2.大和証券

(東京地方裁判所令和4年3月15日判決)

 証券担保ローンの借入金を原資として、証券取引を行うよう勧誘することは、(少なくとも実質的に)信用取引(金商法156条の24第1項「金融商品取引業者が顧客に信用を供与して行う有価証券の売買」)の勧誘に該当すると言える。例えば、3000万円の自己資金を有する者に対して、1億円の貸し付けを行い、合計1.3億円の証券取引を行わせる場合、1億円の部分については証券会社が顧客に信用を供与して取引を行わせていると評価しうる。
 原告は、本件取引が信用取引であることを前提として、適合性原則違反であることや、説明義務違反に該当する違法行為があると主張していたが、本判決は、本件取引が信用取引に該当するか否かという基本的な前提問題について明確な判断は行わなかった。
 他方で本判決は、アラームレベル3(借入元金が担保評価額の85%を上回った場合)に到達し、レバレッジリスクが約6倍に到達した段階で、原告が有価証券の売却により借入金の返済を提案した際、大和証券従業員が、原告の保有する有価証券の時価評価額や、強制決済されることになるアラートレベル4の発生までどの程度余裕があるか把握しておらず、原告が担保に供している有価証券にどの程度の担保余力があるかを念頭に置かないまま、原告に対し、評価額が回復する可能性が高いから、有価証券の売却による借入金の返済については後日判断すべきであると述べるだけでなく、(証券担保ローンを取り扱う)ローンビジネス部から連絡が来ても、「保有する有価証券を売却する予定であり、担当者と相談しながら算段している」と言っておけば、証券担保ローンの返済のために急に強制的に有価証券を売却されることはないと述べ、ローンビジネス部への対応方法まで教示し、(有価証券を売却してローンを返済しようという)原告の意思を変更させて、取引を継続するよう誘導したことについて、原告の意思決定を阻害する行為であって違法であると判示し、同日以降に生じた損害約1726万円(及び弁護士費用)全額について原告に賠償するよう命じた(過失相殺無し)。
 証券担保ローンを利用して証券取引を行う場合、通常の取引と異なり、販売手数料(本件で取引された投資信託であれば主に約2~3%前後)だけではなく、証券担保ローンの金利(約1.9~3.9%)負担も考慮したうえで取引をしなければならない。反対に、証券会社側から見れば、証券担保ローンを原資として証券取引を勧誘すれば、販売手数料だけでなく、貸付金利も得られることになる。このように証券会社と顧客との関係では、利害が対立する場面が生じるが、金融庁が推し進める「顧客本位の業務運営に関する原則」では、顧客の最善の利益の追求するための行動や、顧客にふさわしいサービスの提供、あるいは適切なガバナンス体制の整備等が謳われており、多くの証券会社が同原則を採択しているのであるから、勧誘の実態が同原則に沿う内容になることが強く望まれる。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(業者側控訴、原判決変更、請求棄却)

1.レセプト債
(東京地判令和4年3月31日判決、東京高等裁判所令和5年11月8日判決)
「レセプト債」の証券化スキームにおいてSPC管理を受託していた会計事務所等の共同不法行為責任を認めた事例
2.大和証券
(東京地方裁判所令和4年3月15日判決)
大手証券会社である大和証券が、当時50代の主婦に対して、主婦が保有する有価証券を担保に合計9640万円の貸付けを行い(証券担保ローン)、当該証券担保ローンの借入金を原資として、仕組み債や投資信託など46銘柄の売買を繰り返し行わせた結果、全ての金融資産が失われた事案について、大和証券に対する損害賠償請求が一部認容された事例
3.静銀ティーエム証券
(東京地方裁判所平成23年2月28日判決)
銀行系証券会社によるノックイン型投資信託勧誘事案
4.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション
(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)
ロスカット・ルールに関する重要な初判断
5.リソー教育
(東京地方裁判所平成29年3月28日判決,東京高等裁判所平成29年9月25日判決)
有価証券報告書等の虚偽記載等により生じた株価下落につき,株式会社リソー教育に対し,金融商品取引法21条の2第1項に基づき,第三者委員会設置の発表前に株式を取得した株主らについて,第三者委員会設置発表前終値から処分価格の差額を損害としてその賠償を認めた事案
6.アルファエフエックス
(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)
区分管理を怠った業者の役員らの責任に関する判決
7.アーバンコーポレイション役員ら
(東京地方裁判所平成24年6月22日)
アーバンコーポレイション事件の対役員らの判決
8.アーバンコーポレイション査定異議訴訟
(最高裁判所平成24年12月21日判決)
アーバンコーポレイション事件の対会社の判決群
9.野村證券
(東京地方裁判所平成25年7月19日判決)
仕組債の時価評価についての説明義務違反など 10.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン
(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)
情報商材業者や,これを利用して集客していた業者の違法性を肯定したもの 11.KOYO証券
(東京地方裁判所平成28年5月23日判決)
株価指数証拠金取引(くりっく株365)について説明義務違反,過当売買の勧誘等の違法性を認め,過失相殺を否定して損害賠償請求を全部認容した事例 12.SMBCフレンド証券
(東京地方裁判所平成17年7月22日判決)
日経225先物オプション取引被害事案