11.ICC,インターナショナル・カーレンシー・チェンジャーズ

(東京地方裁判所平成17年10月17日判決,
東京地方裁判所平成18年4月27日判決)

 外国為替証拠金取引被害について,説明義務違反を認定して損害賠償請求を認容した事例
 被害者は高齢の姉弟で,姉は大正14年生まれの女性,他のデリックス,エー・シー・イー(と思われる)との間で取引経験あり。地主であって資産は豊富。取引期間平成15年4月から同年10月。損害約2000万円。弟は昭和4年生まれ,先物会社フジチュー(その後MMGアローズ株式会社に商号変更し,破綻。)で6000万円を奪われた経験がある(これについても訴訟を提起し尋問後に実損害に700万円の弁護士費用相当損害金を付して支払う旨の訴訟上の和解が成立)。姉が契約書を作成し,業者とのやり取りもほとんどを行っていた。平成15年末に受任,仮差押,証拠保全をして,平成16年1月に訴え提起。

 判決は,弟を取引当事者と認めず,同人の請求を棄却。姉については,投機的投資的取引の経験などから1割の過失相殺をしつつ認容。これについては債権確定訴訟に請求の趣旨を変更して控訴をし,控訴審で,破産管財人との間で,姉,弟ともに実損害金額の全額を破産債権と認めるとの和解が成立した。
 上記事件の弁論終結後判決言渡し期日の前にICCが破綻したため,改めて役員の不動産を仮差押して,役員,従業員らに対して訴訟を提起。結局,判決は,色々な業者から何度も何度もだまされた高齢者について3割の過失相殺をして請求を認容した。

 本件は,気丈で明るい姉と,朴訥で優しい弟が,助け合って暮らしている「老人の家」に詐欺業者が群れを成して押し寄せて,受領証も交付することなく家の前の畑で泥にまみれたスーパーのビニール袋の中に入った1000万円の塊を手渡させるなどした事案であった。その状況を思い浮かべ,そのような所業ができた者の精神状況を思うとき,心から薄ら寒いものを感じ,そして,それは,強い怒りになった。彼らを救えなければ,弁護士としての価値はないとまで感じた。業者への証拠保全から預金仮差押,役員の不動産仮差押,訴訟2つ(会社と自然人)×2(1審と2審)と,心血を注いだ。1審の2判決はいずれも期待を裏切るものだったが,結果としては相当額の被害回復を得ることができた。弟さんは体が悪く,被害回復を見ることなく他界された。
 本件に関する2つの判決はいずれも過失相殺をしている。しかし,これは,絶対に誤っている。老いは過失か。病は過失か。人に等しく訪れる老いを,これに乗じて金銭を騙し取った者に対してする損害賠償請求権を減じさせる理由とすることに,いかなる正義,公平があるというのか。このような判決を書く裁判所があることが,私には本当に情けなく思えて仕方がない。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(被害者控訴,和解)
⇒先物取引裁判例集41巻607頁
⇒判例時報1951号82頁

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(業者控訴,和解)
⇒先物取引裁判例集44巻75頁

1.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション
(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)
ロスカット・ルールに関する重要な初判断 2.ワイジェイFX(旧サイバーエージェントFX)
(東京地方裁判所平成26年6月19日判決)
強制解約・キャッシュバック金の不払いに関する初判断 3.アルファエフエックス
(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)
区分管理を怠った業者の役員らの責任に関する判決 4.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン
(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)
アフィリエイトに関して,FX業者の責任も肯定したもの 5.コメックス
(東京地方裁判所平成22年5月25日判決)
認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 6.シー・エフ・ディー
(東京地方裁判所平成18年4月11日判決,東京高等裁判所平成18年9月21日判決)
私的差金決済契約の違法性を初めて正面から認めた東京高裁の判断 7.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成24年2月24日判決)
関連会社への資金流用などに関するもの 8.東京シティホールディング
(東京地方裁判所平成19年1月30日判決)
FX業者の区分管理責任に関するもの 9.ハーベスト・フューチャーズ
(東京地方裁判所平成17年7月12日判決)
公設の先物業者が行っていた外国為替証拠金取引について取引自体を違法であると判断したもの 10.日本エフエックス
(東京高等裁判所平成18年11月29日判決,東京地方裁判所平成18年6月8日判決)
外国為替証拠金取引業者の区分管理の義務,小会社の監査役にも責任を認めたもの 11.ICC,インターナショナル・カーレンシー・チェンジャーズ
(東京地方裁判所平成17年10月17日判決,東京地方裁判所平成18年4月27日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法被害事案 12.キャピタルベネフィット
(東京地方裁判所平成17年11月11日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法の仕組み自体の違法性を早い時期に指摘したもの 13.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成17年2月1日判決)
外国為替証拠金取引業者が清算金の返還すら拒んだ事例 14.サンワ・トラスト
(東京地方裁判所平成18年1月24日判決,東京地方裁判所平成18年8月30日判決)
後付けで取引をした外観を作出して金銭を騙取するという著しく悪質な事案。和解合意の効力について「権利の濫用」を理由に否定している珍しい例 15.日本エフエックス
(東京地方裁判所平成19年1月24日判決)
外国為替証拠金取引の取引自体の違法性を端的に指摘するもの 16.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決)
収納代行業者であると強弁した業者や,詐欺商法のナンバー2の地位にあった者の責任を正しく指摘するもの 17.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決)
中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 18.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決)
121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 19.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決)
過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決