本件は,毎月3%から8%という高配当を謳うFX取引の投資ファンド(「勝部ファンド」と称されていた)が問題となった事案で,勧誘方法としては連鎖(マルチ)取引類似の方法が用いられていた。本件の原告は,被告から直接の勧誘は受けておらず,被告の下位者から勧誘を受けて投資をして損害を被った者である。被告らからは,自身は原告と面識がなく直接の勧誘を行っていないし,下位者に勧誘を行わせたこともないから責任を負わないとの主張がなされた。そこで,連鎖(マルチ)取引類似の方法で勧誘が行われた投資被害の事案で,直接の勧誘者ではない上位者が不法行為責任を負うかが問題となった。
判決①は,「勝部ファンドは,顧客に対して,出資金の運用利回りの平均パフォーマンスは,月3%ないし8%,実質6%ないし16%であり,最高で22.8%であることなどの宣伝が行われ,これに基づく投資の勧誘が行われていたが,このような異常な高利率による配当を行うだけの運用益を継続的に出し続けることは常識的に考えて不可能である。さらに,勝部に対する成功報酬や本件仕組みの下での紹介料も支払う必要があり,早晩破綻することが避けられないものであった。」,「勝部ファンドにおける顧客の出資金の管理方法や出資金の運用の仕組み,具体的な運用実績,紹介料の支払い原資など一切明らかにされない」として,「出資金の運用実体は,その一部について運用の実体はあったとしても,全体としてみれば,常識を超えるような高利回りの配当等という虚偽の事実を宣伝し,これを信じた顧客から出資金名下に資金を集め,その一部を配当として還元することで高利回りの虚構性を隠蔽し,連鎖取引類似の勧誘方法(本件仕組み)を介して,顧客を拡大して資金の増大を図るという詐欺的なものであって,顧客に約束した配当を払えるだけの運用実体はなかったと認めるのが相当である」として,商品の違法性を的確に指摘した。
その上で,被告(直接の勧誘者ではない上位者)の責任について,上記のような「常識外ともいえる高配当の支払いが謳われていることを認識していたこと」や本件における紹介料の受領の態様等を指摘して,「勝部(運用担当者)から運用実体について説明を受けていなかったとしても,被告自身としても,勝部ファンドが顧客に約束していた配当金を支払えるだけの出資金の運用の実体を有しない虚構のものであることを認識していたと優に認めることができる」とし,「本件仕組みに基づき自身の下位者を通じて投資勧誘活動を行うことで,原告を含む顧客を詐欺的な商法である勝部ファンドに出資させたものであると認められる」,「被告について,原告を虚偽取引に勧誘したことについて故意による不法行為が成立する」と判示している。
判決②も,勝部ファンドのについて,「元本を保証した上で,勝部ファンド概要記載のとおり,平均パフォーマンス月利3ないし8パーセントで,実質は6ないし16%パーセントであるなどとして出資を勧誘して」いるが,「上記のような投資リターンを恒常的に上げ続けることは経済合理性に反するものであるというべきであり」,「勝部ファンドは,早晩破綻することが必至なものであり,金融商品としての適格性を有しないものであると認めることができる」,また,「詐欺的なもの」であるとも指摘し,「これに投資するように勧誘することは,不法行為に該当するべきである」として,喧伝されていた商品の内容からその不適切さを的確に指摘して違法性を認めている。
その上で,被告(直接の勧誘者ではない上位者)の責任については,「勝部ファンドが金融商品としての適格性を有しない早晩破綻することが必至なものであることを知りながら」,「下位者を利用して出資者を募っていたのであるから,被告は,下位者である○○の勧誘により勝部ファンドに出資した原告との関係でも不法行為責任を免れない」と判示している。また,原告らに交付されていた配当については,「破綻必至なものであることを糊塗するために配当がなされていた」として損益相殺を行わなかった。
判決①②は,高配当を謳うファンド商法について,喧伝された高配当は常識的に実現不可能であること,被告らから客観的な履歴が明らかにされないことなどを指摘して,詐欺的な商品である(当初行われた配当は高利回りの虚構性を隠蔽するためのものである,破綻必至なものであることを糊塗するためのものである)と正解してこれを明示的に判示するところに加えて,特に,直接勧誘を行っていない上位者に責任ついて,(被害者との関係で直接勧誘を行っていなくとも)下位者を通じて投資勧誘活動を行うことで,原告を含む顧客を詐欺的な商法である勝部ファンドに出資させたといえるとして,(特に判決①は,)全面的に(過失ではなく)故意の不法行為責任を認めている点が注目される。近時,被害が後を絶たない連鎖(マルチ)取引類似の方法が用いられて被害が拡大する類型の投資被害事案において,直接の勧誘者の上位者からしばしばなされる,「自身は原告と面識がなく直接の勧誘を行っていない」との主張に対する裁判所の明確な応答であり,同論点について大きな参照価値があるものと考える。
