9.第一商品

(東京高等裁判所平成31年3月28日判決,東京地方裁判所平成30年9月28日判決)

 本件は両建等の特定売買の勧誘の違法が大きな争点となった事案である。
 本件の取引期間は4年半,原告の属性としては,被告会社で本件取引の4年前からFX取引を行っており(同取引は最終的には利益となった),その他にも信用取引,現物株式等の投資経験がある者であった。
 一審判決は,両建等の特定売買の勧誘の違法について,「商品先物取引における利益や損失はいずれも顧客に帰するものであるところ,商品相場を確実に予測することは不可能であるから,顧客において利益を得ることができるかどうかは本来不確実である。これに対し,商品先物取引業者は,顧客の相場予測が当たらなくても,取引ごとに手数料収入を得ることができるから,商品相場がどう動こうとも少なくとも損をすることはない」とした。
 そして,法が両建の勧誘を禁止し(法214条8号),両建を理解していない顧客から受託することを禁止している(法214条9号,規則103号9号)趣旨に言及した上で,「被告らは,商品相場の値動きの予測に精通し,かつ,原告の財産状況や取引経験,本件先物取引の状況を全体として俯瞰できる立場にあるのであるから,…原告の責任と判断に委ねるのではなく,取引開始後の個別取引の場面においても両建のリスク等を原告に説明すべきであり,その結果原告が両建を選択した後も,必要に応じて損切りを指導したり早期の手仕舞いを助言したりする等の指導助言義務を負う」とし,本件では外務員が適切な指導や助言をしたとは認められないとした(過失相殺3割)。
 控訴審は,一審判決と同様,「商品先物取引業者は,顧客の相場予測が当たっても当たらなくても,取引ごとに手数料収入を得ることができ,法が,両建の勧誘を禁止し,両建取引を理解していない顧客から受託することを禁止したのは,商品先物取引の射幸性及びその危険性に加え,商品先物取引業者と顧客との間にそのような不均衡が存在することから,商品先物取引業者が顧客の利益をないがしろにして手数料収入を得ようとすることを防止するためであると解されること,そうすると,一審被告らは,商品相場の値動きに精通し,かつ,一審原告の財産状況や取引経験,本件先物取引の状況を全体として客観的に俯瞰できる立場にあるから,一審原告に対し,両建の仕組みとそのリスクを説明した上で一審原告の責任と判断に委ねるだけではなく,取引開始後の個別取引の場面においても両建のリスク等を一審原告に説明すべきであり,その結果一審原告が両建を選択した後も,必要に応じて損切りを指導したり早期の手仕舞いを助言したりする等の指導助言義務を信義則上負うものと解するのが相当である」と判示し,本件では外務員が適切な指導や助言をしたとは認められないとした(過失相殺3割の判断も維持)。
 上記両判決は,商品先物取引業者と顧客の間には不均衡が存在していることや外務員の立場を正確に指摘した上で,外務員には顧客に対して適切に指導し助言する義務が存在すると指摘しており意義がある。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(双方控訴)
⇒先物取引裁判例集80巻60頁
⇒判例タイムズ1483号111頁

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(控訴棄却・確定)
⇒消費者法ニュース120号332
⇒先物取引裁判例集81巻23頁
⇒判例タイムズ1483号113頁

 

