金・白金の地金を分割払で購入するという契約の外形を取って金銭を騙取する近時多発している商法について,詳細な判断を加えて同取引を公序良俗に違反するとして損害賠償請求を全部認容したもの。
判示の概要は,以下のとおり。
20年間もの長期にわたって分割金を支払い,金等地金の引渡しを受けること自体に大きな意味はないこと,本件各契約は,顧客による中途解約が自由であることを考慮すると,本契約の主たる目的は,顧客が20年後に金等地金の引渡しを受けることにあるのではなく,任意の時点で中途解約をして解約時の金等の時価と契約時のそれとの差金を取得することにあると認められ,原告及び被告会社はそれを前提に本件各契約の内容を合意したものと認められ,本件各契約は,形式的には金等の割賦販売契約であるが,実質的には差金の授受によって契約関係から離脱することができる差金決済契約,先物取引である。先物取引は差金決済によって取引関係から離脱することができ,過当な投機や不健全な取引となる危険が大きいことから,類似施設の開設が禁じられ,相場による賭博行為が禁止されている。これら規程は委託者等の保護を目的とするものであるから,本件各契約が公序良俗に反するものといえるかどうかを判断するには,取引秩序の維持及び委託者保護のための方策が講じられていたかどうかを考慮する必要がある。
被告会社は,顧客との間で139キログラムの金等の積立取引を継続中であるにもかかわらず,実際に保有している金等地金は合計665グラムにすぎないし,他に資産を有しているとも認められない。本件各契約の期間が20年という長期に及ぶことからすると,契約期間中に金等の価格が高騰した場合,多くの顧客が中途解約による清算又は早受渡しを希望することが容易に想定されるところ,上記のような被告会社の資産状況の下で,中途解約に応じて解約清算金を支払うことや,高騰した金等地金を取得して顧客に引き渡すことが可能であるとは考えにくく,仮に可能であるとしても,それは被告会社に巨額の損失を生じさせ,被告会社の存続自体を危うくさせるものである。取引秩序の維持についての制度的担保が存在しない本件各契約のような金等地金の先物取引においては,顧客による投下資金の回収又は金等地金の引渡しの可能性は被告会社の資産状況に依存することになるところ,上記の被告会社の資産状況に照らすと,被告会社の顧客は,被告会社の信用力について多大なリスクを負っていたものと認められるが,このようなリスク説明はない。
本件各契約は,240回の分割払であるにもかかわらず,1回目の分割金は,手数料を含むことから取引総額の1割程度の50万円又は60万円である。そして,契約条項によれば,満期受渡し,早受渡し及び中途解約のいずれにおいても,手数料は被告会社の利益となる。また,金等の価格が下落し,顧客が中途解約した場合には,顧客には損失が生じる一方,被告会社は利益を得る。金等の価格が上昇し,顧客が中途解約による清算又は早期受渡しを希望した場合には,計算上,顧客が利益を得て被告会社に損失が生じることになるが,顧客は投下資金の回収や金等地金の引渡しを受けることができないリスクを負っているが,このような説明もしていない。
本件各契約は,解約時の東京商品取引所の相場と契約時のそれとの差金を取得し,これにより契約関係から離脱することができ,投機性の高い取引を内容とする先物取引に該当し,商品先物取引法の相場による賭博行為の禁止等の規定に違反すると認められるところ,上記のとおり,取引秩序の維持及び委託者保護のための方策が講じられたものとはいえないから,公序良俗に反し,違法である。
判決PDF(確定)
⇒金融・商事判例1448号金判SUPPLEMENTVol.69
⇒先物取引裁判例集71巻369頁
⇒消費者法ニュース101号325頁
(東京高等裁判所平成20年10月30日判決) この種取引の取引自体の違法性に関して最も援用されることが多い判決
2.ロイヤルトラストインターナショナル
(東京地方裁判所平成25年12月12日判決) 金地金取引分割払取引業者らに損害賠償を命じるもの
3.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年11月4日判決) 凄惨な被害に対する,裁判所の優しさのうかがわれる判決
4.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成28年12月26日判決) CO2排出権取引商法に藉口した詐欺商法について,個別の勧誘担当者のみではなく,業者の営業担当従業員全員に対して,違法行為を助長又は幇助したものとして損害賠償を命じた事例
5.ゴールドリンク
(東京高等裁判所平成30年1月25日判決,東京地方裁判所平成29年7月5日判決) 貴金属分割払いまがい取引である「ゴールド積立くん」「プラチナ積立くん」(商標登録を得ているようである)などと称する商法を公序良俗に反するとして損害賠償請求を全部認容した事例
6.CIS
(東京地方裁判所令和元年11月26日判決) 貴金属分割払いまがい取引の違法性を詳細に判示したもの
