9.野村證券

(東京地方裁判所平成25年7月19日判決)

 野村証券の従業員が,50代の専業主婦に対して,その保有資産の大半にあたる5000万円を,重大なリスクを有する仕組債に集中投資させ,約4700万円の損害を生じさせた事案について,適合性原則違反,説明義務違反を認めて損害賠償請求を認容した事例(過失相殺5割)

 本判決では,野村證券従業員が顧客の適合性を判断するチェックシートに原告に確認をしないまま原告が2億円の金融資産を有するとの虚偽の記載をして,会社内部での適合性審査を通過させた事実を指摘したうえで,本件仕組債がプットオプションの売り取引により日経平均株価の下落率の2倍のレバレッジをもって損失が拡大する性質を有するという重大なリスクを伴っているにもかかわらず,オプション取引の経験もなく,そのリスク評価の手法も全く知らない専業主婦の原告に対し,金融資産の大半にあたる5000万円もの集中投資を本件仕組債にさせたことをとらえて,適合性原則に著しく反し,不法行為としての違法性を有すると評価した。

 また,オプション取引のリスクの特性の大きさ,あるいはリスク評価方法も知らず,リスクを緩和するヘッジ取引をする知識も能力もない者に対し,取引の特性,リスクの大きさや評価手法も説明しないまま,将来の予想をさせただけで,プットオプションの売り取引による損失リスクを負担する取引をさせることは,証券会社と一般投資家との金融工学の知識の著しい格差を利用し,これを知らない投資家の無知に付け込んで利益を求めるに等しいと断じたうえで,オプション取引のリスクの特性及び大きさを金融工学の専門家として熟知している証券会社である被告及びその従業員は,オプション取引の経験がない一般投資家に過ぎない原告に対し,実質的にプットオプションの売り取引による損失リスクを負担させる金融商品を勧誘するにあたっては,金融工学の常識に基づき,他の金融商品とは異なるオプション取引のリスクの特性及び大きさを十分に説明し,かつ,そのようなリスクの金融工学上の評価手法を理解させた上で,オプション取引によって契約時に直ちにしかも確定的に引き受けなければならない将来にわたる重大なリスクを適正に評価する基礎であるボラティリティ,ノックイン確率ないし確率的に予想される元本毀損の程度などについて,顧客が理解するに足る具体的でわかりやすい説明をすべき信義則上の義務があったにもかかわらず,そのような説明義務に違反した過失があったとして説明義務違反を認定した。

残念ながら本判決は控訴審で取り消され,最高裁への上告受理申立ても容れられなかった。

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⇒金融・商事判例1425号金判SUPPLEMENTvol.58
⇒証券取引被害判例セレクト46巻76頁
⇒金融法務事情2012号94頁

1.レセプト債
(東京地判令和4年3月31日判決、東京高等裁判所令和5年11月8日判決)
「レセプト債」の証券化スキームにおいてSPC管理を受託していた会計事務所等の共同不法行為責任を認めた事例
2.大和証券
(東京地方裁判所令和4年3月15日判決)
大手証券会社である大和証券が、当時50代の主婦に対して、主婦が保有する有価証券を担保に合計9640万円の貸付けを行い(証券担保ローン)、当該証券担保ローンの借入金を原資として、仕組み債や投資信託など46銘柄の売買を繰り返し行わせた結果、全ての金融資産が失われた事案について、大和証券に対する損害賠償請求が一部認容された事例
3.静銀ティーエム証券
(東京地方裁判所平成23年2月28日判決)
銀行系証券会社によるノックイン型投資信託勧誘事案
4.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション
(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)
ロスカット・ルールに関する重要な初判断
5.リソー教育
(東京地方裁判所平成29年3月28日判決,東京高等裁判所平成29年9月25日判決)
有価証券報告書等の虚偽記載等により生じた株価下落につき,株式会社リソー教育に対し,金融商品取引法21条の2第1項に基づき,第三者委員会設置の発表前に株式を取得した株主らについて,第三者委員会設置発表前終値から処分価格の差額を損害としてその賠償を認めた事案
6.アルファエフエックス
(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)
区分管理を怠った業者の役員らの責任に関する判決
7.アーバンコーポレイション役員ら
(東京地方裁判所平成24年6月22日)
アーバンコーポレイション事件の対役員らの判決
8.アーバンコーポレイション査定異議訴訟
(最高裁判所平成24年12月21日判決)
アーバンコーポレイション事件の対会社の判決群
9.野村證券
(東京地方裁判所平成25年7月19日判決)
仕組債の時価評価についての説明義務違反など 10.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン
(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)
情報商材業者や,これを利用して集客していた業者の違法性を肯定したもの 11.KOYO証券
(東京地方裁判所平成28年5月23日判決)
株価指数証拠金取引(くりっく株365)について説明義務違反,過当売買の勧誘等の違法性を認め,過失相殺を否定して損害賠償請求を全部認容した事例 12.SMBCフレンド証券
(東京地方裁判所平成17年7月22日判決)
日経225先物オプション取引被害事案