5.コメックス

(東京地方裁判所平成22年5月25日判決)

 取引終了後に認知障害がある旨診断されたケースで,外務員の尋問の結果などから適合性原則違反の主張が認められた事例
 本判決はまず,「外国為替証拠金取引は,わずかの値動きによって多額の差損益を生じるきわめて投機性の高い取引であり,同取引のこのような特質にかんがみると,同取引の取引員ないしその従業員には,取引を勧誘する相手方に,取引に参加する適格性があるかどうかを判断し,適格性に欠ける場合には,その相手方に対する取引の勧誘を中止し,既に取引を開始している場合にはこれを直ちに終了させるべき義務があるというべきであり,このような義務に違反して取引を勧誘,継続することは,不法行為としての違法性を有するというべきである。」との規範を定立し,本件では,?被害者が取引期間中一貫して積極的に電話連絡をしたことがないこと,?被害者が取引に関して質問もせず,うんうんと黙って聞く程度の対応にとどまっていたこと,?被害者が取引開始から3年後にアルツハイマー型認知症と診断されたこと,?被害者は業者の内部規制の変更に伴う再審査に際して投資に積極的ではないと評価されたのにそれ以降も40件の売買がされていることから,「原告は,本件取引当時,加齢によりその記憶力,判断力が相当程度低下しており,野口に対し,取引状況の報告を求めたり,取引について疑問に思うことを質問するための理解力すら備えておらず,本件取引期間を通じ一貫して,外国為替証拠金取引をする適格性を有していなかったのであり,原告の年齢や取引に対する対応からすれば,野口を含む被告の従業員は,本件取引開始当時から原告に外国為替証拠金取引をする適格性がないことを認識,認容していたものと認められる。」と結論した。
 本件のように被害者が自身の被害を再現するなどできなくなってから被害が顕現化することも決して希ではない。このような場合には業者側から提出される証拠にはどうしても偏りが生じるだろうが,そのような制限があっても様々な事実から業者の行為の違法性を指摘することは不可能ではない。

判決PDF Adobe_PDF_Icon1.svg(確定)
⇒先物取引裁判例集60巻14頁

1.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション
(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)
ロスカット・ルールに関する重要な初判断 2.ワイジェイFX(旧サイバーエージェントFX)
(東京地方裁判所平成26年6月19日判決)
強制解約・キャッシュバック金の不払いに関する初判断 3.アルファエフエックス
(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)
区分管理を怠った業者の役員らの責任に関する判決 4.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン
(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)
アフィリエイトに関して,FX業者の責任も肯定したもの 5.コメックス
(東京地方裁判所平成22年5月25日判決)
認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 6.シー・エフ・ディー
(東京地方裁判所平成18年4月11日判決,東京高等裁判所平成18年9月21日判決)
私的差金決済契約の違法性を初めて正面から認めた東京高裁の判断 7.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成24年2月24日判決)
関連会社への資金流用などに関するもの 8.東京シティホールディング
(東京地方裁判所平成19年1月30日判決)
FX業者の区分管理責任に関するもの 9.ハーベスト・フューチャーズ
(東京地方裁判所平成17年7月12日判決)
公設の先物業者が行っていた外国為替証拠金取引について取引自体を違法であると判断したもの 10.日本エフエックス
(東京高等裁判所平成18年11月29日判決,東京地方裁判所平成18年6月8日判決)
外国為替証拠金取引業者の区分管理の義務,小会社の監査役にも責任を認めたもの 11.ICC,インターナショナル・カーレンシー・チェンジャーズ
(東京地方裁判所平成17年10月17日判決,東京地方裁判所平成18年4月27日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法被害事案 12.キャピタルベネフィット
(東京地方裁判所平成17年11月11日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法の仕組み自体の違法性を早い時期に指摘したもの 13.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成17年2月1日判決)
外国為替証拠金取引業者が清算金の返還すら拒んだ事例 14.サンワ・トラスト
(東京地方裁判所平成18年1月24日判決,東京地方裁判所平成18年8月30日判決)
後付けで取引をした外観を作出して金銭を騙取するという著しく悪質な事案。和解合意の効力について「権利の濫用」を理由に否定している珍しい例 15.日本エフエックス
(東京地方裁判所平成19年1月24日判決)
外国為替証拠金取引の取引自体の違法性を端的に指摘するもの 16.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決)
収納代行業者であると強弁した業者や,詐欺商法のナンバー2の地位にあった者の責任を正しく指摘するもの 17.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決)
中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 18.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決)
121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 19.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決)
過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決