5.夢高塾

(東京地方裁判所令和2年6月15日判決)

 本件は,「夢高塾」(ゆたかじゅく)という名称で,いわゆる民泊事業を行うために必要な業務の代行サービスの提供等を目的とする会員制サービスを企画した者らに対し,「夢高塾」の勧誘に際して詐欺行為・社会的相当性を逸脱した勧誘があったとして,原告ら約20名が,塾契約代金,賃貸借契約等の初期費用の損害賠償を求め,同サービスを企画したA社(代表取締役甲),セミナーの告知等の広告業務を行ったB社(代表取締役乙),甲,乙,及びセミナーにおいて司会を務めるなどした丙を被告として提訴した事案である。
 被告らは,東京,大阪,名古屋等の各地でセミナー参加者を募り,同セミナー内で,展開中の107件の物件に赤字のものはなく,毎年3000万円以上の売上を安定して記録しているなどと説明したほか,「片手間らくらく作業,1日5分のメールチェックだけでOK」,「まずは論より証拠です。Airbnbとはどれだけ稼げるものなのか,実際に私が現在進行形で稼いでいる証拠をお見せしましょう。」,「専門的な知識は一切不要!全て丸投げでOK」,「1年間の利回り220%越え!!!!」などと宣伝して入塾を勧誘し,会員となった者らに,被告らが紹介する物件等の賃貸借契約を締結させていた。
 本判決は,「被告甲が民泊事業への投資により巨額の利益を獲得したことの裏付けはない。また,被告甲や被告丙が紹介した3つの事例は,いずれも同被告らが実際に運用したものではなく,そこで提示された利回りや利益の額等も,稼働率を一律80%と設定するなど,根拠の乏しい前提条件による仮定上の推計にすぎなかった。」,「すなわち,本件勧誘行為は,その前後の経緯を通じ,全体的に,本件セミナーに参加した原告らの投資意欲をいたずらに煽るばかりの欺瞞的なものであった。しかも,同行為は,断定的に過大な利益を得られることを強調した上での一方的な投資への誘引に終始し,他方,物件の稼働率が見込みを下回ることなどのリスクに対する注意喚起等が欠如していた。」として,勧誘行為の違法性を認め,塾費用について損害全額の賠償を命じた。
 また,会員になった原告らは,塾契約代金だけでなく,民泊事業のために必須である物件の賃貸借契約に必要な初期費用も支払った被害者が多くおり,この点についても損害に含まれるかが争点となっていたが,本判決は,「本件勧誘行為…の内実は会員になることにとどまらず,本件サイトを利用した民泊事業への投資勧誘であった」とし,「本件勧誘行為を受けた原告らが本件塾の会員になり,物件を選定して初期費用等を支払うまでの経緯は,相互に密接な関連性のある一連のものであったということができる。」「そうすると,被告らは,本件勧誘行為に当たり,本件の塾の会員が通常であれば塾契約代金の支払に続けて初期費用等の支払の段階まで進むこと,そして,対象物件が見込みのとおり稼働しなければ初期費用等当の支払をした会員は相応の損害を被ることを予見し得たというべきである」として,被告らの勧誘行為と原告らの初期費用等との支払との間に相当因果関係があるとし,被告らの,おしなべて80%の稼働率が安定して継続するとの説明を信じた点について原告らにも相応の不注意があり,被告A社が(原告らの得た売り上げがごくわずかであったため)業務委託報酬をほとんど取得しておらず,塾契約代金以外に多額の不正な利益を得たわけではないとして,4割の過失相殺を行った。
 「夢高塾」に入会した者に対してのみ民泊の運営経験豊富な被告Aが選び抜いた優良な物件を紹介するなどとして入会を募っていたことから,過失相殺の是非については疑問なしとはしないものの,塾代金のみならず賃貸借契約代金等を含む初期費用を損害として認めたところに参照価値があると思われる。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)

