本件は、外務員の勧誘を受けて、会社代表者が個人としてFX取引(くりっく365)を行うとともに、法人名義でもFX取引及び商品先物取引を行なった事案である。途中で10か月間ほど取引が中断しているものの、全体の取引期間は5年半と長く、その間、個人FX、法人FX及び法人先物の全てについて、多数の両建を含む頻繁な取引が行われている。
一審判決は、本件取引について取引開始後直ぐに両建が行われ、その後も両建が継続していることなどの事実関係を適示し、顧客が自らの判断で難易度が高く手数料がかさむ両建を行っていたのではなく、むしろ被告従業員が両建について十分な説明をしなかったことから、顧客は取引の仕組みやリスクに関する理解を欠いたまま、被告授業員らの勧誘に従って取引を繰り返していたと判示して、説明義務違反の違法性を認めた(過失相殺、FXにつき6割、商品先物につき3割)。
控訴審判決は、法令が両建勧誘を禁止している趣旨について、「顧客の相場予想が当たっても当たらなくても、取引業者は取引ごとに手数料収入を得ることができるという取引の利益構造や、顧客にとっての取引の危険性に照らして取引業者が顧客の利益を軽視して手数料収入を得ようとすることを防止する趣旨であると解される。」と指摘した上で、「この趣旨からしても、・・、信義則に基づき、・・契約上の取引が開始された後においても、・・両建の仕組み、リスク等を十分に説明すべき義務を負う」と判示した(取引開始後の両建に関する説明義務)。
そして、各取引は従業員らの助言等の影響下で行われているにもかかわらず、FX取引では両建を含む頻繁売買が行われていること、商品先物取引では常時両建状態のまま頻繁売買が行われているが、両建の多用等に合理性は見いだし難く、全体的に合理性を欠く取引であったことを理由に、各取引について十分な説明をしなかった注意義務違反があったと判示して、説明義務違反の違法性を認めた(過失相殺は原審維持)。
両建勧誘が禁止されている趣旨を、業者と顧客との利益相反性という一般原則に求めていることや、これを理由に業者に対し取引開始後にも説明義務を課している点で、向い玉の説明義務を認定した最判平成21年7月16日民集63巻6号1280頁の考え方と類似しており、他の事案への汎用性が高い判示内容になっている(両建に関する判示内容は概ね東京高判平成31年3月28日判タ1483号111頁を踏襲しているものと考えられる。)。
地裁判決PDFその1(双方控訴)
地裁判決PDFその2(双方控訴)
地裁判決PDFその3(双方控訴)
⇒先物取引裁判例集86巻1頁
高裁判決PDF(確定)
⇒先物取引裁判例集86巻92頁
(東京地方裁判所令和3年6月18日判決) 新規委託者保護義務違反を検討する際の投資可能資金額と確定損失等の関係についての判断を示した裁判例 2.カネツ商事
(東京地方裁判所平成21年10月6日判決,東京高等裁判所平成22年3月17日判決) 先物取引被害について過失相殺を否定して全部賠償を命じた控訴審判決 3.オービット・キャピタル・マネジメント(東京地方裁判所平成17年2月24日判決)訴訟係属中に被害者から訴え取下書を徴求して提出した業者の行為を正義に反するとして訴えの取下の効果を否定したもの
4.オリオン交易・カネツ商事(東京地方裁判所平成19年1月22日判決) 先物取引被害について客観的取引履歴から説得的に違法性を見いだすもの 5.KOYO証券(東京地方裁判所平成28年5月23日判決) 株価指数証拠金取引(くりっく株365)について説明義務違反,過当売買の勧誘等の違法性を認め,過失相殺を否定して損害賠償請求を全部認容した事例 6.KOYO証券(東京地方裁判所令和6年11月13日判決) 株価指数証拠金取引(くりっく株365)について新規委託者保護義務違反、過当取引の違法性を認めた事例 7.サンワード貿易(東京地方裁判所令和4年2月18日、東京高等裁判所令和5年3月16日) 先物取引業者の外務員が作成した日誌の信用性を否定した上で、両建の危険性に着目し、説明義務違反、過当取引ないし指導助言義務違反の違法性を認めた事例 8.第一商品(東京高等裁判所平成26年7月17日判決) 控訴審から委任を受けた事件について控訴審で逆転一部勝訴したもの 9.