「商品CFD取引」と称する取引について,賭博としての実質的違法性があり,適合性原則に違反するとして業者・取締役・従業員(管理担当者を含む)に対する損害賠償請求を全部認容した事例。
いわゆる「ロコ・ロンドンまがい取引」(「スポット貴金属取引」,「貴金属CFD取引」などと称される私的差金決済取引商法群)については,私的差金決済取引であることに着目してこれを賭博に該当するものとし,その証拠金のために金銭の交付を求めること自体に不法行為法上の違法性があるとする裁判例が集積されてきており,被害救済実務の迅速に寄与してきたが,必ずしも私的差金決済取引の実質的違法性に踏み込んで考察したものではなく,議論を消化しきれないままに結論してきたきらいがなかったわけではない。近時,大手の証券会社なども取引を外形的に見れば同一の仕組みであるように見える取引を取り扱うようになっていることもあって,私的差金決済取引を賭博に該当するとして不法行為法上違法と即断することに躊躇が感じられることもあろう。しかし,大規模な被害を生じさせているこの種の取引については,被害回復の迅速の要請もあり,いわゆる「まがい取引」については取引の仕組み自体を違法と評価する枠組み自体は維持されるべき要請がなお強い。本判決は,そうした問題意識の中で,この種取引が形式的に賭博行為に当たるとの判断に加えて,実質的に賭博としての違法性を備えているか否かを詳細に判断しており,ひときわ強い説得力を有しているものと感じられる。
本件は,重度の視力障害者である被害者から詐欺業者が命金のすべてを奪ったという,ひどい事件であった。被害者は,ほとんど目が見えないのに,「先生,そこに私の署名がありませんか,やっぱり私が悪いんです」などという。それは,違う。あなたはちっとも悪くない。幸いにして私には矯正すれば満足な視力と,弁護士の資格と,悪行を働いた彼らに勝る知恵がある。知識と若干の経験と,ノウハウもある。私が助けてあげる。職業として正義を行っているという,青臭い使命感を感じる不遜を赦して欲しい。
こういう事件の書面では,何かしらの「力み」が出る。こういう事件で力まなかったら弁護士はつまらない。後から読み返して恥ずかしいくらいの書面ががちょうどいい。今回の事件記録にも,振り返ってみると,「力み」があった。長々とした第1準備書面の冒頭らあたりに,「言いたいことは山ほどある。」と書いてある。それなら別に黙って山ほど書けばいいじゃないかとか,もう山ほど書いてるじゃないか,とかといった突っ込みを自らしたくなるが,それはそれで,ご愛敬。
弁論終結後に急遽仮差押をすることとして,弁護士費用相当損害金を含む全損害について仮差押を奏功させ,判決後に差押命令及び転付命令を得てその確定を見た。こういう悲惨な事案で,かつ被害金額が巨額である場合に,迅速に現実の被害回復が達せられたときには,本当にうれしい。
判決PDF(確定)
⇒消費者法ニュース86号196頁
⇒先物取引裁判例集62巻254頁
(東京高等裁判所平成20年10月30日判決) この種取引の取引自体の違法性に関して最も援用されることが多い判決
2.ロイヤルトラストインターナショナル
(東京地方裁判所平成25年12月12日判決) 金地金取引分割払取引業者らに損害賠償を命じるもの
3.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年11月4日判決) 凄惨な被害に対する,裁判所の優しさのうかがわれる判決
4.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成28年12月26日判決) CO2排出権取引商法に藉口した詐欺商法について,個別の勧誘担当者のみではなく,業者の営業担当従業員全員に対して,違法行為を助長又は幇助したものとして損害賠償を命じた事例
5.ゴールドリンク
(東京高等裁判所平成30年1月25日判決,東京地方裁判所平成29年7月5日判決) 貴金属分割払いまがい取引である「ゴールド積立くん」「プラチナ積立くん」(商標登録を得ているようである)などと称する商法を公序良俗に反するとして損害賠償請求を全部認容した事例
6.CIS
(東京地方裁判所令和元年11月26日判決) 貴金属分割払いまがい取引の違法性を詳細に判示したもの
7.あおぞら,海翔物産
(東京高等裁判所平成28年4月13日判決,東京地方裁判所平成27年9月18日判決) CO2排出権取引をAX Markets Limited社を通じて取り次ぐと称していたこと自体が詐欺に当たるとして損害賠償請求を認容した事例
8.プロフトラスト
(東京高等裁判所平成24年4月26日判決,東京地方裁判所平成22年6月10日判決) この種商法を行う業者の構成員が個別の関与にかかわらず責任を負うとしたもの
9.アドニス
(東京地方裁判所平成26年7月18日判決) 金地金売買契約について,詳細な検討を加えて公序良俗に違反すると判示したもの
10.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成26年12月4日判決) CO2排出権取引商法を公序良俗に反すると断じたもの。損益相殺の否定,被害者との個別具体的な接触のない構成員の責任,不法原因給付の主張の排斥,和解契約の否定など見るべきところも多い
11.フロンティア・エッジ
(東京地方裁判所平成25年3月19日判決) この種商法の仕組み自体の違法性について説得的な判示をしている
12.日本デリックス
(東京高等裁判所平成25年4月11日判決) CO2排出権取引商法に関するもの 13.ネクストライフ
(東京地方裁判所平成26年10月21日判決) CO2排出権取引商法に関するもの 14.ARAIアセットほか
(東京地方裁判所平成25年11月20日判決) 他社移籍後の取引の拡大についての責任,首謀的構成員の責任,破産・免責を受けた代表者の責任 15.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年8月25日判決,東京高等裁判所平成23年1月20日判決) 被害者が亡くなっている場合の適合性原則違反の主張立証に参考になる 16.プロフィット・コム
(東京地方裁判所平成23年11月22日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 17.テクノ(東京地方裁判所平成24年1月18日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性の評価を誤っていたとしても責任は左右されないと判示している 18.K&Kパートナーズ
(東京地方裁判所平成21年10月1日判決) CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 19.ファーストエージェント
(東京地方裁判所平成21年5月25日判決) スポット貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。取引益金の請求ができないことが明示されている部分がこの種商法の違法性をより強固に基礎付けうることとなった 20.ファーストエージェント
(東京高等裁判所平成20年3月27日判決,東京地方裁判所平成19年10月25日判決) ロコロンドン貴金属商法についての初期の判決。業者からは判決にかかわらず損害の全部の賠償を受けた 21.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年3月25日判決) 貴金属スポット保証金取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性阻却事由がないこと,取引が正当なものだと信じていたと主張した勧誘担当者の責任,過失相殺の明示的な否定に見るべきところがある 22.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年4月10日判決) 16と同旨 23.K・モンスター
(東京地方裁判所平成21年3月16日判決,東京地方裁判所平成21年6月29日判決,東京高等裁判所平成21年7月15日判決) ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。業者の従業員がキャッシュカードを預かって勝手に金を引き出していたことが認定されている 24.ファーストライン(旧商号ジョイコーポレイション)
(東京地方裁判所平成26年11月13日判決) 口座開設後に辞任した役員らの責任を認めたもの 25.プロフトラスト
(東京地方裁判所平成21年10月5日判決) ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。スワップポイントを損害から控除していない 26.プロフィットコム
(東京地方裁判所平成21年12月16日判決) ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。先物取引の経験がある被害者について明示的に過失相殺を否定している 27.川研ファクター
(東京地方裁判所平成18年12月27日判決) ニッパチ商法に関するもの。この種商法の違法性を端的に指摘する裁判例は珍しい