顧問
(東京地方裁判所平成28年7月8日) 「本件ファンドは,そもそも,顧客の資金を運用し,顧客に適正に損益を帰属させることを目的として組成されたものとはいえない」として損害賠償請求を認容した事例 22.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決) 中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 23.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年7月9日判決) ファンドまがい商法被害事案において参考になる 24.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年9月14日判決) ファンドまがい商法被害事案において参考になる 25.合同会社フィールテックインベストメント4号,一般社団法人米国IT企業投資協議会(投資事業組合商法)(東京地方裁判所平成25年2月1日判決) 投資の実態を明らかにしないことがどのような意味を持つかを正しく指摘している 26.よいルームネットワーク(探偵業者)
(東京地方裁判所平成24年11月30日判決,東京高等裁判所平成25年4月17日判決) 探偵業者による被害事案 27.恵新
(東京地方裁判所平成26年1月28日判決) 過失による幇助という法律構成を用いている 28.スペース・ワン関係
(東京高等裁判所平成26年7月11日判決,東京地方裁判所平成25年3月22日判決) ファンド商法勧誘者,加功者の責任(「勧誘」の評価) 29.あいであ・らいふ
(東京地方裁判所平成22年9月27日判決) リスク説明がされていたか否かについて,書面の表示・記載の内容を具体的・実質的に検討して判断したもの 30.アイ・ベスト
(東京地方裁判所平成23年5月27日判決) 「不動産ファンド」まがい商品の勧誘者について会社の説明を鵜呑みにして勧誘したとしても責任を免れないとしたもの 31.サンラ・ワールド(海外ファンド)
(東京高等裁判所平成23年5月26日判決) 広く被害を生んだサンラ・ワールドの商法に関するもの。これ以外は全て全額を支払うとの訴訟上の和解が成立している 32.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成23年5月31日判決) 私募ファンド商法被害事案 33.KCFホールディングズ,中央電算(フェリーマルチ商法)
(東京地方裁判所平成24年8月28日判決) フェリーマルチ被害事案 34.住まいと保険と資産管理
(東京地方裁判所平成24年9月26日判決) FPグループの海外投資勧誘 35.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決) 121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 36.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決) 過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決 37.ハヤシファンドマネジメント,トップゲイン
(東京地方裁判所平成25年1月24日判決) ファンドまがい商法の判断枠組みを踏襲し,真実はそうでないのに,「ファンド・オブ・ファンズ」を喧伝する行為についての違法性評価を固めるもの