第一商品(東京高等裁判所平成31年3月28日判決,東京地方裁判所平成30年9月28日判決) 先物取引について指導助言義務違反を認めた事例 10.カネツ商事,カネツFX証券(東京地方裁判所平成25年8月29日判決) 精神疾患を有していた被害者について損害賠償請求を全部認容したもの 11.豊トラスティ証券(旧商号:豊商事)(東京地方裁判所令和3年3月23日判決、東京高等裁判所令和4年9月15日判決) 外国為替証拠金取引(くりっく365)と商品先物取引の双方について説明義務違反の違法性を認めた事例 12.コメックス(東京地方裁判所平成22年5月25日判決) 認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 13.豊商事
(東京地方裁判所平成29年8月9日判決) 株価指数証拠金取引(くりっく株365。顧客自身がインターネットで注文する形式)と商品先物取引の両方について説明義務違反,断定的判断の提供の違法性を認めた事例 14.第一商品
(東京地方裁判所平成26年3月24日判決,東京高等裁判所平成26年10月8日判決) 顧客が取引口座申込書に,自己の資産や収入と大きく相違する資産及び収入の金額を自らの一存で記載する理由は考えがたいと判示するもの 15.KOYO証券
(東京地方裁判所平成27年5月28日,東京高等裁判所平成27年10月21日) スマートCX取引を契機とした不招請勧誘により開始された商品先物取引について過失相殺を否定して損害の全部の賠償を命じたもの 16.第一商品
(東京高等裁判所平成25年3月28日判決,東京地方裁判所平成24年11月2日判決) 被害者の病歴を確認するべきであるとする指摘,平行して行わされていたFX取引と合わせて新規委託者保護義務違反を認めているところが有意である 17.第一商品
(東京地方裁判所平成22年10月29日判決,東京高等裁判所平成23年4月27日判決) 金現物取引に端を発する被害。過失相殺を2割にとどめている 18.岡藤商事
(東京地方裁判所平成24年3月1日判決,東京高等裁判所平成24年6月27日判決) 複数の先物取引の経験を有する壮年者について,借入を始めた後の取引について適合性原則違反を認め,取引の全体について客観的履歴から違法性を認めたもの 19.オプションズ(東京地方裁判所平成23年7月15日判決) 海外先物オプション取引被害事案。先物取引の経験を「被害の経験」であると評価して過失相殺に結びつけていない 20.Systematic Trading Solution(Japan)(東京地方裁判所平成20年5月30日判決) 海外先物取引被害事案 21.エー・シー・イー・インターナショナル(東京地方裁判所平成17年10月25日判決) 海外先物オプション取引被害事案。詳細な事実認定を基礎にして業者の体質自体に厳しい非難を向けている 22.小林洋行(東京地方裁判所平成17年12月20日判決) 被害に引き込まれている被害者の状況を正解し,過失相殺を2割にとどめている 23.オリオン交易(東京地方裁判所平成18年3月29日判決) 先物業者の訴訟追行態度に悪質さがにじみ出た事案。過失相殺を否定している 24.C&Pインデックス(東京地方裁判所平成17年3月4日判決) 海外先物オプション取引被害事案。業者の体質に厳しい非難を向けている 25.大起産業
(東京高等裁判所平成18年11月15日判決,東京地方裁判所平成18年6月5日判決) 自己以外の資金を用いて鞘取取引を開始させられた事案 26.バリオン(東京地方裁判所平成23年8月31日判決) 海外先物取引被害事案。管理担当者や初回入金までしか関与していない者に責任を認めている。先物取引の経験を「被害の経験」と位置付けて適合性原則違反を肯定する事情として評価している 27.カネツ商事
(東京地方裁判所平成19年7月23日判決,東京高等裁判所平成20年1月24日判決) 1審は過失相殺を否定したが,控訴審によって過失相殺がされた事例 28.PCSJ(東京地方裁判所平成22年10月26日判決) 海外先物取引被害事案。向かい玉に関する説明義務違反を認めている 29.日本インベストメントプラザ(東京地方裁判所平成21年6月25日判決) 海外先物取引被害事案についてのみ行為の違法性を認めたもの