判決①:東京地判平成29年10月25日
判決PDF
⇒先物取引裁判例集78巻228頁
判決②:東京地判平成29年11月30日
判決PDF
⇒先物取引裁判例集78巻241頁
⇒消費者法ニュース115号294頁
(海外ファンド,金融商品まがい取引としての違法性)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決) 「金融商品まがい取引」として違法性を導いたリーディングケース
2.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成20年9月12日決定) 私募ファンド業者に対する意表を突いた被害回復手続
3.D9
(東京高等裁判所令和5年5月17日判決、東京地方裁判所令和3年11月26日判決) 詐欺的商法をマルチの手法で伝播拡散した者(勧誘者、動画投稿者、上位者等)らの不法行為責任を認めた事例
4.ラッキーバンク
(東京地方裁判所令和4年11月14日判決) ソーシャルレンディングの被害事案において、ファンドの組成・販売を行った第2種金融商品取引業者とその役員の責任を認めた事例
5.CFS
(東京地方裁判所令和2年2月26日判決、東京高等裁判所令和3年7月19日判決) 違法な商法において主謀者以外の商法の伝播に関与した者の責任を肯定した裁判例
6.ゲインスカイ
(東京地方裁判所令和6年10月24日判決) マルチまがい商法の伝播者、上位者の責任を認めた事例
7.夢高塾
(民泊投資セミナー商法関係)(東京地方裁判所令和2年6月15日判決) 民泊投資セミナー商法の違法性と損害の範囲
8.JPB,日本プライベートバンキングコンサルタンツ
(海外ファンド,金融商品取引業者の取締役の監視監督責任のあり方)(東京高裁平成22年12月8日判決,東京地方裁判所平成22年5月28日判決) この種業者の(名目的)取締役の責任について説得的に判示している
9.ストラテジック・パートナーズ・インベストメントほか
(東京高等裁判所平成29年4月26日判決,東京地方裁判所平成28年2月18日判決,東京地方裁判所平成27年2月4日ほか) インターネットにより契約の申込みをさせていたファンド商法において,説明義務違反の違法性が認められた事例
10.ファンドシステム・インコーポレイテッド
(FX自動運用,従業員の過失による幇助責任)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決) 「過失による幇助」による損害賠償を命じたもの
11.原野商法に関与した宅地建物取引士の責任
(東京地判平成30年10月25日,東京高判令和元年7月2日) 原野商法に関与した宅地建物取引士の責任を認めた高裁逆転判決
12.DYK consulting株式会社
(東京地方裁判所平成29年12月25日判決) セミナーを開催して詐欺的ファンドを広める商法について関係者の損害賠償責任を肯定した事例
13.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング,New Asia Asset Management,Mongol Asset Management(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成24年4月24日判決) 海外ファンドについて商品自体の「不適正」さを指摘したもの
14.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決) 表に出てこなかった上位関与者及び収納代行業者の責任を認めたもの
15.レクセム証券(旧商号:121証券)
(東京高等裁判所平成27年1月14日判決) 121ファンド商法について一定の関係を有していた証券会社の責任を認めたもの 16.Quess Paraya,エターナルファンド
(東京地方裁判所平成27年3月26日判決) 「セレブな雰囲気」を用いて勧誘するファンド商法について,投資を行う者に適正な損益を帰属させることを目標として組成され管理されていたものということはできず,金融商品として不適正なものであったとして首謀者以下関係者に損害賠償を命じたもの 17.バーチャルオフィス契約・電話利用契約に関する本人確認書類提供者の責任