7.あおぞら,海翔物産
(東京高等裁判所平成28年4月13日判決,東京地方裁判所平成27年9月18日判決) CO2排出権取引をAX Markets Limited社を通じて取り次ぐと称していたこと自体が詐欺に当たるとして損害賠償請求を認容した事例
8.プロフトラスト
(東京高等裁判所平成24年4月26日判決,東京地方裁判所平成22年6月10日判決) この種商法を行う業者の構成員が個別の関与にかかわらず責任を負うとしたもの
9.アドニス
(東京地方裁判所平成26年7月18日判決) 金地金売買契約について,詳細な検討を加えて公序良俗に違反すると判示したもの
10.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成26年12月4日判決) CO2排出権取引商法を公序良俗に反すると断じたもの。損益相殺の否定,被害者との個別具体的な接触のない構成員の責任,不法原因給付の主張の排斥,和解契約の否定など見るべきところも多い
11.フロンティア・エッジ
(東京地方裁判所平成25年3月19日判決) この種商法の仕組み自体の違法性について説得的な判示をしている
12.日本デリックス
(東京高等裁判所平成25年4月11日判決) CO2排出権取引商法に関するもの 13.ネクストライフ
(東京地方裁判所平成26年10月21日判決) CO2排出権取引商法に関するもの 14.ARAIアセットほか
(東京地方裁判所平成25年11月20日判決) 他社移籍後の取引の拡大についての責任,首謀的構成員の責任,破産・免責を受けた代表者の責任 15.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年8月25日判決,東京高等裁判所平成23年1月20日判決) 被害者が亡くなっている場合の適合性原則違反の主張立証に参考になる 16.プロフィット・コム
(東京地方裁判所平成23年11月22日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 17.テクノ(東京地方裁判所平成24年1月18日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性の評価を誤っていたとしても責任は左右されないと判示している 18.K&Kパートナーズ
(東京地方裁判所平成21年10月1日判決) CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 19.ファーストエージェント
(東京地方裁判所平成21年5月25日判決) スポット貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。取引益金の請求ができないことが明示されている部分がこの種商法の違法性をより強固に基礎付けうることとなった 20.ファーストエージェント
(東京高等裁判所平成20年3月27日判決,東京地方裁判所平成19年10月25日判決) ロコロンドン貴金属商法についての初期の判決。業者からは判決にかかわらず損害の全部の賠償を受けた 21.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年3月25日判決) 貴金属スポット保証金取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性阻却事由がないこと,取引が正当なものだと信じていたと主張した勧誘担当者の責任,過失相殺の明示的な否定に見るべきところがある 22.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年4月10日判決) 16と同旨 23.K・モンスター
(東京地方裁判所平成21年3月16日判決,東京地方裁判所平成21年6月29日判決,東京高等裁判所平成21年7月15日判決) ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。業者の従業員がキャッシュカードを預かって勝手に金を引き出していたことが認定されている 24.ファーストライン(旧商号ジョイコーポレイション)
(東京地方裁判所平成26年11月13日判決) 口座開設後に辞任した役員らの責任を認めたもの 25.プロフトラスト
(東京地方裁判所平成21年10月5日判決) ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。スワップポイントを損害から控除していない 26.プロフィットコム
(東京地方裁判所平成21年12月16日判決) ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。先物取引の経験がある被害者について明示的に過失相殺を否定している 27.川研ファクター
(東京地方裁判所平成18年12月27日判決) ニッパチ商法に関するもの。この種商法の違法性を端的に指摘する裁判例は珍しい