1.AIゴールド証券・カネツ商事
(東京地方裁判所令和3年6月18日判決)
新規委託者保護義務違反を検討する際の投資可能資金額と確定損失等の関係についての判断を示した裁判例 2.カネツ商事
(東京地方裁判所平成21年10月6日判決,東京高等裁判所平成22年3月17日判決)
先物取引被害について過失相殺を否定して全部賠償を命じた控訴審判決 3.オービット・キャピタル・マネジメント(東京地方裁判所平成17年2月24日判決)訴訟係属中に被害者から訴え取下書を徴求して提出した業者の行為を正義に反するとして訴えの取下の効果を否定したもの
4.オリオン交易・カネツ商事(東京地方裁判所平成19年1月22日判決) 先物取引被害について客観的取引履歴から説得的に違法性を見いだすもの 5.KOYO証券(東京地方裁判所平成28年5月23日判決) 株価指数証拠金取引(くりっく株365)について説明義務違反,過当売買の勧誘等の違法性を認め,過失相殺を否定して損害賠償請求を全部認容した事例 6.KOYO証券(東京地方裁判所令和6年11月13日判決) 株価指数証拠金取引(くりっく株365)について新規委託者保護義務違反、過当取引の違法性を認めた事例 7.サンワード貿易(東京地方裁判所令和4年2月18日、東京高等裁判所令和5年3月16日) 先物取引業者の外務員が作成した日誌の信用性を否定した上で、両建の危険性に着目し、説明義務違反、過当取引ないし指導助言義務違反の違法性を認めた事例 8.第一商品(東京高等裁判所平成26年7月17日判決) 控訴審から委任を受けた事件について控訴審で逆転一部勝訴したもの 9.第一商品(東京高等裁判所平成31年3月28日判決,東京地方裁判所平成30年9月28日判決) 先物取引について指導助言義務違反を認めた事例 10.カネツ商事,カネツFX証券(東京地方裁判所平成25年8月29日判決) 精神疾患を有していた被害者について損害賠償請求を全部認容したもの 11.豊トラスティ証券(旧商号:豊商事)(東京地方裁判所令和3年3月23日判決、東京高等裁判所令和4年9月15日判決) 外国為替証拠金取引(くりっく365)と商品先物取引の双方について説明義務違反の違法性を認めた事例 12.コメックス(東京地方裁判所平成22年5月25日判決) 認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 13.豊商事
(東京地方裁判所平成29年8月9日判決)
株価指数証拠金取引(くりっく株365。顧客自身がインターネットで注文する形式)と商品先物取引の両方について説明義務違反,断定的判断の提供の違法性を認めた事例 14.第一商品
(東京地方裁判所平成26年3月24日判決,東京高等裁判所平成26年10月8日判決)
顧客が取引口座申込書に,自己の資産や収入と大きく相違する資産及び収入の金額を自らの一存で記載する理由は考えがたいと判示するもの 15.KOYO証券
(東京地方裁判所平成27年5月28日,東京高等裁判所平成27年10月21日)
スマートCX取引を契機とした不招請勧誘により開始された商品先物取引について過失相殺を否定して損害の全部の賠償を命じたもの 16.第一商品
(東京高等裁判所平成25年3月28日判決,東京地方裁判所平成24年11月2日判決)
被害者の病歴を確認するべきであるとする指摘,平行して行わされていたFX取引と合わせて新規委託者保護義務違反を認めているところが有意である 17.第一商品
(東京地方裁判所平成22年10月29日判決,東京高等裁判所平成23年4月27日判決)
金現物取引に端を発する被害。過失相殺を2割にとどめている 18.岡藤商事
(東京地方裁判所平成24年3月1日判決,東京高等裁判所平成24年6月27日判決)
複数の先物取引の経験を有する壮年者について,借入を始めた後の取引について適合性原則違反を認め,取引の全体について客観的履歴から違法性を認めたもの 19.オプションズ(東京地方裁判所平成23年7月15日判決) 海外先物オプション取引被害事案。先物取引の経験を「被害の経験」であると評価して過失相殺に結びつけていない 20.Systematic Trading Solution(Japan)(東京地方裁判所平成20年5月30日判決) 海外先物取引被害事案 21.エー・シー・イー・インターナショナル(東京地方裁判所平成17年10月25日判決) 海外先物オプション取引被害事案。詳細な事実認定を基礎にして業者の体質自体に厳しい非難を向けている 22.小林洋行(東京地方裁判所平成17年12月20日判決) 被害に引き込まれている被害者の状況を正解し,過失相殺を2割にとどめている 23.オリオン交易(東京地方裁判所平成18年3月29日判決) 先物業者の訴訟追行態度に悪質さがにじみ出た事案。過失相殺を否定している 24.C&Pインデックス(東京地方裁判所平成17年3月4日判決) 海外先物オプション取引被害事案。業者の体質に厳しい非難を向けている 25.大起産業
(東京高等裁判所平成18年11月15日判決,東京地方裁判所平成18年6月5日判決)
自己以外の資金を用いて鞘取取引を開始させられた事案 26.バリオン(東京地方裁判所平成23年8月31日判決) 海外先物取引被害事案。管理担当者や初回入金までしか関与していない者に責任を認めている。先物取引の経験を「被害の経験」と位置付けて適合性原則違反を肯定する事情として評価している 27.カネツ商事
(東京地方裁判所平成19年7月23日判決,東京高等裁判所平成20年1月24日判決)
1審は過失相殺を否定したが,控訴審によって過失相殺がされた事例 28.PCSJ(東京地方裁判所平成22年10月26日判決) 海外先物取引被害事案。向かい玉に関する説明義務違反を認めている 29.日本インベストメントプラザ(東京地方裁判所平成21年6月25日判決) 海外先物取引被害事案についてのみ行為の違法性を認めたもの