(東京高等裁判所平成28年1月27日) 詐欺商法において用いられたバーチャルオフィス・電話利用権の契約に関する本人確認書類提供者の責任を認めた事例 18.勝部ファンド
(東京地判平成29年10月25日,東京地判平成29年11月30日) 連鎖(マルチ)取引類似の方法で勧誘された投資まがい商法の,直接の勧誘者ではない上位者の不法行為責任を正面から肯定したもの 19.携帯電話貸与者(一般個人)
(東京地方裁判所平成26年12月25日判決) 携帯電話レンタル業者ではない一般人が貸与した携帯電話が詐欺商法に用いられた事案において貸与者に過失による幇助の責任を認めた事例 20.L・B投資事業有限責任組合関係
(東京地方裁判所平成26年2月26日判決) 投資事業有限責任組合の形態を採用して未公開株商法を行っていた業者らの責任 21.ユニオン・キャピタル,ファンネル投資顧問
(東京地方裁判所平成28年7月8日) 「本件ファンドは,そもそも,顧客の資金を運用し,顧客に適正に損益を帰属させることを目的として組成されたものとはいえない」として損害賠償請求を認容した事例 22.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決) 中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 23.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年7月9日判決) ファンドまがい商法被害事案において参考になる 24.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年9月14日判決) ファンドまがい商法被害事案において参考になる 25.合同会社フィールテックインベストメント4号,一般社団法人米国IT企業投資協議会(投資事業組合商法)(東京地方裁判所平成25年2月1日判決) 投資の実態を明らかにしないことがどのような意味を持つかを正しく指摘している 26.よいルームネットワーク(探偵業者)
(東京地方裁判所平成24年11月30日判決,東京高等裁判所平成25年4月17日判決) 探偵業者による被害事案 27.恵新
(東京地方裁判所平成26年1月28日判決) 過失による幇助という法律構成を用いている 28.スペース・ワン関係
(東京高等裁判所平成26年7月11日判決,東京地方裁判所平成25年3月22日判決) ファンド商法勧誘者,加功者の責任(「勧誘」の評価) 29.あいであ・らいふ
(東京地方裁判所平成22年9月27日判決) リスク説明がされていたか否かについて,書面の表示・記載の内容を具体的・実質的に検討して判断したもの 30.アイ・ベスト
(東京地方裁判所平成23年5月27日判決) 「不動産ファンド」まがい商品の勧誘者について会社の説明を鵜呑みにして勧誘したとしても責任を免れないとしたもの 31.サンラ・ワールド(海外ファンド)
(東京高等裁判所平成23年5月26日判決) 広く被害を生んだサンラ・ワールドの商法に関するもの。これ以外は全て全額を支払うとの訴訟上の和解が成立している 32.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成23年5月31日判決) 私募ファンド商法被害事案 33.KCFホールディングズ,中央電算(フェリーマルチ商法)
(東京地方裁判所平成24年8月28日判決) フェリーマルチ被害事案 34.住まいと保険と資産管理
(東京地方裁判所平成24年9月26日判決) FPグループの海外投資勧誘 35.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決) 121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 36.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決) 過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決 37.ハヤシファンドマネジメント,トップゲイン
(東京地方裁判所平成25年1月24日判決) ファンドまがい商法の判断枠組みを踏襲し,真実はそうでないのに,「ファンド・オブ・ファンズ」を喧伝する行為についての違法性評価を固めるもの