1.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング
(海外ファンド,金融商品まがい取引としての違法性)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決)
「金融商品まがい取引」として違法性を導いたリーディングケース
2.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成20年9月12日決定)
私募ファンド業者に対する意表を突いた被害回復手続
3.D9
(東京高等裁判所令和5年5月17日判決、東京地方裁判所令和3年11月26日判決)
詐欺的商法をマルチの手法で伝播拡散した者(勧誘者、動画投稿者、上位者等)らの不法行為責任を認めた事例
4.CFS
(東京地方裁判所令和2年2月26日判決、東京高等裁判所令和3年7月19日判決)
違法な商法において主謀者以外の商法の伝播に関与した者の責任を肯定した裁判例
5.夢高塾
(民泊投資セミナー商法関係)(東京地方裁判所令和2年6月15日判決)
民泊投資セミナー商法の違法性と損害の範囲
6.JPB,日本プライベートバンキングコンサルタンツ
(海外ファンド,金融商品取引業者の取締役の監視監督責任のあり方)(東京高裁平成22年12月8日判決,東京地方裁判所平成22年5月28日判決)
この種業者の(名目的)取締役の責任について説得的に判示している
7.ストラテジック・パートナーズ・インベストメントほか
(東京高等裁判所平成29年4月26日判決,東京地方裁判所平成28年2月18日判決,東京地方裁判所平成27年2月4日ほか)
インターネットにより契約の申込みをさせていたファンド商法において,説明義務違反の違法性が認められた事例
8.ファンドシステム・インコーポレイテッド
(FX自動運用,従業員の過失による幇助責任)(東京高等裁判所平成23年12月7日判決)
「過失による幇助」による損害賠償を命じたもの
9.原野商法に関与した宅地建物取引士の責任
(東京地判平成30年10月25日,東京高判令和元年7月2日)
原野商法に関与した宅地建物取引士の責任を認めた高裁逆転判決
10.DYK consulting株式会社
(東京地方裁判所平成29年12月25日判決)
セミナーを開催して詐欺的ファンドを広める商法について関係者の損害賠償責任を肯定した事例
11.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング,New Asia Asset Management,Mongol Asset Management(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成24年4月24日判決)
海外ファンドについて商品自体の「不適正」さを指摘したもの
12.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決)
表に出てこなかった上位関与者及び収納代行業者の責任を認めたもの
13.レクセム証券(旧商号:121証券)
(東京高等裁判所平成27年1月14日判決)
121ファンド商法について一定の関係を有していた証券会社の責任を認めたもの 14.Quess Paraya,エターナルファンド
(東京地方裁判所平成27年3月26日判決)
「セレブな雰囲気」を用いて勧誘するファンド商法について,投資を行う者に適正な損益を帰属させることを目標として組成され管理されていたものということはできず,金融商品として不適正なものであったとして首謀者以下関係者に損害賠償を命じたもの 15.バーチャルオフィス契約・電話利用契約に関する本人確認書類提供者の責任
(東京高等裁判所平成28年1月27日)
詐欺商法において用いられたバーチャルオフィス・電話利用権の契約に関する本人確認書類提供者の責任を認めた事例 16.勝部ファンド
(東京地判平成29年10月25日,東京地判平成29年11月30日)
連鎖(マルチ)取引類似の方法で勧誘された投資まがい商法の,直接の勧誘者ではない上位者の不法行為責任を正面から肯定したもの 17.携帯電話貸与者(一般個人)
(東京地方裁判所平成26年12月25日判決)
携帯電話レンタル業者ではない一般人が貸与した携帯電話が詐欺商法に用いられた事案において貸与者に過失による幇助の責任を認めた事例 18.L・B投資事業有限責任組合関係
(東京地方裁判所平成26年2月26日判決)
投資事業有限責任組合の形態を採用して未公開株商法を行っていた業者らの責任 19.ユニオン・キャピタル,ファンネル投資顧問
(東京地方裁判所平成28年7月8日)
「本件ファンドは,そもそも,顧客の資金を運用し,顧客に適正に損益を帰属させることを目的として組成されたものとはいえない」として損害賠償請求を認容した事例 20.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決)
中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 21.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年7月9日判決)
ファンドまがい商法被害事案において参考になる 22.パブリックライジングジャパン(ファンド商法)
(東京地方裁判所平成24年9月14日判決)
ファンドまがい商法被害事案において参考になる 23.合同会社フィールテックインベストメント4号,一般社団法人米国IT企業投資協議会(投資事業組合商法)
(東京地方裁判所平成25年2月1日判決)
投資の実態を明らかにしないことがどのような意味を持つかを正しく指摘している 24.よいルームネットワーク(探偵業者)
(東京地方裁判所平成24年11月30日判決,東京高等裁判所平成25年4月17日判決)
探偵業者による被害事案 25.恵新
(東京地方裁判所平成26年1月28日判決)
過失による幇助という法律構成を用いている 26.スペース・ワン関係
(東京高等裁判所平成26年7月11日判決,東京地方裁判所平成25年3月22日判決)
ファンド商法勧誘者,加功者の責任(「勧誘」の評価) 27.あいであ・らいふ
(東京地方裁判所平成22年9月27日判決)
リスク説明がされていたか否かについて,書面の表示・記載の内容を具体的・実質的に検討して判断したもの 28.アイ・ベスト
(東京地方裁判所平成23年5月27日判決)
「不動産ファンド」まがい商品の勧誘者について会社の説明を鵜呑みにして勧誘したとしても責任を免れないとしたもの 29.サンラ・ワールド(海外ファンド)
(東京高等裁判所平成23年5月26日判決)
広く被害を生んだサンラ・ワールドの商法に関するもの。これ以外は全て全額を支払うとの訴訟上の和解が成立している 30.東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング(海外ファンド)
(東京地方裁判所平成23年5月31日判決)
私募ファンド商法被害事案 31.KCFホールディングズ,中央電算(フェリーマルチ商法)
(東京地方裁判所平成24年8月28日判決)
フェリーマルチ被害事案 32.住まいと保険と資産管理
(東京地方裁判所平成24年9月26日判決)
FPグループの海外投資勧誘 33.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決)
121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 34.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決)
過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決 35.ハヤシファンドマネジメント,トップゲイン
(東京地方裁判所平成25年1月24日判決)
ファンドまがい商法の判断枠組みを踏襲し,真実はそうでないのに,「ファンド・オブ・ファンズ」を喧伝する行為についての違法性評価を固めるもの